第5話 最初の贄
「……それで、白石さんは……」
「まどかでいいよ。私達、もう友達だもん!」
気持ちをある程度鎮まり、質問を投げかけようとする私に白石さんが笑いかける。その言葉に、私の中に微かな嫌悪感が沸き上がる。
……友達? こんな頭のおかしい子が? 冗談じゃない。
私達は、利害が一致しているだけのただの協力関係だ。友達なんかになった覚えはない。
――でも。
「? どうしたの、陽子ちゃん?」
返事を返さない私に、不思議そうに首を傾げる白石さん。……今この子の機嫌を損ねれば、逆に私が殺されてしまうかもしれない。
今は、嫌でも友達のフリをするしかない。そう思った私は、白石さん――まどかに向けて懸命に笑顔を作り上げた。
「ううん、何でもない。そうだね、私達……もう友達だね」
「そうだよ! 頑張って一緒に陽子ちゃんを苦しめた皆を殺そうね!」
私の作り笑いには気付かず、まどかは朗らかな笑みを浮かべる。何故。何故陰りのない笑顔で、そんな事が言えるのか。
朗らかに人を虐げられるクラスメイト達も、花の咲くような笑顔で人殺しの相談が出来るまどかも、皆皆まともじゃない。全員狂ってる。
この島の中で、まともなのは私ただ一人。なら、幸せになる権利があるのも私一人だけの筈だ。
「それで、陽子ちゃん。何を言おうとしてたの?」
また首を傾げながら言うまどかに、ハッと我に返る。いけない。物思いに耽っている場合じゃない。
「あ、ああ、皆を殺すとは言ってるけど、具体的なプランはあるのかなって」
私が改めて問いかけると、まどかがキョトンとした顔になる。そして、あっけらかんとこう言い放った。
「プランって何?」
「は?」
「皆のいるとこに飛び込んでって、全員殺せば終わりじゃないの?」
やばい。この子頭おかしいだけじゃなくて馬鹿だ。一斉に別方向に逃げられたらとか、そんな事態を全く想定してない。
「いや……いや、ちょっと待って。それで全員殺せると思ってる? 本当に?」
「うん。私、足にも体力にも自信あるんだよ?」
駄目だ。これは嫌でも私が計画を練らないと駄目だ。
この子だけに任せてたら、全員を殺すなんて出来やしない。一人でも生き残られたら、私が協力者だと世間にバレたら――明るい未来どころか、私の人生は一貫の終わりだ。
「まどか。まどか、ちょっと聞いて」
「?」
「私が計画を立てる。だからまどかはその通りに動いて。いい?」
私の提案に、まどかは暫し考え込む仕草をする。そしてやがて、笑顔で大きく頷いてみせた。
「うん! 陽子ちゃんがそうしたいなら、いいよ!」
素直な子で助かった。まどかが思い通りに動いてくれるなら、安心して計画を立てられる。
私は今まで見た漫画やドラマの知識を総動員し、三日以内に二十四人全員を殺すにはどうすればいいか考え始めた。
「星、綺麗ー!」
「うわー、流石大自然!」
六人ばかりのクラスメイト達が、夜空を見上げ歓声を上げる。中には双眼鏡を使い、星を眺めている奴もいた。
私とまどかはそれを、森の中に身を隠しながら見つめている。ずっと星明かりだけでものを見ていたお陰で、暗くてもある程度なら辺りの様子が解るようになっていた。
今夜この海岸に天体観測しに来るグループがいるのは、昼食の時の皆の会話で耳に入っていた。人知れず、少しずつ相手を始末するには絶好のスタートだ。
「あれが、陽子ちゃんのクラスメイト?」
こちらを振り返り小声で聞いてくるまどかに、私は無言で頷き返す。間違いない。あれは
青柳
私は生贄はきっと、青柳がなるものだと思っていた。だから私も投票用紙に、青柳の名前を書いた。
でも、選ばれたのは私だった。
ふざけるな。何であいつじゃなく私が、こんな惨めな一年を過ごさなきゃならなかったんだ。
楽しそうな青柳の姿に、怒りがまた沸々と沸いてきた。あいつこそ――この血の三日間の、最初の贄に相応しい。
「手筈は覚えてる? まどか」
「うん。一人ずつこの森に拉致して、他の皆に気付かれないように殺すんだよね?」
私の確認に、まどかが小さく頷く。木々の間から射し込む星明かりに、手にしている鉈が鈍く光った。
「それじゃあ……あいつらがばらけ始めたら行動開始ね」
「うん!」
さあ、私の復讐劇の始まりだ。
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