第6話

「クラスの子に聞いたんだ。最近一年の子と仲良く話してたって」


 真奈美は歩きながら聞いてくる。顔は前を向いたままだ。


 べつに隠さないといけないことは一切ない。いずれは話す時が来るだろうし、今がそのときだろう。


「あの子とは受験日にあったんだ」


 それから俺は家に着くまでの間に真奈美にこれまでのことを話した。真奈美の反応はイマイチだったが納得はしてくれたようだった。


「それでお弁当は美味しかったの?」


 話が終わると急に真奈美が睨みつけながら聞いてくる。目が怖い、まるで獲物を狙う猫のような目だ。


 お弁当は美味しかった。初めて誰かに作ってもらったが、やはり親と違いかなりこっていた。冷凍物は多い親と比べて、菜穂が作った弁当は手作り感満載だったな。


「美味しかったよ」


「そう・・・なんだ」


 俺を睨んでいた目はいつもの目に戻っていた。だが声は少し沈んでいた。いつのまにか真奈美の家の前についていた。


「真奈美、また明日」


 俺は真奈美から視線を外し前を歩こうとすると真奈美に服の袖を引っ張られた。振り向くと下を向いていたが確かに俺の服を強くつまんでいる。耳が心なしか赤くなっている。


「綾人、明日のお昼私に付き合ってくれない?」


 下を向いたままなので顔の表情はわからない。よく見ると体が少し震えているようだ。住宅地なのに人影はない。もしこの状況を見たらなんて思うんだろう。


 考えがだんだんと脱線して来ていたので無理やり考えを戻す。


「明日?べつにいいけど・・・」


 明日の予定は何も無かったと思う。突然職員室に呼ばれたりしない限りは。


「・・・よかった」


 真奈美から小さい声が聞こえた。真奈美は俺の服の袖から手を離すと玄関に走って行った。


 ドアノブを握って真奈美は後ろを振り向いて軽く手を振ってきた。


「また、明日」


 俺がなにかを言う前に真奈美は玄関の奥に消えて行った。


「一言ぐらい言わせろよ」


 真奈美の家の玄関前で独り言を呟くと、自分の家の方へと歩き出した。夕日が沈みかけ、カラスが鳴いている。相変わらず人影はない。ここはある意味不審者が出やすいかもな。


 妙なことを考えてしまうがそれほどこの時間は人がいない。小学の頃は親が真奈美のことを心配して一緒に帰れってよく言ってたな。真奈美を一人で歩かせてはいけないとか。


 今もその習慣が続いているのかな?


 懐かしい思い出を遡りながら我が家の玄関を開けた。

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