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『はい、商品部錦折です』
錦……折?
もしかして、錦折塁?
「あのbeautiful magicの錦織です。いつものシャンプーとトリートメント二十セットお願いします」
『はい。beautiful magicですね。至急手配します』
「あの……もしかして、あなたは……。錦折さんですか?」
『はい。君はもしかして、あの錦織さん?』
「はい。すみません。人事部の手違いがなければ、本来はあなたがここに配属されるはずだったのに……」
『それは君のせいじゃないから気にしないで。beautiful magicはどう? きっと目が回るくらい忙しいんだろうな』
「はい」
『君は美容師の資格あるの?』
「いえ……」
『そう。それは大変ですね』
「錦折さん、異動の見込みは?」
『今のところないね。本間部長に気にいられちゃって。でもこれも経験だと思ってる。商品の知識を学ぶことは、そちらに配属された時に、きっと役に立つと思うから』
ポジティブな性格だな。ネガティブな私とは正反対だ。
声も甘いし、もしも彼がbeautiful magicに配属されていたら、即戦力になり女性にも大人気だったに違いない。
私だけが、場違い。
商品部に戻されても、歓迎されるとは限らない。
『錦織さんも、頑張って下さいね』
「はい、ありがとうございます」
電話を切り、ますます自信を無くす。
このままではダメだ。
笑顔、笑顔。
「類、入荷した新作ワンピ、ブティックのマネキンに着せて」
「はい」
仕事を楽しむ。
私もそう決めたんだから。
後ろばかり向いていられない。
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