第15話
真奈美を背負ったまま二階の廊下から一階の保健室まで連れていく間多くの生徒が見ていた。だがそれどころではないとわかっているからか、人目は気にならなかった。
「失礼します」
足でドアを開ける。体勢を後ろに倒れそうになるが踏ん張り保健室に入る。
保健室は静かで先生の姿もない。ひとまず真奈美を一番近くのベットに寝かせる。
「ちょっと先生探してくる」
仕切りようにカーテンを閉めてここから出ようとするとカッターシャツを真奈美が引っ張った。
「待って」
振り返ると細く目を開けた真奈美がこちらを見ている。いつも白い肌は赤く染まっている。
「どうした?何か飲みたいのか?」
体が火照っているから喉が渇いているのかと思い聞いてみたが違うらしい。顔を力いっぱい左右に振って否定された。
「・・・て」
「何?」
声がよく聞こえなかったので顔を近づける。真奈美は顔はより赤くなった。目の反対側を見ている。
「もう少し一緒に居て」
「・・・わかった」
真奈美から顔を離し近くの丸椅子を持ってベットの近くに座った。少しの沈黙がそれから訪れた。真奈美の違うところを見ているし、俺はちょくちょく時計を見た。さすがにクラスのみんなが登校して来て席に着いている頃だ。もしかしたら先生も来ているだろう。俺たちがいないことをクラスのみんなが伝えてくれているだろうから時間は気にしなくてもいいのだが、目のやり場に困っているのでかってに目が行ってしまう。
それから五分ほどすると真奈美が口を開いた。
「綾人は何で私のお願いを聞いてくれるの?」
唐突な質問に言葉が出なかった。何でだろうと考えたことはなかった。これまでも真奈美からは大小構わずいろいろなお願いがあった。宿題の写しや売店のパン買い出し、ときには隣町のモールに買い物に行ったこともあった。あの時は男の人の意見が聞きたいからと言っていたっけ。そう考えると理由は一つだろう。
「幼馴染だからかな」
「・・・そっか」
真奈美は体を反対側にねじって丸くなった。布団も枕も置いてなかったベットは何処か寂しさを感じる。
後ろの方からドアがガラガラと音を立てて開く。
「あれ?そこに誰かいるの?」
カーテンを閉めていたので見えないのだが、先生は人の気配を感じたのだろう。俺はカーテンから顔を出し、いますとだけ答えた。
「そういえば埼崎さんは?」
ここにいますとカーテンを開けて真奈美を先生に見せる。先生は顔赤いねと言って体温計を持ってきた。
「関谷せきや君ありがとうね。あとは任して授業行っていいよ」
そういわれると行った方がいいように思えてドアに手かける。真奈美は先生の言うと通りに体温計を計っている。これ以上ここにいる理由はなくなったので保健室を出ることにした。
「失礼しました」
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