第28話

「さー面白くなってきたこの借り物競争、パラソルを持った赤組と女の子の手を引いて向かって来る白組、どちらが先にマイクの前に到着するのかー!?そして白組が引いたカードは果たして「好きな人」なのか!?」


 そのうるさいアナウンスのおかげでようやく先に保護者席に行っていた赤組の生徒がマイクに向かっているのに気づいた。


「菜穂、少しスピード上げるぞ」


 後ろを少し見ながら伝える。菜穂は下を向いたままだったがこくりと頷いた。


 菜穂の了解を得てスピードを上げる。


「マイクは目の前です。頑張ってください!」


 ようやく普通の応援がアナウンスされる。その時には俺たちはすでにマイクに目の前に着いていた。


「一位は白組だー!お題はなんだー?」


 グランドに置かれたマイクに近づく。その横に立っている係委員に手に持っていたカードを渡す。


 係委員の人はカードに書かれた内容を見ると軽く頷いた。そのままマイクに誘導される。


 マイクの前に立つとカードの内容を口にした。


「料理の得意な人」


 その声に多くの生徒から「あー」と言う脱力するような声が聞こえる。


「本当に好きな人ではないのですか?」


 アナウンスしている生徒がマイクの横に立つ係委員に聞くと係委員は両手を上に上げて丸を作ってみせる。


「そうですか、それは残念です」


 一位になったのに残念がられるとは思ってもいなかったがまぁ一位には変わらない。


 テントの方を見ると面白がってブーイングしている生徒がちらほら見える。何か一言言ってやりたいが、俺の後ろではパラソルを持った赤組の生徒が待っているので抑える。


 そんな中、顔を上げて目をパッチリと見開いた菜穂が俺の顔を見てる。その顔はすぐに収まり、かわりに苦笑した。


「どうした?」


「いえ、なんでも」


 菜穂は表情を変えることなくそう言った。でも握っていた手はより強く握ってくる。


 菜穂が手を話す様子がないのでそのまま順旗の列に並んだ。そこから退場まで俺たちは無言だった。






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