第14話 秋雨の中

それは遡ること十年前。革命軍『狼』が、政府軍と激しい交戦をしている時のこと。当時18歳だったエメラは、父親、シェーメルに連れられて、戦闘の最前線へと向かっていた。


その日は雨が降っていた。冬へと向かう秋、かなり冷え込む朝だった。

「隊長! シェーメル隊長! 後方部隊より伝令申し上げます!」

伝令兵と思われる『狼』の同志が慌てながらシェーメルに迫ってきた」

筋肉質な体型をしているが、どこか頼りなさそうな感じがする

「副隊長ヨシュア様、敗走。行方は知れず、とのことです……」

唇を噛みしめる伝令兵。

「なんだと! そんなはずはない。政府軍が後方部隊から攻めてこられる筈はないぞ!?」

『狼』の隊長、シェーメル――エメラの父でもある――が驚愕して声を荒げる。

「それが……」

伝令兵は言いにくそうにしながら何かを目をそらす。

「なんだ、何か知っているのなら教えてくれ!」

「いえ……事実かどうかはわからないのですが……」

そこで一旦呼吸を置く。

「ヨシュア様、謀反、との噂が広まっており――」

「そんな筈はない!」

シェーメルは大声で反論する。

「ヨシュアとは『狼』結成以前から……子供の頃からの親友だったのだ。そのヨシュアが裏切るはずなど……くっ!」

「しかし……この状況からして、妥当な噂とも……」

「父さん……。私が行って確かめてくる。これでも私はリーダーの娘だから!」

「いや、ダメだ。それは私の役目だ」

シェーメルが諭すように言う。

「私が確かめてくる。そして万が一、ヨシュアに本当に裏切られたなら、私は奴を……」

その先は言わなかった。沈黙だけが場を支配していた。

数分が経っただろうか。シェーメルが口を開く。

「各隊、予定通り政府軍との戦闘を指示する。そして、私はヨシュアを探しに行く。第一部隊の指揮は、シャトーが、第二部隊の指揮はエメラに任せる。エメラはまだ年端もいかない娘だが、指揮、戦術については私が保証する。伝令、各隊に伝えてくれ」

「はっ!」

伝令兵は去って行く。

「父さん……ヨシュアおじさんは絶対に裏切ったりなんてしないよ!」

「そうだな、エメラ。そして軍を任せるぞ。指揮を実戦で執るのは初めてだったな。その姿が見られないのは残念だ」

シェーメルは苦しそうに微笑む。

「大事な戦いだ。くれぐれも慎重に、な?」

「わかりました! 隊長!」

大仰な口ぶりと仕草で敬礼をするエメラ。

「それでは各自、行動開始せよ!」


雨はいつの間にかやんでいた。

この時は知るよしもなかった。これが、エメラとシェーメルの今生の別れになることを。

そして、全ての歯車が狂うことを。

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