電車にて

 部屋から出ると電車。


 横で誰かが寝ていて、前で誰かがスマホ打っている。小竹向原、と電車が言う。

 もう30度を越えたと言うのに社内は弱冷房で、脇の下がじっとり濡れている。


 座席に座った誰もが寝ている。ベッドでは寝ない。自分の部屋で寝たはずなのに。


 僕のHUAWEIから軽い音がしたので、Pinコードを打ってTwitterを見る。

「君って自分のディスコード持ってんの?」

「持ってないよ」

 ゲーム好きのスコットが国境を超えて絡んでくる。

「じゃあさっきRTしたのは何」

「何でもいいじゃないか」

「そんなことよりゲームしないか? 楽しいからさ」

 来月買うよ、と言ってアプリを閉じる。江戸川橋と電車が言う。


 僕は電車によって揺れている。身体が動いている。でも窮屈だ。バックが膝に当たって痛い。見上げると苦しそうな顔の彫像があった。立っている人は全部彫像。座っている人は辛うじて、部屋で寝ない人。次は飯田橋。


 ディスコードを開く。チャンネルを開き自分の部屋に入る。

 僕の部屋で、誰かが僕の知らない予定を話していた。

「次はいつ会おうか」

「月曜日の夜、銀座とか」

「いいね。そこでミートアップをしよう。そのあと打ち上げだ」

 僕はそれを眺める。スクロールしていく。履歴がたくさんある。僕はディスコードを閉じる。そしてRTする。僕の部屋をRTする。


『大丈夫ですか?』

 OLの彫像が僕に話しかける。

『一緒に降りましょうか? 次の駅』

 次は有楽町。

『すみません、大丈夫です』

 ありがとうございます、僕は席を立って歩く彫像になる。OLはほっとした様子で座席に腰掛け、部屋で眠らない人。

 電車のドアが開く。慣れない空気と匂いに包まれる。一週間ほど髭を剃っていない。

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