第24話朝ちゅん


窓から差し込む木漏れ日。

外からかすかに聞こえてくる鳥の声。

爽やかな朝だ。



日差しと鳥の声で目が覚めたのは新妻にいつ ゆい



どうやら今日もいい天気のようだ。

軽く伸びをして身体を起こすために手をつく…。



「ん…。」

手に感じたベッドではない硬い感触と、自分のものではない声。


声のした方を見ると…。





弟月おとづき 佳奈よしながそこにいた。



状況が飲み込めない。


まだ自分の隣で寝ている弟月くん。下半身は布団で見えないが、何故か上半身はパジャマのボタンが外され、はだけている。


慌てて自分の服装をみる。


ブラは、つけてる。

パンツも、履いてる。


よし、よかった。

可愛い下着を選んでおいた甲斐があった。

何事も準備が大事なのだ…。




いやいや、なんでブラとパンツだけなんだ。


冷や汗が頬を流れる。

くだらないことを言っている場合ではなかった。


やっちまった、かもしれない。

私は弟月くんを守るナイト、こんなことあってはならない!


いや、まだだ!まだわからない。

思い出せ、思い出すのだ新妻 結!


寝る前になにがあったのか…。




☆☆☆☆☆




時は遡り

昨夜、就寝前



「じゃあ、どこで誰が寝るかをこれから決めようと思います。」

「弟月くんがベッドは決まりでしょ。ウチらは床かソファーかな。」

「いや、ぼく床で大丈夫だよ。ベッドとソファーはふたりが使って。」


確か昨日は、一応眠くなったときのために寝る場所も決めておくことにしたのだった。


明日香は何としても自分のベッドで弟月くんに寝て欲しい様子。

まぁ同じ立場なら私だって、そうする。


対して弟月くんは遠慮して床で寝るつもりのようだ。

弟月くんの性格を考えれば当然だろう。優しいのだ。



「なら、私のベッドを弟月くんが使ったら?」


ここで乱入してきたのは、明日香のお姉さん。

いい人なんだけど、弟月くんのシャワー中に突入しようとするなど危険人物でもある。


「もちろん、私と一緒に…。」

「はい却下〜。」

「くっ、まぁ私が一緒は冗談よ。けど聞きなさい、結ちゃんも。ふたりにメリットもあるのよ。」

「メリット、ですか?」


お姉さんのところに集まる私と明日香。



「いい?もし弟月くんが目の前で無防備に寝てたら、ふたりはどうする?」


「目の前で…。」

「無防備に…。」







「自分でも何しちゃうか分かんないでしょ?」


お姉さんの言葉に、二人して無言で頷く。

想像したらヤバかった。自分が恐ろしい。


「そんなわけで、弟月くんの貞操を守るため一人で寝てもらうと、私たちは明日香の部屋で三人で寝て監視し合うっていうのはどうよ?」


少しの間考える私と明日香。

けれど、すでに答えは出ていた。


弟月くんと同じ部屋で寝たら自分の理性が持つかあやしい。

そして、この中の誰かを野放しにするのも危険だ。


明日香と目が合う。

どうやら同じ結論に至ったようで、頷く。


それを見てお姉さんも自分の案が通ったことを悟ったようだ。


「それじゃあ、今夜は誰かが抜け出さないように。」





「はい、じゃあ弟月くんには私の部屋で寝てもらうことが決まりました!」

「え、でもお姉さんに悪いですよ⁉︎」

「気にしないで、弟月くんの安全のためなの。」

「まぁまぁ、男女一緒の部屋ってのも不味いでしょ?」

「た、確かに!すいませんお姉さん。」



こうして全員が合意の上で部屋割りが決まったのだった。


ここまではいい。

安全策で間違いも起きないだろうと思える。


問題はこの後…。



「それじゃあ眠くなるまではみんなでワイワイやろう!」


そう言ってお姉さんが取り出したのは…。



どう見てもお酒だった。


「ちょっとバカ姉、それお酒でしょ?」

「そうよ〜。だからこれは私だけね、未成年は飲んじゃダメよ。ここは健全な家だからね!健全な!」


「お姉さん、お酒強そうですね。」

「そうでしょ。弟月くんも大人になったら一緒に飲みましょうね。」

「大人の弟月くんかぁ…。」

「だらしない顔になってるわよ明日香。」


なんてバカ話をしながら、私と明日香が借りてきた全然怖くないホラー映画を観たりして夜を楽しんでいた。


その間にもお姉さんはお酒をたくさん飲んで、どんどん新しい缶を開けていく。




しばらくすると、急に全員が眠気に襲われた。

中でも弟月くんはほとんど寝てしまいそうになっていた。


今考えると、おそらく部屋に充満したお酒の匂いにやられたのだろう。


「…なんかぼく眠くなってきちゃった。」

「弟月くん大丈夫?お姉さんの胸に飛び込んでおいで!」

「明日香、あんたもう約束を忘れたの?」

「そ、そうだった。」


「それじゃ、みんなで弟月くんを私の部屋に連れて行こうか。私だけじゃ心配でしょ?」

間髪いれずに頷く私と明日香。


「自分で聞いておいてだけど、妹とその友達から信頼がまったくない。」




全員で弟月くんをお姉さんの部屋に送る。

眠気でふにゃふにゃになった弟月くんの破壊力はそれはもう大変だった。

私たちはお互いを牽制し、自らの鋼のメンタルで、なんとか自制して部屋を出たのだった。




「それでは、弟月くんが寝たので、ここからはぶっちゃけ女子トーク!を始めたいと思います!」


お酒でいい気分になっているだろうお姉さん、テンションが高い。


「あんた達ぶっちゃけ弟月くんとはどこまで行ったの?」

「どこまでも何もねぇ、結?」

「うん、何もしてない。 …あ、私手を繋いだわ。」

「そうだ⁉︎今日手繋いできたよね!ズルいんだからぁ。」

「だから!あれは逸れないように!」



ワイワイと深夜まで続く女子トーク


そのうち みんなが自然に眠りに落ちていく



そう、一旦は寝たはずだ。

しかも、三人揃って明日香の部屋で!


それが何故。私はお姉さんの部屋で、弟月くんの隣で寝ていたのか…。



思い出せぇ…

思い出すんだ結ぃ。







カッ!


その時、結に電流が走る!


そうだ、あの後…。





「私、エアコンの風ダメなんだよねー。切るね。」

とお姉さんがエアコンを切ってしまい。


「あっつ…。」

「ダメだ。服脱いじゃおう。女同士だしいいでしょ。」


って耐え切れなくなった私と明日香は下着だけになり、



「ちょっとトイレ…。」

「うん…。」


ついでにトイレに行った私は、眠気と涼しさにつられて違う部屋に…。


そのまま弟月くんに気づかずベッドに潜り込んで、今に至ると。






よ、よかった!

何もしてない!

寝ている弟月くんには何もしていない!



しっかりと思い出せたことに安堵していると、勢いよくドアが開かれる。



「いました!新妻容疑者発見!」

「夜這いの現行犯で確保!」

「ちょっと!誤解…⁉︎」


突っ込んでくる姉帯姉妹。


避けられない、世界がスローモーションのようになっていた…。





☆☆☆☆☆




ものすごい大きな音で目が覚める。

あれ、ぼくは昨日寝ちゃったんだっけ?


あまりよく覚えていないが、確か急に眠気が来てお姉さんの部屋で寝かせてもらったはずだ。


みんなは姉帯さんの部屋で寝ると言っていたけど…。




何故か下着姿で絡み合う新妻さんと姉帯姉妹がそこにいた。

なんだか、いけないところを見てしまった気がする。




「ご、ごめんなさい!みんながそんな関係だって知らなくて!」


「え?違っ!」

「誤解よ!お姉さんは弟月くん一筋だからー!」



閑静な住宅街に叫び声が響くのだった。


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