第105話「休日の使い方Ⅴ」


「貴様の後ろにいる者達の目的は分かった。だが、北方諸島からロシア国民を北海道に引き入れて何をしたい?」


 そのフィクシーとノヴィコフの室内の会話を端末は拾っていた。


「簡単だよ? あいつらは人間として全うな代価を払わせたいのさ。だから、もっと憎まれればいいと思ってるんだよ。日本人が、米国人が、ロシア人が、自分達の家族を、大切な人間を見捨てた者達がもっと苦しめばいいとね……真っ当な復讐だろう?」


 日本は大量の難民を抱えられないと大量の船を日本海や沖縄、北海道近辺の沖合に沈めていたし、それは歴史的な事実として知られている。


「代価を……恨まれるだと? ロシアの北方諸島の民からは感謝されるのでは?」


「はは、無理だね。何故かって? あの北方諸島にいる連中……キャリアなんだ」


「何? キャリアとは何だ?」

「もしかして……何かの病原菌の?」


「お? 正解。さすが医療部門長。正確にはゾンビ化予備軍と言うべきか」


「な―――」


「米国は知ってるよなぁ? なぁ、米国の前政権の偉い人とかぁ~~ロシアに、【BFP】と同じような事が起きたんだっけ? あの時はロシア国内も大変でさぁ。オレも何人か見たよ。意志のあるゾンビ……そう、黙示録の四騎士と同じようなのが生まれてたのさ」


「何だと!?」


「条件は分からなかったんだ。だが、一部のロシアの政府機関はそいつらを誘導してな? どうやって管理したと思う?」


「まさか―――」


 ヒューリが目を見張る。


「くくく、これがロシアの一番知られたくない秘密って奴さ♪ ま、米国の戦線都市とそれに繋がりのある連中は恐らく薄々は気付いてただろうし、絶対内部に入れるなって進言するだろうけど」


「何と愚かな……」


 フィクシーが汗を浮かべて呟く。


「はいはい。そうで~~す。ロシアとうきょくは~~あの狭~い島々に名前も顔も性別も分からない危な~い連中を放し飼いにしてるんだよぉ!!」


 その言葉にそれを見ていた、聞いていた現地の人間が急激に顔を蒼褪めさせながらも憎悪に駆られた表情を洋上へ。


 遥か日本の南の方にある亡命政権の現地統治下領域に向けた。


「亡命政権側が北方諸島にわざわざ別系統の政府機関置いたのはなぁ。そいつらを手元に置いて管理させる為なのさぁ!! いつか、自分達の手でゾンビを利用する為に!!」


 世界の欺瞞が剥がれていく。


 その先へ先へと進むはずだった未来に暗雲を垂れ込めさせていく。


 男はニヤァッとあの笑みを浮かべた。


「さぁ? どうする? どうする? オレの爆弾は何処に置いてあるんだろうなぁ~~米国の皆さん? あんたらの政府が敵国に秘密裏に輸出したゾンビのせいでゾンビになるかもしれん連中が入り込むのを承知でこの要求承諾します? それともあちらでゾンビから逃げ出してくる船を撃沈します? オレはどっちでもいい!!」


 ゲラゲラ笑う男は愉悦しながら、たばこを一本取り出し。


「おお、主よ~~哀れな子羊達の選択を見守り給え~~~」


 軽くマッチを革製の衣服で擦って点けた後、


「神が守ってくれんならなぁ~~(;´∀`)」


 もはや売っていないだろう稀少なマッチで点けた煙を静かに嗜んだ。


「カウントダウン・スタート」


 カチリと男がポケット内のスイッチを押す。


「はーい。これからオレの意志とは関係なくシステムが全てを代行してござーい。今から35分以内に米海軍及び海上警備してる艦艇は全部、母港に戻ってねぇ~システムの目が登録された艦船が港から離れる度に1人死ぬよ。戻って来なくても20分毎に死ぬね。ああ、目が潰されるか、または妨害された場合でも自爆ベスト付きの人々が一人ずつ爆死します。あ、他人に危害が加わらないような威力だから、ランダムだけど人質は他の人の事は心配しないでね?」


「貴様―――」


「おっと、魔術で妨害なんて止めてくれよ~~? 此処の連中は助かるかもしれんが、あんたらの視界外にいる大量の何処かの誰かさんが即時、蒸発するぜ?」


 フィクシーが睨むとノヴィコフが申し訳程度に両手を上げた。


「オレは魔術師としては三流以下のしがない単なるテロリストなんだよ。核弾頭の材料集めるのに十年以上掛かっちまったしな。米国や元祖国の秘密だって、最初から知ってたもんをこねくり回してようやくこういう舞台を作ったってだけなんだ」


「あなた、最低ですね」

「生憎とテロリストに最低は誉め言葉だ」


 ヒューリが唇を噛む。


「それにしてもやってくるのがトップかよ~~ホント、美人さんだなアンタら。あ、オレは生憎とゲイなので女性はノーサンキューだ」


「ゲイ? 何の単語だ?」

「ああ、横文字分からんのね。日本語なら男色家ってところか?」


 ビクッと少年が思わず震えた。


「フフ、嘘嘘。だけど、オレは人類の事考えてるんだぜ~ラブ&ピースがモットーだ。もし、この人類最大の疑惑と謀略の檻の中で人々が正しく他人に優しく自己犠牲的に振舞えるなら、人類は生き残るべきだと思うし、もし詰まらん保身に走るなら映す価値無しと消えるのも納得だ」


「真っ先に消えるのが貴様でもか?」


「はは、この子には教えたんだが、オレは幸せなテロリストになりたくて、この事件に噛んだ。米国や復讐者や元祖国の謀略や秘密なんてどうでもいいだんだよ実際。だって、そんなのこの人類絶滅の間際には今更だろ?」


「何故、それで幸せなテロリストやらに成れる?」


 フィクシーの言葉に肩が竦められた。


「―――1度でいいから、人類を滅ぼしてみたかったんだ」


「何?」


「フィクションだとよくあるだろ? 人間が救うに値するのかって考える悪役。オレは生憎と米国製の映画を見るまで、こんな事考える奴いねぇんだろうなぁって思ってたんだ。だが、ふとした時に映画でそういう悪役がいてな。ああ、カッコいいなぁ。こういうのがやりたいんだよぉって思ったわけ」


「……意味が解らん。何故、滅ぼしたかった? 何故、それをすれば、幸せなテロリストとやらに成れるのだ?」


「オレにとっての幸せはな?」


 男は何の奇を衒うわけでもない声で言葉で真面目にフィクシーへ告げていく。


「政府が公正明大で人々は優しくて温かくて他人の事を考えてくれて、親は子供を慈しみ、子供は親を信頼し、友人は真の友で、上司は良い親父で、恋人は清廉な乙女で、人生は順風満帆で、挫折を味わっても誰かが助けてくれて、立ち上がれる世界なんだよ」


「聞いてやろう。好きなだけ話してみろ」


「オレは別にテロリストが一番向いてた仕事だったから、そうしてただけなんだ。別に人間の命をどうとも思わないだけで普通な部分は普通だったんだよ。政府の役人が不正してりゃ、正されねぇかなぁと思うし、仲間のテロリストが嫁さんに逃げられたって言えば、慰めてやるくらいには人情味があったんだぜ? 途中で捨て駒にしたけど」


「で?」


「だが、どうだ? 世界は不正と不公正が罷り通ってる。人類が絶滅寸前だって国連が緊急声明を出した時、オレは感動したね。これできっと少しは国家も役人も真面目になるだろうって。諸国民も差別や様々な垣根を越えて団結するだろうって」


「ほう? 結果は?」


「どうにもならなかった。そう、どうにもならなかったんだよ。誰も協力し合わなかったんだよ。最終的な結末が全てだ。見てみろ。途中で少しは協力したって言い張れはするだろうが、結果が何もかもを代弁してる……人類は変われなかった。ゾンビを前にして、滅びを前にして、エゴ剥き出し……ガッカリだよ。心底にな」


「ふむ。一理は認めよう。貴様がテロリストでなければ、一角の意見として聞いてやってもいい話ではあるだろう」


「で、オレは考えたわけだ。何処かの映画の悪役みたいに。このどうしようもない人類をさてどうやったら団結させられるか? そうだ。滅ぼしてみよう。滅ぶ寸前の寸前の寸前まで追い込んでみよう!!」


「……そういう事か……」


 フィクシーが手に負えないモノを見るような瞳となった。


「もし、人類が救われるに値しない単なる獣なら、オレはそんな生物を絶滅させた英雄だ。もし、人類がオレの悪意を押し退け、団結し、共に戦い、オレを殺せる真っ当な生物ならば、オレは連中を目覚めさせたカッコいい悪役だ。つまり、オレは?」


「どちらに転んでも自己満足して死ねるわけか?」


「拍手~~~幸せなテロリストのいっちょ上がりだ。だから、オレの目的はもう達成されてる。この日本が滅べば、もはや虫の息の英国に世界を率いる力は無い。ASEANとオーストラリアが早晩ゾンビの群れに沈むのもほぼ確定だ」


 男は預言者の如く言ってのけた。


 だが、それに少女もまた意見があるとばかりに男の端末に語り掛ける事にする。


「私はフィクシー・サンクレット……善導騎士団を今一時的に預かる者だ……この放送を聞く全ての人々に問いたい。この男の話を聞いたか? 馬鹿馬鹿しい妄想だが、この男は私が見る限り、間違いなく本気だ」


「ああ、勿論」


「そして、真実ソレを今この場で現実にしてみせた……日本に住む全ての人々に訊ねる。貴方は今、こんな男の戯言に自分の人生を弄ばれて、悔しくは無いだろうか?」


 その言葉に男は少し驚いた様子だった。


「私は悔しい。こんな男のせいで今日一日が台無しにされた事がだ。今、仕事をしている者、息子や娘と共にある者、休んでいる者、食べている者、共に愛し合っている者、全ての人に問いたい。こんな男の戯言が現実であると認めたいか? 人が愚かばかりではないと私は知っているし、貴方達とて知っているはずだ」


 その声は語り掛けるというよりは独白のようにも聞こえる。


「本当にこの男の言う通りだと頷く者とていよう。だが、多くの人々にとって、本当にこの世界はそんなに簡単で単純なものだろうか?」


「複雑だから良いってもんでもねぇだろぉよぉ!!」


「僅かな善意も知らないと? 誰かから救われた経験は無いと? 貴方が食べているもの、住んでいる場所、着ている服、過ごしている時間、見ている街並み、心地良い喧噪、している遊び、癒してくれる何か……それは本当は誰かの善意が、努力が、人により良く在れと結実したモノかもしれないのにか?」


 ノヴィコフはフィクシーを前にしてまるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔となっている。


「この男は結果が全てだと言った。だが、過程とて同じだけ重要だろう。それが結末に対して僅かばかりの効果しか及ぼさなかったとしても……今、貴方達は此処にいるのだ。それが偶然にしろ必然にしろ……人類がこの国で生き残っている事は人の善意以外で説明が付くだろうか?」


 フィクシーが語る声はまるで子供に言い聞かせるかのような真っすぐな瞳で告げられる。


「国家の全てが打算で動くなら、ゾンビと戦う為に必要な人間以外全てを排除してしまったって構わなかっただろう。子供はまた産めばいいという意見すらあったはずだ。だが、私が知る限り、多くの大人達がこの地に子供達を送り出した。自分の席を譲る者すらあった」


 フィクシーが剣を鞘に納めて、ノヴィコフを睨み付ける。


「今、日本が多くの国から人々を受け入れているのは単なる技術や知識を吸収し、使える労働人材としてだけ必要としているからだろうか? 貴方達の持つ技能が失われたら、政府は彼方達を国外に追放してしまうのだろうか? いいや? 少なくともそんな事になるまで貴方達の為に意見を述べ、反対意見を言い、守ろうとしてくれる人達とているはずだ」


 静かな声。

 日本中がただ静かなアナの伝言を聞いていた。


「人の社会は奇跡ではない。人の善意と信頼で成り立っているのだ。その上にあらゆる基盤が存在している。人を不審に思う事や虐げる事すら、誰かと一緒でなければ、そう長く続けられるものではないだろう」


 まるで夜の静寂に真実を聞いた者達はまた同じ真実によって再びの沈黙に更ける。


「この男に仕事を依頼した人々よ。貴方達は真っ当な復讐心で最悪の結果を招いた。だが、貴方達にすら同情の声を上げる誰かがいるだろう」


「どうかなぁ~?」


 ジロリと睨んだヒューリの前でノヴィコフがお口にチャックする。


「憎しみを憎しみのままにして疲れた者から自首するといい。癒されない傷はどうやっても癒されない。だが、癒されるものはどうやっても癒される。疲れるものはどうやっても疲れるのだ。腹が空けば食わねば死ぬのと同じようにな」


 その言葉にノヴィコフはほうっと感心したような息を零す。


「人の折り合いを社会と呼ぶのだ。折り合えぬ者が社会から弾き出される。私は今回の事件にこの国の縮図を見た。だが、同時にまた人々が折り合おうとするからこそ、謀略と秘密を握っている事もまた事実だと理解している」


「折り合ってますか~?」


 やっぱり、ヒューリに射殺されそうな視線を受けて、再びノヴィコフが黙り込む。


「何故、ロシアは米国にゾンビの輸出を表立って非難しないか? 現実と折り合ったからだ。米国がどうして危険なゾンビのいる島をすぐにでも攻撃しないか。日本政府や現実を前に折り合ったからだ。どうして今回のテロを依頼者が密かに単なる日本国民の殺戮として依頼しなかったか? 自分の復讐心と現実を前に相手をただ殺してやりたいというだけではなかったからだ……思い知らせてやる方法が日本と日本に与する者達の子供や弱者や病人に向かなかっただけ、まだマシと言えるだろう。彼らもまた己の現実と要求を前に折り合った」


 ノヴィコフは目を丸くしていた。


「ほう? まるで見て来たような事を……オレもそうしようぜ~って言ったんだがなぁ」


「この事件の企画者達は最初から自分達が起こした事件だとお前に公表するように頼んでもいたはずだ」


「その通りだとも。はは、まるで全部見通してるみてぇだな。副団長代行殿」


「ただ、ツリーを爆破していれば、溜飲が下がるというものでもあるまい。だが、本当にただ恨んでいるだけならば、理不尽に奪い、殴り返してやるだけでいいはずだ。でも、それだけではイヤだったのだろう?」


 語り掛けられた全ての誰かはその声を聴いていた。


「聞いて欲しい事があるならば、聞いてやるのが為政者達の仕事だ。だが、その自分の声が届かぬと感じたからこそ、当事者達に、その事件で為政者側を擁護する者達に、その悔しさを、恨みを、聞かせたかったのだろう? ならば、その尊き誰かへの思いをこんな男に利用されるな」


 脱帽だよと言いたげにノヴィコフが肩を竦める。


「それは正当な気持ちだ。だが、誰のものでもない。お前だけの尊き願いだ。穢されていいわけがないだろう。お前達の願いをこいつは自分の為に利用した。それでも恨みが晴れるならと許容する者がいたとしても、断言しよう。お前の恨みが晴れたなら、それは最初から晴れているはずのものだ」


 少女は確信したように語る。


「晴れぬ恨みは決して晴れぬ。だが、誰かから優しくされた時、失った者を思い起こさせる誰かと幸せを感じた時、時間や他者との関わりの中でソレは晴らされるべきものでもあるだろう」


 今、日本はテロリストの独壇場。


 そう思っていた者達の少なくない人々がフィクシーの言葉にまた新たな世界が拓けていくのを感じていた。


「私は日本政府にこのテロを起こした者達を厳罰に処すよう要請すると同時に情状酌量の余地も認めるべきだと進言するだろう。怠慢ではないにしても、ここまでの事をしなければならなかった者達を生み出した事は為政者にとってはあってはならない事なのだから……」


 拍手が為される。

 それを見ながら、フィクシーは男を睨む。


「さて、後はお前だな。ノヴィコフとやら」


「ほほう? 善導騎士団がオレに何を出来るって~? 外の方はいいのかにゃ~~?」


 ニヤニヤする男がチラリとパソコンを見て、怪訝そうな顔になる。


「んぁ? 警察も米軍もいねぇ? どういう事だ」


 一瞬で真顔になった男がフィクシーに視線を向ける。


「貴様、我々を舐め過ぎだろう」


「はは、生まれてこの方舐められまくったオレは他人を正当に評価するのがコレでも特技なんだが……一体、何をした?」


「自分だけが時間稼ぎをしていると思っていたのか?」


「………」


「準備は貴様が我々の干渉を止めるように言った時にはもう出来ていた。問題は時間だった」


「時間?」


「ああ、そうだ。貴様のあらゆる行動を封殺可能になるまでの時間だ」


「何かの魔術って事か」

「左様……そして、貴様は1つミスを犯した」


「このオレがミス? パーフェクトにオレの野望は終了してるわけだが?」


「ははは、完璧を言い出す魔術師か。確かに三流以下か……」


「人に言われんのは結構ムカツクんだぜ?」


「先程までの戯言を聞く限り、貴様は何らもうこの事件の重要な状況に関われないのだろう? 自分が死ぬのを見越しての策とはそういう事だ」


「それがどうかしたか?」


「貴様が何も出来ないよう拘束するのは第一条件。そして、後は貴様に追加で何もさせなければ、我々の勝ちだ」


「ほほう? どう勝つのか聞こうじゃないか。美少女ちゃん」


 ヒューリが魔術方陣を展開すると同時にノヴィコフを内部に捕縛した。


「さて、まず最初に貴様の核爆弾とやらを止めようか」


「はぁ~~? 今からどうやって探り出すんですかねぇ~~?」


「貴様の頭の中を覗いてもどうせ何処かで自分が絡まぬようランダムな部分を仕込んでいるのだろう? ならば、直接観測にて見付け、ただちに処理すればいい」


「んな事できっかよ!? 日本全国津々浦々、どうやって今から―――」


 ガタンッとフィクシーの拳が方陣の障壁に叩き付けられ、ノヴィコフが黙る。


「私は大魔術師だぞ。貴様の常識と一緒にするな三流」


 凍えるような瞳。


 だが、裏打ちされた力持つ者の余裕を前に男もまた真顔で見返す。


「こうやってだ」


 ツリー周囲の地面が輝いていた。

 東京の各地が輝いていた。

 関東の全域が輝いていた。


 それは一つの文字が半径3000kmを超える超規模大儀式術。


 その急激な拡大は恐らく高高度からならば、正しく白い円に飲み込まれる日本とユーラシア大陸の一部を見る事が出来ただろう。


 日本中の人々が……全ての領域で煌々と世界が煌めいていく様を目撃する。

 地面が輝き。


 何か暖かな光を放つ。


 たった、それだけの事なのに輝きに意志が通っている事を誰もが理解出来た。

 ヒューリが高高度の衛星視点にも見える端末の映像を男に突き付ける。


「はは、恐れ入るよ。日本列島丸ごとだって? 馬鹿な話どころか。この世界のどんな魔術師にも不可能な事をやってのけるのか。お前らは……」


 もはや、感嘆の溜息しか出ないとばかりに三流を自称する男は肩を竦めた。


 事実、そんな莫大な魔力を用意しようという時点で嘗てならば、あらゆる敵対組織にどんな魔術師も叩き潰されただろうし、そんな事が出来る者もいなかった。

 いや、いたとしても表に出て来るような存在では無かっただろう。


 命掛けですらなく。


 たった数時間の準備でソレを為すというだけでもうこの世界に残った僅かな魔術師達の常識からも懸け離れた光景だった。


 ―――『善導騎士団……我々を遥かに超える才と叡智……羨ましい話だ』


 日本各地のMU人材の組織団体の多くが、事前に通達されていた異変を見て、二つの事を思わざるを得なかった。


 術師を止めて一般人として生きていくか。


 あるいは……この事象を引き起こした者達の下に学びに行くか。


 神秘、枢機、あらゆる奇跡が陳腐化するような力の一端。


 それは正しく嘗てフィクシー達のいた大陸で巻き起こった七教会が魔術師達に絶望と諦観をくれてやった日々の焼き回しにも近かった。


「これは単なる観測用の魔力波動だ。無限に近い魔力とある程度の腕と時間があれば、誰にでも出来る……そして、お前がどんな方法で隠そうとはこの波動の中では明らかになる……」


「ッ、そういう事か。あ~失敗した!!」


 思わずノヴィコフが気付いた様子で喚いた。


 つまり、それは魔術の痕跡を発見する為のものであり、これから探す手掛かりは隠蔽の術式やその現象そのものなのだ。


「全国のMU人材の中核団体に隠蔽術式が施された場所を自己申告して貰っていた。この日本中にある魔術とその痕跡の位置を照合すれば……」


「完全にオレが何にもやらなきゃ、お前らは探す事すら出来なかったのか!?」


「そういう事だ!!」


 巨大な日本列島を覆う発光現象。


 その最中に次々大量の紅いマークが浮かび上がり、それが自己申告された魔術の痕跡からグリーンへと塗り替わっていく


「貴様の魔術の痕跡を照合する為の術式は出来ていた。入力するまでの時間さえあれば」


 日本各地で紅い光点が40程浮かび上がる。


「自己申告漏れや我々や団体が知らぬ場所が入っても構わん。全て叩けばお終いだ!! 人がいる地点は……よしクリアしたな。ディオ!!!」


『応ともさ。やっと出番かよ。あ~~それじゃあ、クローディオおにーさんの楽しい狙撃教室と行こうか』


 日本列島の映像が映し出される端末の先から声がした。


「教導隊の長クローディオ・アンザラエル……という事はその情報……ははは、どんだけ笑わせてくれるんだ……脱帽だよ。善導騎士団」


 どっかりと男が方陣内部で腰を下ろした。


『まず、チャンバーに銃弾を入れます。ウチの開発責任者によって作られた空対空、空対地用の超遠距離狙撃術式と専用弾を込めます。弾の速度を全てズラし調整、着弾時間を同時にします』


 東京上空30km地点。

 暗闇に沈む蒼き機影が一体。


 人型の形態を取りながらも、全ての装甲という装甲がまるで一塊の岩塊。


 そうとすら思える巖の中に人型が彫り込まれているのか。


 そんな錯覚を覚えさせるモノが長大なライフルを構えている。


 左手の真下に装備されたソレは大口径200mmカノン砲。


 14mの砲身。


 自身の数倍以上の長さのソレを虚空で微動だにせず下方へと向けている鎧内部で男は初めて扱うとやらを感じながらニヤリと笑う。


『1秒間に高度30km地点から精密射撃で地表のキルポイントを38連射します。簡単だろ?』


 砲口がまるで幻惑するかのように大きくブレた。


 いや、ブレたというよりは1秒間に38地点に対して微調整しながら砲弾を撃ち切ったというのが正しいだろう。


 そして、その途端に赤熱化して砲身が焼け付いた様子で沈黙する。


 だが、全てが全てベルお手製の代物となれば、奇跡とて起こるだろう。


 残念ながら連動していた日本全国各地の都市部、山間の亡命政権内部の核弾頭の設置個所15個所は他のところ諸共に砲弾がソレの込められたコンテナに直撃した瞬間、一斉にこの地球上の空間から消え去った。


「……何だ? 何をしやがった?」

 極小規模の小型戦術核とはいえ、端末内に出て来る現地の三十数か所全ての地表が完全にえぐり取られたように消え去った様子を見せられ。


 ノヴィコフは困惑していた。


 中にはビルが斜め横に貫徹する様子すら映っていた。


 この状況で倒壊していく廃ビルを見て、その奥に何もないコンテナの影すらない現状を見て、男はぼんやりとすら言えるような表情となる。


「核汚染すらされてる様子が無い? まさか、空間を……」


「無力化を完了した。お前の爆弾とやらは全て今頃、塵に還っている」


 フィクシーが肩を竦める。

 それと同時に魔力の輝きが全て消え去った。


 瞬時に光はツリー内部の彼女を起点にして集束して途絶える。


「………どうしてだ。どうして、この短期間でこんな手が打てる?」


 ノヴィコフはもはや素面に戻った様子で淡々と彼女達に訊ねる。


「衛星兵器染みた超高空からの精密砲撃能力。無限に等しい魔力とやらを生み出す魔力源。オレの術式と魔力をどうやって記録した? 莫大な情報をどうやって術式に入力した? 精神投影型じゃ絶対にあの10万を超えてた位置情報を数時間で術式へ封入出来ないだろう。そもそもだ。核の情報を明らかにしたのはついさっきだぞ?」


 男の疑問は尽きない。


「何でオレの魔術の痕跡を探る方法を日本列島規模で用意していた? オレがやろうとしていた事を最初から知っていたわけでもないお前らが……どうして、そんな無駄な準備が出来た? コストもリスクも見合わない。砲撃が全て同時だと? 馬鹿にするな……そんな事をしなきゃならんような理屈を異世界崩れのお前達が知っているはずがな―――」


「知っていたんだよ。その理屈を知っていた奴がいたんだ。爆弾は連動させているかもしれない。距離の離れた列島内で事象を起こすような奴ならば、他の場所でも魔術的な何かを企んでいるかもしれない、とな」


「嘘だろ……」


 ノヴィコフは心底に驚いた表情で目を見張る。


「魔術を見破る方法に時間を掛けない為に最も簡単な力技をコストを度外視して造ったのもこの数時間の話だ」


「どんな魔術師だって出来ねぇような事をやってのけるのか。善導騎士団は化け物か?」


「私とて貴様と同じように思ったが、出来るとあいつは確信を持っていた。やれると私は私達はあいつを信じて動いた。出来なければ、おかしい。我々は魔術師なのだろう?」


「オイオイ、勘弁してくれよ。そいつは魔術師……いや、預言者か神の類じゃねぇか? お前らなら在り得るのが何ともイヤな話だ」


 溜息一つ。


 すっかり根本まで灰になった煙草を加えて、男が強がったように笑う。


「あいつはな。コストもリスクも無視して、一番良いものをと我々の装備を造ってくれている。あらゆる悪意と暴力の可能性を前にして全ての手札を用意しようと頑張ってくれている」


 ヒューリがそのフィクシーの言葉を引き継ぐ。


「あの砲撃手段は日本から大陸を援護する為の手段だそうです。観測手段はそもそもがその砲撃を届かせる為のもの。個人の魔力に頼らず、極力使わせず、魔術よりも魔術染みた事を再現可能とする」


 だが、それとてただで生まれてきたわけではない。


 大量の人員と研究者と技術者が共に手を携えた結果の代物だ。


 陰陽自研で開発されていた超高高度からの超威力の物理砲撃装備を採用した超遠距離狙撃型の【痛滅者】……未だ試作段階のソレにクローディオを乗せ。


 八木が操るシエラ・ファウスト号のまだ未到達だった高高度にぶっつけ本番で運ばせ、黙示録の四騎士に見つかる可能性に晒されながらも待ち続けた。


 もしも、列島規模の術式の反応に惹かれて騎士が一人でも寄って来ていれば、彼らは発見され、絶望的な戦いを強いられる事にも為りかねなかったのだ。


「……人間だってのか。そんなのを構想するのが? きっと、そいつはオレが知るような連中じゃないんだろうな。優秀過ぎて涙が出るぜ。この世界にもこんな風になる前にそんな奴が一人は欲しかった」


 男がもう大の字になって寝転がる。

 もう好きにしろとでも言うように。


「無限の魔力はいつもいつも蓄積させてきたものを使いました。その人は魔術ではなく魔導を使います。我々の中において唯一、大陸の最新にして最高の叡智を扱っている」


「そして、ソレに奢らず。どんなに些細な可能性でも生存する為に、あらゆる敵を前に屈さぬように、全力で抗ってきた……」


 二人の少女の鉄壁の信頼を言葉にされて、それに意見出来る程のものが自分に無いと理解して、男が溜息を吐いた。


「へぇへぇ。凄い凄い。あ~やる気無くなっちまったよ~~」


 ノヴィコフはそうやって自慢出来るだけ自慢すりゃぁいいよと大罪人にあるまじき太々しさで耳の穴を小指で穿り始めた。


 そして、数秒後。


「………で、そいつは一体誰なんだ? オレの最後の策を使わせといて、不発にしやがって……的確に計画の歯車抜いてんじゃねぇよ」


「何?」


「今、最後のオレの直接掌握下の魔術隠蔽してない核のスイッチを押した」


「「!?」」


「だが、もう無力化されてたよ。まぁ、どっちにしても米国内の核が無けりゃ、あいつら脅せねぇ。だが、ゾンビから逃げようとする船は大量にもう出航し始めてるだろう。状況は変わらん」


「そちらも全て対応した」

「何ぃ?!!」


「貴様は道県側ではなく諸島側の港の様子でシステムを動かすようにするべきだったな」


「どうやって船の連中を納得させんだ?!」


 善導騎士団の別動隊が魔術で向かうとしても東京から飛行機で北海道まで数時間……時間的に最初から移動している必要がある事を考えたら、在り得ねぇだろうと眉を顰める。


 だが、今暗い海に出向しようとした船。


『こちらは善導騎士団です。皆様に思い止まって頂きたく参上しました。我々は皆様に―――』


 出航している船の上には小さな鳥達が声を上げていた。


 その言葉が流れ始めると船の殆どが迷うような素振りを見せてから、船の中に降り立った小鳥から大量の食糧や物資が送られてくるのを見て、再び港へと引き返していく。


「我々の魔術を用いる為の延伸用ネットワークはこの数週間で日本国全土、亡命政権下にも張り巡らされている。それこそ日本全国津々浦々とやらにな」


 プランとフィクシーがM電池やMHペンダントを外套から取り出して見せた。


 ソレがまるで液体のように融けたかと思うと鳥の形になって羽ばたく。


「く、くくく……まさか、そんな方法で……日本国政府がそいつを大量に日本各地に供給してたのはそういう事か……」


 フィクシーが男を前に断固とした事実を告げる。


「折り合う事、人はソレが出来る。国家に不信しかなくとも、今の我々の力をこの国に知らしめた。彼らが我々の力を信じざるを得ない状況を作った我々の勝利だ。三流」


「―――完敗か。その先は言わなくていい。はは、まさか、オレの放送を乗っ取ったのはそっちが本命だったのか」


 もうノヴィコフには国境域で行われている事が分かっていた。


 善導騎士団の即時派遣とゾンビの駆り出しを行う。


 だから、今は船で諸島域に戻って欲しいと説得中なのだ。


 恐らくは食料などの一時的な餌をチラ付かせ、更にゾンビに対応する為の一時的な気休め策などを与えて……。


 大量の魔術の光を宿す鳥が善導騎士団の使者として米海軍にすらも影響力を日本政府の代行者として行使すれば、場は丸く収まるだろう。


 バチンッと今の今まで彼らの放送を伝えさせていた端末が破壊された。


 それが誰の手の銃の結果か見て、ようやくノヴィコフが自分の計画を完全無欠に破壊した人物の素顔を見て納得する。


「そういう事か。名前だけじゃ何も分からんからな。ベルディクトでベル……か?」


「はい。ノヴィコフさん」


 少年が頷く。


「どうして、あの死体の山の下に何の偽装もしてない核があると分かった?」


「「!!?」」


 その言葉にさすがのフィクシーとヒューリも驚く。

 少年はガバメントを懐に戻して死体の山のシートを剥いだ。


「やっぱり……この計画を主導させようとしていたCIAの人や一番悪いと貴方が思った復讐者の人達、ですね?」


 死体の殆どは米国人と日本人には見えない男女が数名。


 一名は明らかに米国人の女性。

 先程出てきたCIAの工作員と見ていいだろう。

 そんなキャリア・ウーマンのように見えた。


「そこまで分かるのか?」


「ノヴィコフさんの話を聞いていましたから。貴方は本当に自分の願いを叶える為に容赦が無い。そして、貴方のコレが最後の策です……怒りのやり場が無ければ、それはそこまで悪くない人達に向かっていく……罰せられる人が過剰に罰せられ、更に憎悪の連鎖が欲しかった。違いますか?」


 男は座り込んで拍手するだけだった。


「最初にノヴィコフさんが言ってたんですよ。守ってるって。命に頓着しないって。なのに、どうしてシートを掛けてあげたんですか?」


「―――細かい事気にし過ぎると剥げるぜ。将来……」


「ベ、ベルさんは剥げません!?」


 ヒューリが思わず剥きになって怒鳴るが、少年との間にある空気はまるでその場外の相手を寄せ付けず、二人は互いに視線を交わし合う。


「気を付けます……貴方がこの人達ではなく。死体を気にする。でも、どうして死体を気にするのか? 貴方は死体を気にするような人じゃない。なら、その死体の下に気になるものがあるんじゃないのかなって思った。それだけです」


 少年がヒューリに視線を向ける。

 そうすると渋々ヒューリが方陣を解いた。


「どういうつもりだ?」

「話して貰えませんか?」

「今更、何をだ?」


「貴方は一番大事な舞台のスタッフとして自分の名を上げなかった。この事件の脚本シナリオを書いたのは誰ですか?」


「………チッ、オレお前好きだけど嫌い」


「僕は貴方をたぶん一生忘れません。いえ、忘れられません」


「―――どうしてだよ?」


 面食らった様子になった男が首を傾げる。


「貴方程に人を殺しているはずの人間がたった一人すら自分の手で殺してない。そんな事を可能にして尚、生き残れるような人間がいるという事は僕にとって驚きで……何よりも恐ろしい事でしたから……」


「く、くく、あはははははは!!! 魔術師、魔術師か!!! お前みたいなのがあっちでは魔術師って言うのか?」


 ノヴィコフは大笑いだった。


「面白ぇなぁ。あぁ、オレもお前らの世界に生まれたかったぜ。テロ屋と呼ばれて久しいが、そっちならオレだって単なる小悪党で納まるんじゃねぇかなぁ♪」


 男が髪で隠していた耳の穴から小型の機械。

 スイッチらしきものを取り出して捨て。


 人質の遠隔起爆用のスイッチをポケットから出してフィクシーに投げた。


「これが欲しかったんだろ? 解析するなり解体するなり好きにしろ」


「確かに受け取った。ベル。此処は任せる。これから人質を解放してくる」


「分かりました。ヒューリさん。フィー隊長と一緒に行って下さい。此処は僕が引き受けます」


「だ、大丈夫ですか?」


「はい。これでも陰陽自で皆さんと一緒に鍛えてますから」


 男を気にしながらも、少年に何かしたら絶対タダジャオカナイとにらみ付けたヒューリがフィクシーと共にその場を退出していく。


 食事の匂いと死体の臭いが混じり合う世界に2人切り。


 男は床に座り込んで少年を面白そうに見上げていた。


「どうやって外の連中を救った?」


「いえ、救ってません。彼らが自分の力でどうにかしたんです」


「何だと? んなはずは……」


「いえ、僕らは真実、何もしてませんよ。外の状況がこのツリーから見えなくなったのはリストに載っていた方々が最終手段を使って、何らかの超常の力を使ったから、それだけです」


 ツリーの外。


 米国特殊部隊と警察の共闘は静かに進んでいた。


 一時的に危機的状況に陥った彼らだったが、警察官達のとある決断により、巨大な輝くゾンビ達は次々に応戦出来るようになった部隊の猛攻を受けて、身動きが取れなくなり、火力の集中によって一体ずつだが、確実に沈黙していた。


『今から10秒間!! あいつの触手を封じます!!』


『触手を燃やすのは任せて下さい!! 酸素を燃焼させるので近付かずに!!』


『ツリーとのこの空間の分離はもう、無理です!? ここからはツリーにどうか被害を与えないよう!!』


『右側避けて下さい!! 敵の動きからしてすぐに追撃が来ます!!』


『警察の能力者に続けぇ!! 警官に軍隊が救われたと吹聴されたら、他の部隊から笑いもんだぞ!!』


『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


 警官達が手を翳しただけで触手が止まり、燃え上がり、凍り、雷が奔り、融け、また同時にその背後からは大量の銃弾と散弾が巨大ゾンビ達の中枢個体のある部位へと殺到していく。


「此処に来て、まさかまさかの連続だったが……リストとやらにその言い方からして……お前ら警察にんな危ないもんを渡してたのか?」


「はい。近頃、警察の方々の装備には最終手段として超常の力や魔力の資質がある人を強制的に変異覚醒させる装置を内蔵させて貰っています」


「警察側が此処に投入してた連中、統制はそれなりに取れてたと思ったが……寄せ集めだったのか……」


「公務員に内在するMU人材の活用は近頃進めていた案件の一つです。その方のデータを僕らの大陸の常識や魔術師の知識から予測して、覚醒する能力や魔力を診断。もしもの時はこういう力が目覚めます、と教えて渡してます。自衛隊と警察には念入りに……」


「凄過ぎるな。ホント止めて欲しいぜ。オレは超人じゃねぇってのに持ってる連中はこれだから始末に負えねぇ……便利道具に便利能力の押し売りかよ」


「僕達が持ってる事は否定しません。でも、何事もただ無いからと奪うよりは穏便な手段の方がマシですよ。食べてたチップスもピザもちゃんと買ったでしょう?」


「オレは常識人だからな」


「テロリストだって人間です。持たざる者だって買い物は出来るし、したいのが人情のはずです」


「……そして、お前らも人間だってのか? 魔術師」


「魔導師と呼ばれてます。でも、貴方が持つ者と呼ぶ僕もギリギリでした」


「ほう? どこら辺が?」


「あの砲撃を行った映像を送って来た機体は作り掛けです。アビオニクスも半端でしたし、機械や魔術具としても製作途中で性能は未知数……それを無理やり本番で初めて乗る人の力量と魔術と膨大な魔力の力技で運用させました」


 ―――陰陽自富士樹海基地??分前。


 高高度へと短期間で到達する為に必要なのは重力を振り切る莫大な推力。


 それを捻出するのは超大出力高速魔力転化ブースター。


 要は魔力を爆発的に転換し、運動エネルギーだけを絞り出して消滅するDCディミスリル・クリスタル製の加速装置。


 それがロケット四基によるクラスター化された外部パーツとしての形を空気へと融けさせながら消えたのは数分前。


 飛んで行ったシエラ・ファウスト号の後方。

 滑走路の跡地は完全にダメとなっていた。


 路面がグズグズに融けて冷え固まってきていたが、未だに湯気を上げている。


『安定航行に入った。後は頼むぞ』

『了解です。八木一佐』


 甲板の魔力式カタパルトに固定化して積んだクローディオ用の【痛滅者】と巨砲装備を上空30kmに届けるという仕事をした後、シエラ・ファウスト号は観測術式の情報を直接端末へ届ける通信の中継拠点となって日本上空を音速を超えつつ、回遊していた。


 今やその蓄えられていた魔力は半減以下の有様。


 内部の者達は音速以上で飛び続ける空飛ぶ箱に人間が乗せられたら、どうなるかを知ったわけだが、重力がほぼ0な状況で空気抵抗諸々が真空の壁で無効とされた中は存外快適であった。


 慣性こそ最初はきつかったが、音速以上で加速せずに安定航行に入れば、急激に内部は平穏を取り戻す。


『ふぅ……』

『お疲れ様です』


 八木はほぼ自動操縦に切り替えた艦のCICでサブシートに腰を下ろした。


『ありがとう。後は彼らに任せるだけだな』


『はい。本来は自衛隊こそがああいった犯罪にも立ち向かうべきなのでしょうが……』


『彼らがいなければ、祖国は再び核に焼かれていただろう。適材適所で我々こそがと言える実力を付けるまではまだまだ掛かるという事だ』


『ですが、この装備があれば……』


『ああ、可能な限り早く上が望むような状況で事態は進むだろう。だが、それよりまずは目先の重大事だ』


『はい。了解です』


 引継ぎの交代要員達が各種の陰陽自研から卸された魔力式のレーダーだの受信装置アンテナだの、外部を見る光学観測用の術式から送られてくる映像が映るようになったモニターだのを見つめているが、今のところ異常は報告されていない。


 内部で座席に座り、今も周辺監視に励む自衛官達は極めて勤勉だろう。


 日本国内の様々な情報を観測し、陰陽自研に送信してはいたが、核物質の類が出す放射線諸々は観測されず。


 核という最悪のテロ手段は完全に消滅したと見て間違いなかった。


「あっははははは、あの妙に苦労人そうなエルフ野郎。本当に苦労人なんだな!! いやぁ、ご同類としては笑うしかねぇな」


 遥か上空で己の戦いを遣り切った者達の様子を思って。


 腹を抱えたノヴィコフはニヤニヤした。


「貴方の核がもしも想定よりも大きければ、一斉処理も出来なかった。小型と言ってもあそこまで小型になっていたのは想定外でした。ケース一つ分……それも精密に造った……でも、そうでなければ、中核がもっと大きければ、何処かで被害が出ていたかもしれない」


「頑張って部品発注して誤魔化して計画倒産させてと色々やったからなぁ……」


「確かにこの計画の殆どは貴方が描いたものでしょう。でも、三つ貴方ならやらなければおかしい部分がある。だから、脚本家は別にいる……貴方を拾って、貴方の計画をこの話に転用しようとした人が」


「ご明察、だ。オレは流れのテロ屋でな。生憎と単に頼まれたからってテロするわけじゃねぇんだ。金だって、次のテロの為には必要だし、人を懐柔したり、使ったりするのは良い値段するぜ?」


「CIA……アメリカは単に計画直前に出てきたスポンサーだった、違いますか?」


「その通りだ。おかげで兵隊を幾らか雇えた」

「ゾンビは何処から?」


「人間に見えるバケモンらしきもんが復讐者連中の中にいてな。オレに渡してきたのさ。派手にやりたいなら使えとな」


 それが先日倒したような意志あるゾンビの仲間か何かだろうと少年はすぐに思い当たった。


「不自然だったのはオレが米国に他の戦線都市の秘密を暴露しろと脅さなかった事、日本政府に核の威力を見せ付けてから脅さなかった事、最後に北方諸島側の島々を強制的に汚染する為に仕掛けた核を使わなかった事、だな?」


「はい。さっきの狙撃時の情報では北方諸島には少なくとも一番大きいものが2つも置かれていた……なのに、貴方はソレを脅しの材料にすら使わなかった……もっと人々を揺さぶる事が出来たのにです。日本に対しても核を無人の野に一発撃ち込んで東京にもあると言った方が極めてスムーズに話が進んだはずです」


「はは、だよなぁ。オレもそう言ったんだがなぁ」


「戦線都市の事を知っていた貴方なら、米国に更なる秘密を開示させようというのはやりそうな事だったのにしなかった。米国がゾンビを造っていた、なんて話を貴方があの場で言えば、真実味はかなり高まったでしょう。真実、世界の裏事情を知っている人間の暴露なんですから」


「オレは頚城とやらの話は聞いた事があった。だから、黙示録の四騎士が戦線都市由来の何かだってのも見当が付いていた」


「やっぱり知ってたんですね」


「ああ、生憎と米国のゾンビを輸入された時、手引きしたのはオレだからな」

「………」


 さすがに少年が驚いて無言となる。


「ああ、別に悪意とかじゃねぇんだぜ? そもそもロシア政府も分かってたんだよ。米国が次にどんな手を打つかなんてのはな」


「敢て輸出された、と?」


「ああ。で、オレに無傷でゾンビを手に入れさせようとしてたのさ。相手が兵器を投入したら、鹵獲して研究すんだろ? 米国がグダグダしている間に兵器化する算段だったんだ。オレはその先兵、って事になるか」


「……それがロシアを直接離れた理由、なんですね?」


「だってよぉ。米国部隊を退けて、人ん家の庭で何やってんだって追い払ったとこまではいいが、ゾンビちゃんがねぇ……逃げ出したわけですよ……しかも、管轄が違う組織が横槍入れて来てな」


「ゾンビをとにかく入れたくなかった人達がいたって事ですか?」


「そゆこと。内輪揉めでオレの上司を止めようとした連中に殺され掛けたら……やる気も失せてなぁ」


「ゾンビや戦線都市に詳しかったのは……」


「当時、オレって売れっ子だったからな。色々と機密を握って持ち出してたのさ。最後の仕事が祖国崩壊の引き金だ。米国部隊から回収した資料はオレの手の内。だから、当時の事を知るのは全滅した米の上役連中とオレだけだ」


「……最後に一つ」

「何だ?」


「貴方をの事を教えて下さい」


 少年は今まで見えていたノヴィコフの空白。


 死んだ者にしか浮かばない己の死の結果を前にして瞳を細める。



「……オレの国では魔女の迷信がある」

「魔女の迷信……」


「そいつは黙示録の四騎士を辛うじて撃退した、らしい」


「らしい?」


「見た者がいないんだよ。ただ、ユーラシア中央で奴らと遭遇したが、何らかの方法で生き残ったというのは確認出来た事実だ。それがどんな方法なのかは分からん。だが、今もあの北方諸島にいる」


「ゾンビがいるから?」


「ああ、意志あるゾンビ共と戦ってデータを取ってるそうだ。四騎士と戦える力を造ってるんだと」


「……どうして教えてくれるんですか?」


「んあ? 自分を覚えてくれる人間てのは稀少なもんだぜ? 例え、愛した奴だって、死んだらいつかは忘れられてくんだ。どんな独裁者もどんな恋人も等しく記憶は色褪せ、誰もが忘却していく」


「………」


「これは礼って奴だ。だが、勘違いするな……オレはあいつも標的にしてたってだけだ」


「標的?」


「オレの命を区切ってくれた事には正直感謝してるんだ。惰性で生きてくのは結構シンドイんでな。だが、借りは返す主義だ。奴に恐怖を……妥協と打算に塗れて落ちていく姿が見れんのは残念だが……これでようやくオレも死ねる……」


「悪人ですね。貴方の犠牲者にだって、やりたい事があったはずです」


「だが、生憎とオレは殺した連中じゃないし、それを想像はしても感じ入るところとか無いんでな」


「でも、この国の人達には感謝した方がいいですよ?」


「何?」


「死ねば仏、と言うそうです。葬儀はこちらで出しておきます」


「くくくく……死は人を神にする、か……奴も言ってたぜ? 神になりたければ、死ねばいいってよ。でも、お前みたいなのが……そうか……ははは……第二幕は終わり……だが、の始まりだ……ちょっと、展開はオレの好みから外れてたが……精々、愉しんで踊って行ってくれ……」


 男が糸の切れた人形のように座り込んだまま俯いて呟く。


「生憎と僕、踊りって知らないので。でも、貴方を躍らせてた人の心を圧し折る事だけは確約します」


「ああ、これが死か……いやはや、もっと早くに味わっておくべきだったな。だが、苦しまんのは助かる……やるよ。鍵は……内ポケット、だ―――」


 男が停止する。


 いや、最初から停止していた男を繋ぎ止めていた力が少年の能力を前にあっさりと消え去ったと言うべきだろうか。


 死因すら分からない程に綺麗な死体。


 それを用いた人間とまるで見分けの付かないゾンビ。


 だが、ソレが北米のものとは原理も構造も違う普通の製造方法を用いて創られた代物だと少年は理解する。


 何故なら、少年の超常の力である相手に死を受け入れさせる能力は北米のゾンビに効かないものだったからだ。


 男の遺言を受け取り、内ポケットを漁った手には小さな木片があった。


「………確かに受け取りました。お疲れ様と言っておきます……お休みなさい。ノヴィコフさん」


 少年が男の死体に虚空から取り出した外套の中から白幕を引き抜いて掛け、他の死体にも同じようにしてから僅かに胸へ手を当てて哀悼の意を表する。


 そうして。


 ポケット内で処理した核弾頭をデータだけ残して全てケイ素に変換後。


 部屋を出ていく。


 死の残った部屋の外には今、助かったという泣き声や歓声が響いていた。


『助かったのかオレ達!?』

『テロリストを確保したって今、やってるよ!?』


『で、でも、まだ自爆ベストが、だ、大丈夫なのかよ!?』


 通路の先に出れば、大量の爆薬の箱は全て何処かへと消え去っている。


 少年のポケットを経由して安全な場所に送られたのだ。


 また、数十名の兵士達もまた完全に寝入った様子で道端で鼾を掻いていた。


 フィクシー達がやっていた事は簡単だ。


 武器弾薬の箱類の傍に少年の導線になるM電池やMHペンダントを置いて、ついでにテロリスト達の首筋に背後から近寄って昏睡の術式を注入。


 更に自爆ベストを無力化する為に人質一人一人の身体に人体に接触状態からの爆破の破壊にも耐える程度の身体強化と皮膚に浸透させる方式の方陣を敷設。


 人間の鎖にしていてくれた為、手を繋ぐのを強制されていた彼らに次々と魔術を施す作業は左程難しい事でも無かった。


「マヲ~~」

「クヲ~~」

「あ、あの猫さっきの……」


 何よりも魔力は少年側からの供給だ。


 猫ズが何処からともなく顕れてフィクシーやヒューリ達に魔力を充填。


 術式起動時はフィクシーの術式に魔力を注ぐ役割なども果たした。


 その後、テロリストの視線を身一つで誘導したりして活躍したのである。


 二匹は後で大量の食糧によって報いられる事になるだろう。


 今回、大活躍だった彼らは『褒めていいんじゃよ?』と得意満面に人質の中で椅子の上に座っている。


『あ、ネコちゃん!? ネコちゃんが助けてくれたんだよ。お母さん!! こわいヒトをつれてってくれたの!!』


『あら、そうなの? ありがとう』


 若い親子やら年の行った老夫婦やらテロリスト達の視線を誘導して彼らから意識を逸らしていた間の騒動を覚えていた者達は猫ズに感謝してから頭を撫でつつ、ハルティーナの誘導で一か所に集められていく。


 下の階には未だ爆薬とセンサー類とセントリーガンがマシマシであったが、そこから出るだけなら、何とかなるだろう。


 ヒューリが体調を崩した年配の者にMHペンダントを渡して回りながら、これから本部に帰るのは明日だろうかと。


 今後の予定を周囲に相談しようとした時だった。

 ツリーの根本が次々に爆破された。


「な?! 時限式ではなかったはずだぞ!? まさか、まだ遠隔起爆のスイッチが?!!」


 フィクシーが一か所に集めた人質達を護るように方陣を展開して衝撃で転んで重体になるような事が無いよう衝撃緩和を行う。


『きゃぁああぁああ!?』

『まさか!? 爆発した!? た、倒れるのか!!?』

『お母さぁあああん』

『神よッ。この子だけでもお守り下さい!!』


 老若男女人種のバラバラな人質達。

 彼らが一巻の終わりという言葉を連想する暇もなく。

 傾いていくツリーの中で叫びを上げる。


『何だとぉおおおお?!!』

『た、盾を上に掲げろぉおおお!!!』


 ツリー下部。


 上部を制圧したとの報告を受けていた警察がようやく突入部隊を再編制し、善導騎士団本部との連携によって人質を救出しようとしていた矢先の出来事。


 猛烈な爆風で隊員達がツリー周囲で数十人も吹き飛ばされていたが、盾を構えていたおかげで脳震盪程度で助かっていた。


『退避ぃいいいいいいいいいい!!!』

『まだ、人質が上にいるんですよ!!?』

『見捨てるんですか!!?』


『出来る事なんざねぇ!! 今はとにかく巻き込まれるなぁあ!!!』


 すぐに現場でツリーの倒壊の危険性から退避命令が出される。


 警官達が下がっていく最中。


 米軍部隊もまたツリー倒壊の危険性からすぐに部隊をその場から後退させる。


『―――CPより部隊各位へ。帰還せよ。目標は達成された』


『オイオイ!? ツリー倒壊に巻き込まれるのはごめんだが、何とかならないか!!』


『―――我々は神ではありません。ただ、後は祈るだけです。それに彼らがいる……どうにかしてくれると信じるしかないでしょう』


 コマンド・ポストからの言葉に部隊は慙愧に堪えないという表情ながらも、了解の言葉のみを返して闇夜の奥へと引いていく。


 落とされた機材の回収も米軍の専門の掃除部隊が現在行っていて、すぐに離れるようにと話は付いていた。


 彼らの前で次々にツリーの壁面の構造が爆破で破壊されていく。


 傾きは更に大きくなり。


『た、倒れるぞおおおおお!!!』

『クソぉおおおおおおおお!!?』

『どうすりゃいいんだよぉ!?』


 綺麗な闇夜の中。

 掛かる満月の下。

 人々は声を荒げて世の無残に涙する。


 だが、それを座して見守る者が……今の今まで待機していた彼らに……善導騎士団の部隊には誰一人いなかった。


『行きます!!』

『行くぞ!!』

『最大加速だ!!』

『動魔術駆動ッ、最大出力!!』


 正しく滾る彼らの信義と正義が証明していた。


 人はこれ程までに他者と己の命の危機を前にして―――ガムシャラに己の命の危険すら省みず、前へ進めるのだと。


 即座に飛び出した者達の背後から号令が掛かる。


『善導騎士団出動せよ!!! 隷下部隊はツリーの倒壊を食い止めよ!!』


 ―――【全兵装使用許可。封印解除】


 多数のビルの屋上。

 集合していた者達の装甲が輝きを増していく。


 内部に込められた術式が次々に駆動し、肉体と超常の力の各能力を飛躍的に引き上げていく。


『術式開放ッ!!』

『最短軌道を行け!!』

『最速で辿り着くぞ!!』

『了解ッ!!!』


 装甲が彼らの身体を高速で跳躍気味に動魔術によって加速させた。


 それはまるで飛び跳ねる閃光。


 残像だけを残して無数の隊員達が都市の虚空へと舞う。


『おっしゃぁあああああああああ!!!』

『突撃!!! 全隊!!! 脚部に向けてトリモチ弾を発射しろ!!!』

『念動持ちは下から支えろぉおお!!!』


『ディミスリル皮膜合金製のロープを800m!! 本部ッ、大至急だ!!』


 次々に彼らが倒壊し掛けているツリーに取り付いた。


 ある者は己の見えざる物体を動かす力でツリーを押し戻し、ある者は取り付いたツリーをまるで重力など無いかのように一周して縄を外套から取り出して掛け、地表の力自慢の者達に渡し、ある者は破壊された橋脚と礎部分に大量のトリモチ弾を撃ち込み続けて、破壊され切った部位を地表との間に縫い留めていく。


 それを見た警官達の中には命令を無視してでもと自分が出来るだろうロープを引っ張る者の列に加わる者もあった。


『今、本部から命令が下りた!!』

『そんなの誰も待ってません!!』

『減俸も皆でやれば、怖くないってか!!』

『警察官だって人間ですッ!!!』


 それを見た現場の指揮官達もまた次々に人の輪が傾いたツリーを馬鹿馬鹿しい程の力技……人力にて再び引き戻そうと指示どころか自分で参加すらしていく。


 少年が造りしスーツと装甲を纏った者達が倒壊し掛けた巨大な建造物を繋ぎ止める様は正しく奇跡よりもまた確かに人の手で起こした必然であった。


 だが、それを嘲笑うかのように闇夜の奥で巨大な影が蠢く。


 不可視化してずっと彼らを遠巻きにしていた何かが動き出そうとした時だった。


『おっと、魔族の領地に何用かなぁ? 化け物ちゃんよぉ』


 その顔だけで頭部の無い装甲を纏ったゾンビが二体。


 蠢くソレの前に虚空から降りて来る。


『気を付けて。こいつとソレ……かなり、に近い』


『ハッ!! ご同類ってわけか。ま、こんな事してんのと一緒にされちゃ迷惑だがな。良いとこでわざわざ爆破しやがって、感動秘話みたいな事になってんじゃねぇか。あっち』


 蠢く何かの背後から何者かが歩み出て。

 ビル屋上の建物の暗がりから彼らを見やる。


「魔族とやらの頚城か。面倒な……四騎士の対処以外に力を割いている余裕は無いと言うのに……」


『爆破テロが防がれたってのに余裕だなぁ。クズ野郎』


「人類にとってまた有害ならば、貴様らとも戦う必要がありそうだ」


『噛み合ってねぇし。ま、魔族だって人間様には敬意を払ってるんだぜ? だから、こうして黙示録の四騎士共が喜びそうな事件は揉み潰してるし、人類の団結を阻害しそうな米国さんからも過ぎた力は回収させて貰ってるんだがなぁ?』


 ヴァルターがその片手に巨大な噴出孔が複数開いたガントレットのようなものを虚空から呼び出して装着する。


「―――オリジナルのコピー品か!!?」


「おや? 知ってるご様子。こいつはこの間、蛙の野郎に言われてオレらの仲間が取って来た米国製の新型兵器って話だったんだが……へぇ~~? やっぱり、UWSAは諦めてなかったのか」


「チッ、そいつを寄越せ。人類の為には人類の頚城が必要だ。米国などではなく。人類全体の為の頚城がな!!」


『あはははは、馬鹿かぁ? 人にモノを頼む態度じゃねぇんだよ……取り敢えず、そいつ諸共叩かせてもらうぜ?』


「この屑共め!! あの男を囮にして関東圏に放ったゾンビを全て破壊したのは貴様らだな!!」


『ええ、それの何が問題なのかな? 人類護ってますが何か♪』


「黙示録の四騎士に対抗出来るのは我が主の創り出す頚城のみ!!! その為には死が必要なのだ!! 封鎖された関東圏一つで他の人類生存領域の全てが救われるのならば、安いものだろう!!」


『やっぱり、ソレが狙いか……人類を救う云々言ってる癖にゾンビをばら撒く理由なんてソレしかねぇよなぁ?』


 ヴァルターのガントレットが煌々と薄緑色の魔力の転化光を噴き上げ始める。


 その輝きはやがて穴から噴出して周囲を粒子状の何かで満たしていく。


『ははぁん? この転化光……つまり、オリジナルの模倣って事なのか? ふむふむ……蛙には好きに使っていいって言われてるし、ちょっと使ってみようか。アンタのそのとどっちが強いか勝負しようぜ?』


「―――やれ!!! ストリヴォーグ!!!」


 ツリーから数km地点。

 未だ人のいる世界に猛烈な突風が吹き始めた。


『人様に迷惑掛けちゃダメだろ!! 学校で習わなかったのか!! クソガキィ!!!』


 ヴァルターが腰溜めに構えたガントレットで正拳突きをその見えざる何かに放った。


 途端、巨大な薄緑色の粒子の本流が屋上毎、全ての存在を巻き上げる突風を貫いて上空200mまでも吹き飛ばしていく。


「クソ?! 何だこの馬鹿出力は!? コレが魔族の頚城の力か!!?」


『んな大そうなもんじゃねぇよ。死から魔力を無限に汲み上げる術式はなぁ。そもそもが通常の都市じゃ枯渇気味なんだよ。頚城が容易に作れねぇのはそういう理由もある。だが、そもそもなぁ?』


 上空へと噴き上げた巨大な何かが月を背にして姿を現す。


 その背後に人影を護りながら。

 ソレはまるで岩塊にも似ていた。


 だが、金属塊というのが表面の光沢から分かるだろう。


 バキバキと罅割れながら、人型へと成形されていくゴーレムのような何かは旧い民族衣装のようなレリーフ染みた容貌を苔色のメタリックな装甲と合わせて、何か古の彫像のようにも見えた。


『生憎とオレらを造った超高位魔族は魔力を全力で出力しても1000年は生きられるって神様染みた魔力量してるらしいんだよ』


「―――ッ」


『オレらに使った魔力なんぞ。奴にしてみれば、一日生きるのに必要な魔力をちょっと渡した程度だろうよ。黙示録の四騎士は力の上ならオレらの上司には敵わねぇ。だが、問題は頚城としての機能だ』


「ッ、ストリヴォーグ!!! 全能力を開放しろ!!!」


 巨大な台風の如き爆弾低気圧が東京上空に顕現する。


 そう、顕現だ。


 そもそも存在していなかったモノがいきなり現れたのだ。


 大抵の魔術における事象は物理事象に介入、もしくは小規模な法則の改変なども含めて基本的には在るモノを変化させるものが主流だ。


 だが、その彫像はいきなり存在しないモノを現実に引き出していた。


「ハッ!! 高々、単なる物理事象を顕現したから何だって? 此処は日本だぜ? 台風なんざ日常茶飯事だ!!! 東京都民には悪りぃが、ちょっと豪雨で浸水くらいは勘弁して貰おうかね」


 ガントレットが輝きを自身に集束させていく。

 少年がもしもその光景を直接見ていれば、驚いただろう。

 その緑色の輝きに混じって空白が収束されていく。


 ゾンビたるヴァルターとユンファ、またストリヴォーグの背後にいる者にもガントレットが死を集束しているのが理解出来た。


「行くぜぇ!! 死んでも恨むなよぉ!!! オラァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 上空からダウンバースト染みて高速で収束して降りて来る巨大な大気の爆弾は常識以上に集束されてもはや風速は計測不能。


 地表にブチ当たれば、瞬間的な突風はビルを薙ぎ倒して爆心地から数十㎞圏内を瞬時に更地とするだろう。


 だが、それにも況して地表に現れた緑色の粒子の集束が凄まじく。


 東京全土へ瞬時に広がって覆い尽したかと思えば、逆流するかのようにガントレットへと再収束後、爆ぜた。


 大気を突き抜ける巨大な光の柱。


 それが実際には杭の形をしているという事を知ったのは東京上空で未だ待機しているクローディオのみであった。


「なんだぁ?!! 大魔術合戦でもしてんのか?!! ああ、もう?!! このままじゃ四騎士が来ちまう!!? 降下だ!! 本部!! 落下ポイントに回収へ来てくれ!! 後でいいから!!」


『副団長代行の代行。決済書類が溜まっておりまして……戦闘中で無いならば、お願い出来ませんか? システム的に音声承認するだけでもよいので』


「こんな時に決済? 書類仕事とか……」


『副団長代行はこの量を必ず8時から6時までの間に終えておりますもので』


「ホント、仕事出来るな。我らが大隊長。副団長代行殿は……」


 上空から動魔術での高度維持を止めた痛滅者が地表へと落下していく。


 その輝きは流星にも見えたが、降下中にもクローディオは光の杭が収束していく付近に二体のゾンビの姿を発見し、敵の姿らしきものが見えない事から、何かを戦い滅ぼしたか撃退したのだと理解した。


「一体、何と戦ってたんだアイツら?」


 全ては闇の中。


 しかし、打ち払われた低気圧の爆弾の残差が周辺の高気圧との関係から大量の雨雲を発生させ、周囲の土砂降りの雨を呼ぶ雲を生成していく。


 まるで街が泣いているかのようなゲリラ豪雨。


 だが、その巨大な雨雲が発生したとしても、問題は無いだろう。


 関東圏全域で善導騎士団がこの数週間、あらゆる対策を行ってきたのだから。


 迅速な避難に必要な絶対に安全な河川付近の避難経路やら魔力を用いて稼働するシェルターやら少年は陰陽自で研究開発や必要な資材の生産備蓄の傍ら、北米での作業以外の余った処理能力を全て関東圏の対災害計画に極振りしていた。


 寝ていようが、起きていようが、ほぼ家一軒分の質量が流動し続け、処理、吐き出され続けるだけの簡単で満杯なお仕事は例え休暇中であろうと留まるところを知らない。


 今、正に避難警報の発令と同時に次々と市民達は近所の空き地にニョッキリ1日で生えてきた日本政府と善導騎士団の共有管理する避難シェルターへ押し寄せていた。


『お祖母ちゃん!! 夜だけど移動しますよ!! また大雨だって!!』


『ぁ~~またかい?』


『ええ。でも、ほら、近所に出来た避難所。アレに行くのよ。アレに』


『あ~~~アレねぇ~~丸いやつでしょ?』


『そうそう、一杯あちこちに出来たってお祖母ちゃんの友達も言ってたでしょ?』


『ん~ん~言ってた言ってた』


 関東圏と言っても都市部以外はそういった避難所というのはそう密集して存在しているわけではないし、山間部では遠くまで行かなければ存在しないという事もあるものだ。


 だが、コスト的に見合わないという理由から一町村で1か所のような避難所がもしも7か所以上あれば、どうか?


 という話を真面目にやったのが善導騎士団であった。

 人がいなくても自分達で回す事が出来る避難所。


 シェルターは事実上、山小屋のようなものに運用が近いと言える。


 自分達であるモノを使って凌いでね、という話である。


『町長!! 避難指示出ました!!』


『ん!! では、特別災害マニュアルに従って町民に避難指示を!!』


『はい。多くの町民達も自主避難に動いているようです!!』


『そうか。こんな田舎に新しい避難所が9つ……これも彼ら善導騎士団の御業か』


『……超技術集団。確かに予定地がいきなり整地されて建材が輪切り状に積み上がってたりしたのには驚きました……』


『各老人ホームや公営の施設入所者達にもすぐ傍に立ったシェルターに移るようにと』


『了解です!!』


 あの東京湾から発生した暴風雨やビル群災害などを教訓として、あっという間に災害時の避難マニュアルが整備されて国営放送や市町村の各種広報で垂れ流されてきた。


 毎日のように善導騎士団とベルに整備されたシェルターは関東圏でようやく完全充足しつつあり、実に広い田舎でさえ、1km毎に1つという割合で整備され、公的な入所者がいる施設の横にもしっかりと設備が食料や災害時に必要なあらゆる物資込みで毎日40棟ペースで建ち続けたのである。


 体育館程の広さの設備は丸形のドーム状で全て国有地及び県市町村管理下の場所が選ばれた。


 今はまだ都市部に限られているが、その場所までの道には魔力充填式の災害時でも風雨を弾く術式が織り込まれた道路が国道や主要道路に併設、改良を重ねる形で敷かれており、避難中に災害で命を落とす確率も低い。


『食料はあるかしら!!』

『保管庫にあります!!』

『赤ちゃんがいるの!! オムツあるかしら!!?』

『あります!!』

『水って調理場で貰ってくればいいの?』


『お水はボトルで置かれておりますので並んでお受け取り下さい!!』


『寒いんだけど、暖房って此処にあるの?!』


『専用M電池がええとええとHMペンダント。これだ!! これを首から下げればヌクヌクですよ!!』


『い、犬も連れて来ちゃったんだけど、だ、ダメ?』


『大丈夫(´・ω・`)ワンちゃんネコちゃん爬虫類、お魚以外の飼育用飼料と専用個室も完備しております。入っている間は専用の場所に必ずトイレをして、後は大人しく寝ている感じになりますが、よろしいでしょうか?』


『そ、その!! ダンボールも無いし、何処に私達寝れば?!!』


『心得ております(; ・`д・´)完全個室製で150人までの定員が入れます。個人以外の家族用スペースもご用意しており、寝台は樹脂製ですので普通のものと見ても遜色は無いかと。地下で良ければどうぞ!!』


『く、空調は!? 空調は大丈夫なの!?』


『はい(*´ω`)ABC兵器の直撃にも耐えるようにとの話で完全な内部の循環が可能で中枢は魔力と電気駆動どちらも選べる優れものです』


『あ、明日までにお仕事で仕上げないとならない書類が!! パ、パソコン!! パソコン無いですか!! 後、無線LANやWi-Fi!!!?』


『ご安心下さい( -ω- )当シェルターは対ゾンビ用のシェルターと同様にパソコンが寝台毎に1台、寝台横のサイドチェストを展開すれば、その場に寝ながら使用出来て、ネットにも繋がります。完全無料です』


『そ、その……ウチの息子がアニメみたいって我がままを……今、スマホが情報規制されてるらしくて……テレビ有ります?』


『勿論です(=_=)テレビは壁掛け式で寝台の足元にありますが、ネットでも見れます。あ、共有サーバー内のファイルには政府がデータ化した全てのアニメが昨日時点の放送分まで全て入っております』


『その……おふ―――』


『ご心配なく(;・∀・)館内に公衆浴場が完備されており、男性女性用で別れていますが、夜は8時から3時間、開放致します。あ、ボイラー設備も空調と同じ仕様ですので』


『あの、此処ってぼうお―――』

『残念ですが(◎_◎;)……』


 ―――『(何処かホッとした様子となる避難者一同(´-ω-`))』


『(◎_◎;)ご家族、恋人との御使用も前提となっておりますので完全防音なのですが、そちら系の映像資料やAVは全てとなっております。一人でこっそり見たい場合は専用個室をご使用下さい』


『『『『『『『『『『『『『(・ω・)……』』』』』』』』』』』』』


 とにかく万事が万事このような調子で関東圏では次々に奇妙なシェルターに人々が呑み込まれて行っていた。


 実はこの数週間、設備以外の備品として各自治体のシェルターに納入される物品の購入費用が善導騎士団から大手パソコンメーカーや衣類メーカーや寝具メーカーに莫大な額流れ込んでいたりする。


 が、それでもまったく善導騎士団の資金力に底は見えなかった。


 理由は単純明快。


 善導騎士団へ融資したいという銀行は上から下まで大量。


 地銀ですら彼らに資金を貸し出していたからだ。


『先輩。ほら、善導騎士団の特集やってますよ!!』


『お、核を防ぎ切った我らの善導騎士団にカンパーイ(´▽`*)』


『酔ってますね……缶詰だけの侘びしい飲み会ですが、ああ関東で出回ってるって噂のヒューリア印の野菜……2倍の値段で買っちゃおうかな!!』


『お前も酔ってんな。でも、オレが善導騎士団を育てた( ̄д ̄)』


『何億融資したんでしたっけ?』

『140億(-ω-)』


『ブッホ?! ウチの年間貸付額の40%以上あるじゃないですか!? 表沙汰にならねぇわけだ……で、担保は?』


『現品の善導騎士団内でしか出回らない純正MHペンダントとM電池100本ずつ。それからディミスリル300t』


『ソレ……明らかに貸付額の数十倍ありません?』


『我らの将来は安泰!! 善導騎士団が供給量を絞る事になったら、ディミスリルは売却していいってさ♪ 純正品は最後の最後に売却する契約だけどな』


『返さない事前提なんですね……』

『良い商売だろ?』


 担保は地銀の借り上げた倉庫に唸る程死蔵する形で送り付けた純度100%のディミスリル粒粉とディミスリル加工物だ。


 今後、ディミスリル利用が本格化すれば、その莫大なディミスリルを銀行は損益が出ない程度に協調して各地の企業に売却する事となっていたのである。


 これは亡命政権下の銀行ですらも同様であり、今や貸付額は軽く十兆単位となっている。


 まぁ、生活用途のディミスリル加工品の需要がMHペンダントを皮切りに爆発的な勢いで関東圏からも広がりつつある事は政府統計からも明らかであった。


 暖房器具、冷房器具、湿度管理器具、浄水器具、ボイラー設備、空調設備、農業系作業機械、農地改良器具……今まで少年が魔術具として具現化してきた施設用の器材や農業で培ってきた大量の魔導による便利能力がディミスリルに付加価値付きで売られるのである。


 それも善導騎士団が使うモノは純正品として馬鹿高いウン千万という値段にして耐久年数ウン百年なのに通常の日本企業製は大型設備系でなければ、基本的に小物は1年程度で能力が落ちる仕様で……買い替え需要もバッチリ……ついでにリサイクル事業でもガッチリである。


 その代わりに医療以外の重要度が低い器具が数百円から数千円を価格帯として設定し、値段の上下は能力ではなく、能力が効果を及ぼす広さや出力などで基本的に測られる。


 そして、そのディミスリルを使う為の魔力は善導騎士団及び日本政府が卸売りするというのである。


 正しくぼろ儲けも良いところであった。


 ディミスリルはあらゆる産業の素材として極めて優秀な適正を示している。


 それは陰陽自研で拍車が掛かっており、一部の技術は既に善導騎士団の認可の下で各企業体に卸されて、次々に現物として研究開発が進められ、新商品の中に混ぜ込まれ始めていた。


『でも、お高いんでしょう?』


『いえいえ、お安くて従来品より優れてて耐久年数も十分ありますよ。実はコレ、陰陽自で開発されたものの技術の一端が使われておりまして……』


『まぁ、それはそれは……でも、やっぱり、お高いんでしょう?』


『いえいえ、此処だけの話。この技術創ったの我が社なんで、我が社の製品利用に限ってはパテントも発生しないので他企業さんより安く出来るんですよ』


『1000程貰えるかしら?』

『喜んで(≧▽≦)』


 そうして、核が防ぎ切られた事実と……もはやこの異常事態に慣れ始めていた関東圏の人々を筆頭とした多くの一般市民達は善導騎士団という存在が生活の中へ急速に浸透していく事を肌身には感じずとも何処か空気感として理解していた。


 それは正しく日本特有の空気を読む能力というヤツが発揮された瞬間だろう。


 どんな事もそれが日常になれば、慣れるのが人間であり、世界一妄想力逞しいアニメと漫画大好き日本人の常識には魔法使いだろうが騎士団だろうが受け入れ難いという文字は無かった。


 それが社会と自分達に大量の貢献をしてくれる、命すら時に救うモノであれば、尚更だったのである。


 また国家規模の現象がバカスカと連発された日本空域。


 しかし、黙示録の四騎士の姿はその場に現れる事も無かった。


 ただ、その現象をビルの屋上で目撃していた大量の買い物袋を提げた少女。


 七教会製の法衣に奇妙な着ぐるみ系な衣服を纏う彼女は目をキラキラさせて、面白そうな事になっている少年がいたツリーと善導騎士団へと団員を連れて飛んでいく空飛ぶ鯨を見て、もう少ししたら遊びに行こうと思うのだった。


「ベルはん。喜んでくれはるかなぁ? あ、ライブの時間やったっけ?」


 世界には全てが終わった後の土砂降りの雨が降り始め。


 しかし、完全静止したツリーは微妙に傾きつつも、その雨を受けて次の朝には滴を輝かせる奇跡の塔と人々に見られる事となるだろう。


 夜は暗雲と土砂降りの中で更けていく。

 だが、それもまた永遠ではないと人々は避難所の中。

 空を見上げ思うだろう。

 誰もが明日は晴れていると確信出来ていればこそ。


 その一夜に震えるような不安を持つ者は関東圏にはまったく多くなかった。


 印象深い闇の奥。


 善導騎士団東京本部の地下から発されるシエラ・ファウスト号の誘導用ビーコンの光は雨に遮られて尚、煌々と輝き。


 まるで真白き不滅の巨塔のように立ち上っていたのだった。

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