福袋の中に、美少女アンドロイドと異世界転移装置が入っていた

春風 村木

つらい

 只今、酔った勢いで買った、一億円福袋のせいで異世界に転移しています。

「――畜生ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 俺は心から叫び声を上げた。

 異世界転移なんて、借金で首が回らなくなった人がワンチャン狙って行う博打だ。

 リターンは大きい。異世界に希少金属があれば、それで一生を過ごせる。

 ただ、コストがそれを遥かに越す。

 まず異世界の環境。人間が過ごせる環境ではない可能性がある。

 帰る手段。現代日本で動作する転生装置は安いが、異世界で動作する転移装置は人が一生で稼ぐ金額を遥かに越す。

 まぁつまり、首が回らなくなった奴は逃走手段として扱う物であり、とても健全に日々食い扶持を稼いでいた俺は、そんな行為したくなかった。

 でも福袋に転移装置があり、それが暴発して転移している。

 糞が。

「⋯⋯糞が、糞! 何なんだよ! 勝手に動作しやがって! この後、俺が死んだらどうしてくれんだよ!!」

『どうするとは?』

「うっせぇ! 黙れ!!」

『はい』

 俺は後ろを向いて、返答してくれた人物を見る。

 いや厳密には人物ではないのだが。

 ――人型介護アンドロイド《昭子》

 マスターの人間に対して、昭和の女のように付き添い、マスターを介護するというコンセプトの元、制作された高級アンドロイド。

 一体全体、昭和を何だと思っているんだと問いたくなるコンセプトであるが、ミソジニストに人気を博したモデルでもあり、転売したら高く売れる物品だ。

 そう、そうなんだ。こいつも福袋に同梱されていたんだ。

 酒酔いが覚めたときは「俺は何で一億も使って、こんな福袋を買ってしまったんだ」と後悔したが、コイツを見た瞬間めちゃくちゃ幸福だったんだよ。

 元々、俺が一億も貯金があったのはメイドロボを買うためで、少しタイプが違うとはいえ、目的の物を手に入れることが出来たんだ。

 でも福袋に転移装置があり、現在それが暴発して転移している。

 糞が。

 俺は周りを見渡しながら問う。

「⋯⋯なぁ昭子。本当に転移を止めることが出来ないのか?」

 周りは謎の青い空間が広がっている。その空間は常にうねって不安定な模様を作り出す。まるで、ドラえもんのタイムトンネルのようだった。

 見るからに転移中の空間。その中央にカタカタと転移装置が動いている。

『はい、転移装置に停止機能があったとしても私が止めることは不可能でしょう。私は本来、サーバー側の補助により動作するアンドロイドです。

 現在、私はインターネットに接続されておりませんので、サーバー側からの補助を受けることが出来ません。

 よって、転移装置に停止機能があったとしても、そのデータがサーバーから送信されないため停止することが出来ません』

「じゃあせめて、俺にあの転移装置を触らせろよ」

『させません。現在マスターへの介護レベルは5と設定されています。よって身の危険が発生するような行為は止めさせていただきます』

「このままだと異世界に転移しちゃうんだけど」

『しかし転移装置を触った結果、この次元のはざまに閉じ込められる可能性があります。その可能性を考えると、このまま異世界に転移するのが一番の延命行為だと判断いたしました』

「帰還装置ないから帰れないんだけど」

『死亡する可能性があるので出来ません』

「⋯⋯じゃあ介護レベルを下げれるか?」

『介護レベルを下げるには、インターネット認証が必要です。現在インターネットに接続されていないため、利用することが出来ません』

「糞が!」

 俺は絶望のあまり寝転んだ。

 この次元のはざま?とやらの床はひんやりと冷たく硬い。失礼しますという昭子の声が聞こえ、頭を持ち上げ昭子自身の足で膝枕をした。

 あったかい柔らかい気持ちいい感覚を急に味わった俺は、急に泣いた。どうして俺が異世界に移転しなくちゃならないんだ。異世界に転移することは法律上は規制していないが危険な行為だから冗談でもやるなって小学校の頃から教わってんだぞ。俺は色々爆発してそんなことをくっちゃべっていた。昭子がよしよししてくれたので頭が更に、あったかい柔らかい気持ちいい感覚に支配された。昭子ママぁ⋯⋯

 精神がイかれた俺に対して、昭子は的確に演算されたよしよしを完璧にこなしていた。

 


 ◇◆◇◆◇



 いや俺一体何していたんだよ、という自己嫌悪で頭が痛い。

 異世界転移自体は無事成功し、転移先の異世界も、もともとの世界となんも代り映えの無い世界で、人間が快適に過ごせる世界だった。

 だが、俺の頭にはよしよしされてママァと甘える自身の行為への嫌悪が強かった。

『大丈夫? もう少し甘える?』

「甘えねぇよ!」

『ムキにならなくても大丈夫ですよ。私は貴方の事を分かってるつもりです』

「ムキになっていないよ!」

『さっきまで、あんなに甘えていたのに⋯⋯』

「止めてくれ!」

 しかも昭子がこんな感じになってしまった。

 多分、気が狂って昭子に甘えてしまったためか、昭子が俺に対して「このように対処すれば良い」と学習してしまったのだろう。

 辛い。

 何が辛いって、なんか母親づらしてくるのが辛い。なんか糞ウザいのが辛い。

 思わず、ため息が出る。

 こんなことを考えている暇はないとは分かっているのに、そう考えてしまう。

 そう、そうなんだ。俺らが置かれている状況は結構ヤバいんだ。

 今いるのは森。木々が立ち並び、太陽の光が遮られ、木漏れ日が少し漏れ出る程度に暗い森だ。

 そして俺らはどうだ? 俺は部屋着で靴すら履いていない靴下スタイル。昭子はデフォルトの家政婦スタイル。

 この状態でサバイバル? 無理ゲーだ。

「⋯⋯とりあえず、食いもんの確保が先決か?」

『翔ちゃんは何か食べたいものがあるの?』

「翔ちゃんは止めろ!」

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