ミニマリスト経営者の異世界転生
どうも、マクメリーです。
今日は皆さんに重大なお知らせがあります。
それは……
ついに私、異世界に転生することになりました!
でも意外と「やっぱりな」と思った方も多いのではないでしょうか。
以前の配信でも言っていたように、私はサウナが趣味でして、しかも相当なヘビーユーザーでなんならサウナの経営すらしてますから。
いつも通りガンガンに熱くしたサウナにこもって汗を大量に流した後、近くの冷たい川に飛び込んだところ、さすがに今度ばかりは整うどころか心臓が持ちませんでした。
なんか死ぬ前に心臓が異常にバクバクして、爆発しそうな感じがしたと思うと、急に一切動かなくなったんですよね。
最初の方は意識がありましたが、気が付いたらもう死んでました。
ただ、死ぬにしてはそこまで苦痛もなく、気づいたら死んでた、という感じでしょうか。
皆さんは絶対マネしないようにしてください。
マジで死んだらシャレにならないです。
異世界に転生するのは、後でもいい。まずは現世を良くしてください。現世のために頑張って、自分の人生をやり切ってからにしてください。
こんなバカげた理由で異世界転生してもしょうがないですよ。
経験者が言うんだから間違いないです。
最初は実感がなかったんですけど、なんか女神っぽい人が出てきたところで、「あっ、これ本当に異世界転生なんだ」って実感が徐々に湧いてきました。
いやぁ、まだまだやり直したいことあるのになぁ……異世界でって言われても、異世界でまたやりたいこと探して、というのも面倒ですし、そもそも急に異世界に行って馴染めるのかどうかって不安もあります。
でももう死んじゃったものはしょうがない。
過去は変えられません。
人は現在しか生きられません。
変えられるのは未来だけです。
で、女神さまも、そういう不安を察知してくれたんでしょう。
「まあ、最初はみんな不安で緊張しちゃうんですよ」って励ましの言葉をかけてくれました。
それからはお決まりのスキル編成。
私、ミニマリストなので、それにちなんだスキルでお願いします、と言ったところ、女神さま、笑顔で承諾してくれました。
本当に最高のサービスです。皆さんも異世界転生したときは、ぜひお気軽に頼んでみてください。
スキルは不要な物を即座に消去できる、「一括デリートスキル」ということのようです。
なんかドキドキしてきました。
そしてついに異世界転生です。
次は最高にミニマムで生産性をさらに突き詰めた異世界ライフを送ろう、と心に決めて、ついに異世界に転生しました。
ちなみに、このまま異世界に行くのは異世界転移とかなんとかいうらしいんですけど、細かい定義はここではあまり意味がないので深くは追求しません。
とにかく、死んでスキルを持って異世界に行ったこと、それだけです。
常に本質を見ましょう。
それでは異世界ライフ、スタートです!
「異世界ライフスタート!」と急に言われても、何から始めればいいのか戸惑う人も多いのではないかと思います。
そんな異世界初心者は、まずは「人を探せ」とアドバイスします。
人がいれば、そこには町か村があることでしょう。そうすれば、食料や必要な生活物資もあることでしょう。
異世界に転生した状況によっても違いがあると思いますし、そもそも人がいない異世界というのもあるかもしれません。私も異世界転生したの、今回が初めてなので、そこまで詳しく語るつもりもないですが、
「まずは人を探せ」
これはマストだと思います。
そもそも、人は一人では生きていけません。
人は社会性の動物なんです。
どんなスキルがあったところで、一人じゃ意味ないですよ。
というわけで、まずは町に到着。
ここで私がラッキーだったのは、町までの距離も近く、けっこう文明レベルも高い異世界だった、ということでしょうか。
腹が減ったのでそこらへんの町中に行くと、なんと素晴らしい屋台やレストランが並んでいます。
とはいえ、お金をもってません。
何せ私はミニマリストなので、現金なんて捨ててとっくにキャッシュレスです。
さらに今頃気づいたんですけど、私ってサウナから川に飛び込んで死んだじゃないですか。だから服着てなかったんですよね。
いや、女神さまも服くらい着せてくれよ、と心の中で思ったことは内緒です。
いくらミニマリストと言えども、全裸で転生してくるってそれターミネーターかよって思わず突っ込んじゃいましたが、周囲の人はそれどころではありません。
食事中にいきなり全裸ミニマリストが入ってきたんだから、そりゃ大変ですよね。
ただ、この異世界の民度は高かったのか、特に大騒ぎすることなく、店員さんが出てきてちゃんと対処してくれました。
本当にこの時の店員さんの対応には今でも感謝しています。
ここで気づきました。
異世界でも結局人間は同じなんだって。
まあ、それに気づけたのは牢屋の中だったんで、もっと早くに気づけたらなぁっていうのが、この時の後悔ですけどね……
でも、人間はいつまでも落ち込んでいるわけにもいきません。
私の求めたい生産性を、この異世界で求めていくために、何ができるのか。
とりあえず牢屋にぶち込まれる際に最低限の服を支給されたので、それで最悪の状態からは脱出できました。
とはいえ、文明レベルが高いとはいえ、牢屋での生活に期待できることはありません。
とりあえずやることと言えば、脱獄です。
牢屋に入ったら脱獄、でもOSの脱獄はするな……!
そう強く思いつつ、まずは牢屋の扉が不要だと思ったので、スキルの「一括デリートスキル」で消します。
長いのでこれからは「デリート!」って叫びますので、それで何となく察してください。
ここまで読んできた皆さんなら大体理解できると思います。
それでスキルってすごいですね~。
発動した瞬間、扉が一瞬で消えました。
まあ、それ以前に牢屋の中の臭いも消してましたけどね。こういう抽象的なものでも消せます。
というか、そもそも臭いって空気中の化学分子を鼻がキャッチして知覚するので、その空気中の臭い分子を消せば臭いはなくなります。
これは物理法則なんで異世界とかそういうの、関係ないです。
知識は世界を超える……!
ということで、とにかく牢屋を脱出しようとしたところ、周囲から凄まじい叫びが……
「俺も出してくれ!」
「無実なんだ! 早くここから出してくれ!」
いやぁ、これには参りました。そもそも、自分が出られればいいので、そんな他人になんてかまってられません。
だいだい、こういうところで無実と言ったところで、それ私に分かります?
無実なら裁判で訴えてください、ということで、冷静に全部「デリート!」しました。
一瞬で消えて、素晴らしい静寂があたりを包み込む……
これが集中できる環境ですね。
こういうのを目指していきたいと思います。
ということで、まずは何となく城の上の方を目指しました。
大体、ボスは上の方にいます。“なんとなくゲーマー”のマクメリーでもそれくらいは分かりますよ。
ということで上階に向かおうとすると、さっそく来ましたね、雑魚兵士が。
「囚人がどうしてここにいるんだ?!」
私は自信満々に答えました。
「私の意志と能力によってここに立っている」
完全に中二病です。痛いですねぇ。でもこういうのを決めるのも異世界の醍醐味であることも確かだと思います。
なんでも中二病で片付けるよりも、楽しんだ方がいいと思っています。
やはり、世界は楽しんでナンボでしょう。
兵士もあまりの自信に一瞬たじろぎましたが、さすがはよく訓練された兵士、
「訳の分からないことを言うな!」と一喝。
「おとなしく捕まるならいいが、少しでも抵抗するなら殺す!」
とよくあるセリフを言いました。
もちろん、次の瞬間デリートされたのは言うまでもありません。
そんな雑魚にかまっている暇はないんですよ、こっちは。さっさと異世界で生産性を極める、それが今回の転生の目的なんですから。
最小の努力で、最大の効果を得る。
これは常日頃から転生前のチャンネルでも発信してきましたが、ここでも同じです。
絶対に生産性を諦めないでください。
あなたの人生を切り開くのは、生産性だけです。
というわけで、目の前の兵士をデリート。
階段を上って、とりあえず城の中を歩き回ります。全く何も知らない城なので、城主の部屋がどこにあるのか、まずはそれを把握したい……しかし、ここでこのスキルの欠点ですが、なんでも消せる一方で、とにかく消すしかできないので、情報を聞き出したりとか、装備をはぎ取ったりとか、そういう細かいところができないって言う点はちょっと難易度高いかな、という気がしました。スキルとして手加減とかできないので、そこらへんは少し考えて運用していこうと決意しました。
とにかく、次は兵士長らしき人と複数人の雑魚兵士が登場。
「止まれ!」
まあ、私は落ち着きがないので、止まれって言われて止まれるような人間でもなかったのですが、とにかくその時は止まってから「城主の部屋ってどこですか?」と尋ねてみました。もちろんダメ元です。
屈強そうな兵士長が答えました。
「お前ごときに教えるとでも思っているのか?」
そうですよねぇ。このスキルでどうやって情報を聞き出せばいいのか……?
「では、兵士を一人消します、デリート」
兵士が一人、ふっと音もなく消えます。本当にすごいスキルで、我ながらビックリしました。
「なっ……?! おい、どこにやった?! フランツ! おい、フランツ!!!」
兵士長が慌てふためきます。
「このまま全員消し去ることは可能ですけど、私はそんなことをしたくありません。城主の場所を教えてもらえますか?」
「ふざけるな! 城主様を守るのがわれらの使命! お前のような者、ますます通すわけにはいかん!」
「いえ、あの、私は城主に危害を加える気なんてサラサラなくて、ただお会いして話をしたいだけなんです」
「お前と話すことなどない!」
と言って突撃してくる兵士長。仕方ありませんねえ……
「デリート!」
はい、兵士長は消えました。
残った兵士たちは完全に動揺してました。
面接で突っ込まれた就活生より焦っていたので、
「おとなしく案内してくれるなら、何もしないけど?」
と言ったところ、すぐさま城主のところに案内してくれました。やはり、こういうのは隊長を狙っていくのが一番いいですね。
さて、少し歩いたところで、兵士たちが城主の部屋へ案内してくれました。
扉からして結構豪華で、城主の部屋っぽい感じはしました。
こういうのからも文明レベルや経済レベルが想定できる人っていると思います。
私はそこまで歴史に詳しくないので何とも言えませんが、ルネッサンスくらいで、経済的にもそこそこ恵まれている印象でしょうか。
完全な軍事用でもないけど、政治的、文化的な装飾を施す程度の余裕はある。そんな感じでしょうか。
兵士が城主の部屋の扉を恐る恐る開けました。
さて、城主は女城主でした。
「私が城主のオリビアだ」
「どうも、マクメリーです、メリー、マクメリー!」
渾身のネタだったんですが、異世界人には華麗にスルーされてしました。
「一体、お前はなんなんだ……? 見た目は人間だが……この世の人間とは思えない……!」
「さすが城主さまですね、実は私、異世界から来ました」
「な……異世界だと……そんなものが本当にあったというのか……」
「まあ、私からしたらあなたたちの方が異世界人なんですけどね。物事というのは、相対的であり、立場によって見方は変わります」
「……まあ、そうなのか……」
あまり急に哲学的な話をしても仕方ないですね。
とりあえず、要件だけを伝えることにします。
「私、異世界で生産性最大化快適ミニマムライフを送りたいので、とりあえずこの城頂いちゃってもいいですか?」
「いいわけないだろ……! いい加減にしろ、ふざけやがって!」
「では、どうやら交渉決裂、ということですか。残念ですが実力行使ですね」
「お前の能力は聞いているぞ。なんでも一瞬で消し去るとか……私を消したところで、他の兵士たちがお前の言うことを聞いたりはしない……!」
次の瞬間、オリビアさんの服が全部消えて、素っ裸になりました。私も何回か使っているので、そろそろ細かい対象を指定できることができるようになっていました。
「なっ……おいっ……! 元に戻せ!」
体の大切な場所を隠して懇願するも、そんなことを気にしてはいけません。
ここは異世界です。
これからはドンドン好き放題にやっちゃっていいんです、むしろそうないといけない。
だってそれが異世界転生ってやつでしょ。
そこで私は自らの本能に従うことにしました。
私も服を脱ぎ捨てると、すでにイキリ立つ破城槌をオリビア城の城門から挿入、本丸を何度も攻めたてました。
最後に白い水で水攻めにします。
たまらず城主も降伏し、今では私の妻として一緒に暮らしていますよ。
さて、うまく城主の座に滑り込むことができたので、次は勢力拡大でしょうか。
ここは「信長の野望」やってる人なら何も言わなくても分かると思いますが、初心者の方もいると思うので簡単に説明しましょう。
内政、人材、外交、そして“最後に”軍事です。
ぶっちゃけ軍事以外は同時進行のつもりでいいです。状況によってもどれが大事か変わってくると思うので、その時の異世界の状況から判断してください。
ただし、いずれの場合でも軍事は最後だと思っておいてください。絶対とも言い切れませんが、特に弱小勢力の場合は戦っても無駄な場合も多く、とにかく最初は戦いを避けることを選択して戦力を充実させてください。
私は、今回の異世界転生では「内政」を選択しました。
というのも、人材に関してはすでに優秀なスタッフや中間管理職が揃っていました。
この方たちに頼めば、大抵のことはなんでもしてくれます。
最初は私が城主であることを受け入れられなかったようですが、人間、なんでも慣れていくものです。
1か月もすれば、おおよそ状況を受け入れてくれるようになってくれました。
まずはオリビアからこの城の状況や異世界の状況を説明してもらいました。
異世界自体は、魔族と人間が争うよくある世界観がベースです。ただ、魔族と人間との間の戦争はいったんは終戦していて、今は互いに領土内で内紛状態のようです。
自分たちの領土ですが、周囲が山に囲まれた盆地のような感じです。分からない人はでっかい奈良県だと思ってください。そして大阪や京都にすぐに攻められるという感じです。
人間界を統一したら、次は魔界、という感じでしょうか。
これはもう本当にいい立地で、まさに「マクメリー、天下取れよ」と女神が言っているかのような立地です。
とにかく、魔族が攻めてくる前に人間の領土をまとめ上げて、魔族に対抗しなければいけません。
ここで最終的な目標は、あくまで魔族と対抗することであり、魔族を攻め滅ぼすとかそういうことは、少なくとも現時点では考えていません。
人間が領土を統一して強大な力を見せるだけで、魔族も戦争を思いとどまるかもしれないし、むしろそうしたいんですよね。
私はミニマリストなので、争いも最小限にしたいところです。
さて、最終目標が決まったので、あとはそれに向かってスケールダウンしていって、現在何をすべきかに落とし込んでいきます。
そのためには、近隣の領土を切り取ること、そのためには打って出るための軍事力が必要、そのためには強固な内政で経済力を高めることが必要……
ということで、まずは商業と農業を振興して経済発展させつつ、軍制も見直してより強固にしていく、というのが当面の目標になりそうですね。
要するに富国強兵です。これ便利な言葉ですね。
「しかし……われらの領内には、凶暴な賊たちがいてな……」
オリヴィアが言いました。
「周囲から賊を引き込んで、さらに強大になりつつある。噂では、一部に逃亡魔族すらいるらしい……」
なるほど、よく分かりました。
まずはこういった輩を排除しないといけないでしょう。
まずは治安と安全。
命の危険を感じながら経済活動なんてできませんからね。
しかも、こちらの軍隊は思っているより非力で、何も期待できなさそうです。
オリヴィアも「何ならそこらへんの弱小国家より強い山賊どもだ……」と言っています。
そこで私は決意しました。
それなら俺がその山賊、俺が消してやるよ。
まずは近くの山に向かいます。
すると山賊がさっそく出てきました。
こちらは一応は、小規模ながら軍隊を引き連れてきています。
いかにも見た目が山賊っぽい山賊が出てきて言いました。
「へぇ、オリビアちゃん、新しい恋人か? けっこういいじゃん。でもすぐにもっといい男と一緒になれるぜぇ……!! ギャーハッハッハ!!!!」
正直、私は聞いてて笑いをこらえるので必死でした。
ここまで山賊っぽいセリフが聞けるのも、異世界の醍醐味でしょう。
とりあえず叫びます。
「デリート!」
山賊は消えました。
残った山賊たちも最初は何が起こったのか分からない状態です。
すかさず
「デリート!デリート!デリート!デリート!デリートォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……
とりあえず、山賊は姿を消しました。
「マクメリー、大丈夫か……?」
「まあ、ちょっと疲れたかも……」
「いや、だいぶ消したぞ」
「他にはそれくらいいるの?」
「多分、あれは斥候代わりの遊撃隊かな」
「ということは……」
「本体はまだ奥の方にいる……」
めまいがしてきました。しかし、ここであきらめるわけにはいきません。今ので、大体300人くらい消しました。
「ちなみに本体は1万くらいはいると思う」
「え……!? 日が暮れちゃうじゃん……」
「まあ、1万が全部固まってるってことはないから、今みたいに遭遇する戦力を徐々に消していけば、そのうち全部倒せるとは思うが。まあ、私の代わりに頑張ってくれ」
オリビア、なかなかしたたかですねぇ……
面倒くさいことは全部夫に押し付ける感じの女だったとはね……
その時でした。
「「スキルレベルがアップしました」」
最初はなんか夢でも見てるのかな、って思いましたが、まあ異世界ですもんね、こんなこともありますよ。
恐らくスキルを使用しまくったので、スキルレベルがアップし、より強力なスキルになったのでしょう。
異世界転生あるあるです。
「よし、それじゃあ一気に砦に行ってみるか」
「え、この兵力じゃ、到底落とせないぞ?」
「大丈夫、落とすまでもない」
しばらく馬に乗って移動してました。
あとこれ、思ったんですけど、移動マジで面倒ですね……
昔の人大変すぎだろ……
というのは置いといて、とにかく砦に向かうことに。
そこは私たちの城からもそう遠くもありません。むしろ、こんな近くにまで山賊の勢力が及んでいることにびっくりしました。
「山賊の中でも、頭の切れそうなやつが、いつの間にか三日で作ったんだ。落とそうにも、すでに防御を固めている拠点を攻めるのは難しくて……」
オリビアの話によると、周辺の農民から収穫物を巻き上げているそうで、まさに生かす必要はない悪人ですね。
さっそく砦の近くまで来ました。
すると、さっきよりのちょっと派手な格好をした山賊が出てきました。
「ようよう、オリビアちゃ~ん、元気だった~?!」
オリビア、人気すぎでしょ。
「ほう、そいつはいつの間にできた男なんだ? ここらへんでみない顔だが?」
「どうも、マクメリーです」
「俺はゲールだ、よろしくな」
「早速ですが、あの砦をこちらに渡してもらいたいのですが」
「お前馬鹿か? 俺が三日で速攻建てた砦だぜ。これからこの砦を拠点にして、お前らの城を攻め落とすんだよ。逆にお前らこそ今の内に城を明け渡せば、適当に生かしといてやるぜ」
大体こういうのって生かさないんですよね。
「では、交渉決裂、ということでいいでしょうか?」
「お前、やっぱりアホだろ? 交渉も何も、砦に何人いると思ってるんだ? それでお前ら何人だよ? 勝てると思ってんのか?!」
「では、今からあの砦を消します」
「ギャハハハハハハハ!!!!!」
「今から一瞬で消します。耳の穴かっぽじってよく見ててくださいね」
「わかったよ、見とくから! 耳の穴かっぽじって見とくから! さっさと消してくれよ!」
「許可頂いたので、これから消します、3,2,1,デリートォォォオオオオオオオオオオオオ!」
一瞬で消えましたね。デビット・カッパーフィールドのマジックみたいに。
ちなみに中にいたであろうゲールの部下もまとめて消えています。
「は?!」
ゲールさんもびっくりしています。
そりゃそうですよね。
3日かけて作った砦が、一瞬で消えたんですから。
「本当に消えてるでしょ?」
自信満々なのをなるべく表に出さないようにしましたが、それがむしろ相手に自信満々であることが伝わってしまう……コミュニケーションあるあるが発生しましたが、あまりの出来事にゲールさんは信じられず、かつて砦の存在した場所へと行きました。
もうゲールさんは心理的に満身創痍でした。
何もなくなった地面を眺めながら、呆然と立ち尽くしています。
こういう時は、こちらから何か声をかけるべきでしょう。
「おい、降伏すれば、適当に生かしといてやるよ」
いや~、決まったなぁ、と内心思いました。
ゲールさんは降伏しました。同時に、他の山賊たちにも降伏するように勧めてくれないか、と伝えたところ快諾。
そりゃそうですよね。
砦消すような相手に戦い挑んでも無駄ですから。
まあ、実を言うと少しだけまた小競り合いみたいになったんですけど、私のスキルを見せたところ、もはや戦う意思もなく降伏。
すでに私がかなりの数の山賊を消していたのですが、それでも8000人くらいは増えました。
この人たちの中で、兵士になりたい人には兵士の職を、他の職業を望む人には、それに応じた職を与える、ということで、むしろ山賊たちも助かったみたいです。(まあ、最終的にはほとんどそのまま兵士になりましたが)
山賊と言っても、中には生活苦で仕方なく山賊をしている人もいます。
そう、世の中は善か悪か、ではないんです。
言ってもせいぜいルネッサンス期の文明レベルなわけで、我々現代人のようにスマホ一つで欲しいものなんでも買えるとか、便利な機械類も電化製品もないわけです。
そう考えると、けっこう現代日本って恵まれすぎだろ、と思わないこともないです。
じっくりと、この異世界でも、現代日本の便利さを再現して見せますよ。
とはいえ、まずは元山賊たちの去就ですよね。
私のスキルがあまりに凄まじい印象だったので、「消される前に消えるわ」という人が一定数いました。
もちろん、最初に言いましたけどね。
「別に敵対しない限りは絶対に消さないし、このスキルをちらつかせて脅すようなことも一切しません。もしやったら妻のオリビアに言ってください。私がオリビアにメッチャクチャ怒られます」
これでだいたい薄ら笑いも取りつつ、何となく説得はできました。
ただ、山賊のゲールさんはやっぱり何かやばいと思ったらしくて、そのまま立ち去っていきました。
彼は相当の切れ者だったらしく、何人かの山賊たちがゲールさんについて行って、出国していきました。
そこで残った山賊たちですが、頭領をまとめ役にして、移住してもらうことにしました。
当然住居が必要なわけですが……
まあいわゆる中世ヨーロッパ的な世界観が異世界転生のお約束ですが、中世ヨーロッパって町が城壁で囲まれている、城塞都市が主流です。
私たちの城も城塞都市で、城壁で囲まれていました。
ところが、これって防御になるんですが、逆に町を広げるときに当然城壁より外へは拡大できないわけで、住居の前に土地がない、という問題点がありました。
しかし、最大の問題である外敵である山賊は、すでに帰順しています。
敵はもういないんですよね。(と、この時点で思ってました)
そこでとりあえず、城壁をデリートすることにしました。
もちろん、一括で全部まとめてデリートってわけにはいかなかったです。ウォール・マリアほどではないにせよ、さすがに城壁は巨大すぎました。
もちろん、中に誰もいないことを確認して、周囲に人が入ってこないように確保してからデリートしました。
巻き込まれて無駄な犠牲を出すのはこれ以上はいけませんから。
兵士たちに立ち入り禁止区域を作って、不用意に人が近づかないようにしました。
大体半日くらいで城壁を消し去ると、残った土地に自由に移り住んでもらいます。
というか、城に籠った時点でもう大体の戦争では敗着なんですよね。
武田信玄も言っています。
「人は石垣、人は城」
本国の甲斐には大規模な城はなく、館に住んでいたそうです。つまり、生涯にわたって外敵を寄せ付けなかったという、まさに名将そのものでしょう。
当然、私も同じものを目指します。何せこちらにはスキルがありますから、ハードルは遥かに低いでしょう。
さて、これで城壁が消えて、町自由に拡大できるようになりました。
すると、そこにオリビアがやってきました。
「おい、まさかマクナリー、城壁を消しちゃったのか……?!」
「ええ、御覧の通りに」
「うわぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!」
オリビアが絶叫しながら地面の上をのたうち回っています。
「いや、どうしたの?」
「お前、敵は山賊だけじゃないんだよぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!」
オリビアによると、この国の中には領主であるオリビアの他に、守旧派貴族がいて、そういった貴族が富を独占。
我々は管理する関所から入ってくる外部からの輸入品に掛けている関税によって、かろうじて命脈を保っているそうです。
なるほど~、だから城の規模の割にこんなにしょぼい兵力しかいなかったんですね。
さらにそんな貧弱な収入だけで関所の防御も任されているので、もう滅亡寸前だったようです。
しかも、城主は女一人……
なんかムカついてきましたね。
女一人をほっぽりだして、しかも国の防衛という重責を押し付け、財政的にもいじめるなんてね。
元々はここら辺一帯を治める伯爵家だったようですが、どうにも各地の豪族が勝手に半自立みたいな感じで勝手に国を富を切り分け始めた、というこれも戦記物でよくあるパターンですね。
私はオリビアの手を取って、地面から起こしました。
「余計な心配はしなくていい。俺が全部消してやるから」
「……本当に、そんなことができるのか?」
「ああ、できるに決まってるだろ」
抱きしめたオリビアは、少し震えているようでした。
まあ、消すのは簡単なんですが、問題は「消しすぎること」なんですよね。
こちらは山賊を加えて戦力が増大しているので、ある程度対峙することは可能です。
しかし、敵対勢力を軍勢ごと消し去ると、その軍勢が手に入りません。さらに、その軍隊にいる兵士たちも、同じ地元民なわけで、地元人同士で殺し合いということになります。
非常にまずいですねぇ・・・
というわけで、守旧派貴族のリーダーたちを集めて、完全に消し去ることにしました。
簡単でしたよ。
「城壁を壊したので、一回見に来てはどうですか?」と言って声をかけたところ、ゴキブリホイホイに吸い込まれていくハムスターよりも簡単に、守旧派貴族の爺さんたちは吸い込まれて行きました。
ハムスター同様、出ることはできなかったみたいですね。
まあハムスターなら人間に出してもらうんですけど、老害は誰も出してくれませんから。
まあ、あの世に行くのが少し早くなっただけだし、この国にとっては素晴らしいことでしょう。
これだけで、守旧派貴族陣営は大混乱です。
私はそれを突いて、元山賊たちを加えて数だけは増えた軍隊を見せつけながら進軍。
僅かな抵抗は普通に軍事力でどうにかなりましたし、大半は領内もボロボロ。
老害たちが一族の贅沢のために民衆から搾取していたのもあり、軍隊も機能せず。
まあ、こちらは一応は腐っても正当なる伯爵家であり、大義名分まであるわけですから、全く相手になりません。
頭目を欠いた瞬間に、ここまで落ちるとは、そこは私ですら予想外でしたが、とにかく双方ともに大きな犠牲もなく、おおよそ城周辺の地方制定は完了。
ここから攻めていきたいところですが……
その前に、急速に変化した内部勢力を整えるために、内政をしていくことになります。
余計な既得権益を取り除いて、効率的でシンプルな経済体制を作っていきます。
私はミニマリストです。
まずは税制の簡素化でしょう。
関税をなくしました。
「いいのか、関税をなくして?」
オリビアが心配そうに言いますが、そんなものは今の私たちには必要ありません。
守旧派老害貴族をデリートしたので、彼らが奪っていた税金は全部公爵本家であるオリビアの元に戻りました。
また、税率も大幅に削減。それでも国家の財政は健全さを十分に保っています。
もちろん、外へ外征に出るには、まだまだ資金が必要ですが、それは民からの収奪ではなく、産業を発展させることで生み出すのがベストだと思います。
関税は何も生み出さないだけでなく、そもそも外からの交易品が中に入ってこないので、全ての物品が高くなります。
山に囲まれているということは、奈良県と同じく海がないということであり、生活必需品の塩など、手に入らない物品も多い。関税がなくなれば、そういった物品が自由に移動してきます。
また、各都市は城塞都市なんですが、私たちの城だけ城壁がないため、自由に発展することが可能になり、つまりそれを見越して色んな人が集まってくることに。
労働力があれば、それを利用して色んな公共事業を行うこともできます。
まずはインフラ整備に力を入れました。
最初に農業インフラ。
農地の開墾、水路の建設、道路の舗装のし直しなど。
邪魔な岩があれば、全部私のデリートスキルで一瞬で削除。しかし、それは補助的な助けでしかありません。
本当に国民の皆さんは、よく頑張ってくれました。
都市にも上下水道完備しました。
当然、水道ないとか不便すぎます、耐えられません。
あとは電力があればいいのですが……
当然そんなものはないのですが、この世界は異世界なので、マナという魔素、つまり魔力を帯びた微粒子のようなものが存在しており、それを利用することで簡単な魔法を使うことができるようです。
そういった魔力も、私のスキルを使えば簡単に消せますけどね。
それで、なぜかそういった魔力は戦争に使われることが多いのですが、日常生活にも使われているようです。
例えば火をおこすときには、火属性の魔石を使うのが一般的です。
もっと魔力の素質があるなら、炎魔法を発動して火をつけることもできます。
さすがに私たちの地方にはそこまでの魔法の使い手はいなくて、どうやらそういった人たちは王都へ留学して厳しい試験を受けた人だけが、特別な訓練を受けて王宮魔道士になるようです。
まるで科挙かよって思いましたが、とにかく魔法による恩恵は人材から王国自体が独占しているようです。
本当にクソですね。
魔法の利便性を特定の人たちだけで独占して、その利益を独り占めする……
反吐が出るので、私は魔法具を作って、魔法を使えない人たちでも魔法の恩恵で生活が豊かで便利になるように考えました。
そこで研究を繰り返して完成したのが、「魔導スマホ」です。
さすがにスマホと全く同じ、までは作りこむのが難しかったんですが、簡単な連絡用途としては十分でした。
最初は簡単な文字しか送れませんでしたが、それだけでも十分な機能です。
この時代に、離れた場所から連絡を取り合う手段なんて狼煙か手紙くらいしかありませんから。
それがすぐに写真も再発明しました。
現代の技術をマナに置き換えて動かすだけでした。
最終的に魔導スマホにカメラも搭載し、スマホみたいな運用もできるようになりました。
気分はまるで発明王エジソンみたいです。
エジソンは数限りない失敗を繰り返しましたが、我々はもうその成果を知っています。
結果から逆算するわけですから、ショートカットしまくりです。
そんなこんなで、マナを使った新技術が次々と生まれては実装されていく、という凄まじい経済発展が巻き起こり、あっという間にオリビアの領土の国力は抜きんでることに。
では、そろそろ最後の仕事に取り掛かりますか。
そう、軍事ですね。
その前に、マクメリーから皆さんに大変重要なお知らせです。
魔導スマホの開発が終わったころ、第一子が誕生しました。元気な男の子でした。
スマホ作ったことより、そっちの方が嬉しかったです。
ちなみに、スマホの画面は貴重な魔獣の瞳を加工して作り出すので、かなりの貴重品で、大量生産というわけにはいきませんでしたが、まあ数台あるだけでも十分でしょう。重要人物に持たせておけば、大体の指令を離れていても飛ばすことができます。
まずは本国のオリビア。
子供の写真ばかり送ってきます。
さらにあと5台ほどを部将に分けて保有させました。
ちなみに、空気中にマナがあるので、充電は必要ありません。急速充電したいときは魔道の心得のある人物が気合を込めてマナを送り込めば、けっこう充電できます。
ちなみに私がいくら気合を送っても全く充電できませんでした。
なんなら「電池減ってんじゃね?」って言われてました。
そんなこんなで、「全ての戦争を終わらせるための戦争」へと出発しました。
もうはっきり言って近隣地帯は全く相手になりません。
というか、私たちの国内が発展しすぎて、移民が押し寄せた結果、人口が吸い込まれてスカスカになっています。
残っているのは、国家の体をギリギリなしている骸のような抜け殻だけ……
城の前に公爵家の旗を掲げただけで、一個目の城が開城したときには、「これが経済と内政の力か……」と一人でなんか感動してました。
さっそく魔導スマホでパシャリ!
オリビアに送りました。
すぐに返信と「いいね」のマーク。
ちなみに子供もメチャクチャ笑ってました。
「今日はお祝いのケーキだね!」と言われると、オリビアもずいぶん子煩悩で家庭的になったものだと、しみじみ感じました。
本当に、異世界と言っても人間の本質は変わりません。
事業で成功する、家族と一緒に暮らす。
そして事業でも家族でも、人を幸せにする。
結局はそれなんです。
他者貢献、できていますか?
異世界でスキル無双だけして適当な女の子集めてハーレム作るのも面白いでしょう。
それも一つの異世界攻略法、否定はしません。
でも、そんな個人的な快楽の追求による個人的な幸福なんて、知れてますよ。
私は、前世では途中だった他社貢献の続きを、この世界で追求していこうと思います。
とにかく、一つ目の城、鎧袖一触でゲットという幸先のいいスタートです。
しばらくは、こんな感じで快進撃が続きました。
いや、本当にこんな簡単でいいのかとびっくりするくらい簡単に城が溶けていく感じです。
いや、デリートスキル使いたいんだけど、全く使ってないし、城を落とすたびに写真撮りまくって送信しているから、傍からみたら完全にスマホ中毒ですよ。
前世でもここまで酷いスマホ中毒になったことはなかったので、初めてのことかもしれません。
しかも、今回のスマホは自作ですからね。
しかし、ここからはそう簡単にもいきません。
まずは陥落させた城が増えて行ったことで、管理が煩雑になったこと。
次に、当然勢力の人数も増えたので、単純にやること増えすぎ、人員管理できない問題。
もうこうなるといくらデリートスキルあっても、何からやったらいいのか分からない状況です。
とりあえず、人口と国力をある程度ゲットしたので、ここらへんで一回地固めの内政をやっておこうか、と思いました。
全部一気にやると、全部中途半端になります。
だから優先順位をつけて、仕事を処理していかないといけません。
それが今回は「もう一回内政」ですね。
まずは盆地内で作ったインフラを征服地域に輸出していきます。
大変でしたが、ひと段落ついたところで、オリビアの城へいったん戻りました。
兵士たちは将軍たちが勝手に祝勝記念パーティーやってくれているので、私は家族だけでひっそりと勝利を祝いたかった。
そもそも、私ってあまり大勢の中は苦手なんです。
とにかく、今はここで家族と勝利を噛みしめたい。そして愛する家族の成長を、肉眼で見たかった。
本当に可愛らしい子供で、この子のために、自分はもっといい世界を残してやらないといけない、と強く心に誓いました。
とはいえ、王国にまで進行するには、課題点もいくつかありました。将軍を集めて協議した結果、とにかく兵糧が足りない、という話です。
これまたタイミング悪く、王国全土で凶作が発生。
侵攻してもその地域で食糧を集めるのが困難である上、補給しようとしても馬車限界で補給も厳しいだろう、という見立てです。
ここで馬車限界、というのを簡単に解説したいと思います。
兵糧を運ぶのって馬車で運ぶんですけど、馬車馬ってすごい馬草を食うんですよね。これを馬車に積んで輸送するため、おのずと輸送できる距離には限界があります。
おおよそ200キロメートルくらいだそうです。
今回の進軍も、ちょうどその辺りでストップしました。
で、これで思い出したのが、魔導車です。
ただ、いきなり魔導自動車というのは難しく、レールの上を走る魔導鉄道あたりで開発を進めてみました。
やはり魔導自動車だと大量生産が難しいですね。
魔導鉄道なら、いくつかの車両を作れば、あとはそれを走らせまくればいいので。
ここで燃料の問題があるのですが、さすがに空気中にマナがあるとはいえ、さすがにそれを取り込んで鉄道を走らせるのは厳しいです。
そこで、マナをあらかじめ凝縮したものを用意して、それを燃料にして走らたいのですが……
そもそもこの世界には失われた技術としてゴーレムという存在がありました。
簡単に言うと、石でできたロボットみたいな存在です。昔はかつて栄えた魔導帝国が存在し、そこでは大きめのゴーレムを作って労働や警備の仕事をさせていたそうです。帝国自体は衰退してひっそりと歴史の中へ消えて行ったそうです……
ところが、そのゴーレムに埋め込まれた宝石にしか見えないのが、魔石であり、燃料になるのが判明しました。
とりあえず使えるのは使っておけ、ということで、魔導鉄道が動き出しました。
あと、ついでに魔導銃も作っておきました。
ハンドガンからライフルまで、色んなアイデアを持っていますから、それの仕組みを魔法に置き換えるだけです。
小さな爆発する魔石さえ生産できてしまえば、あとはそれを組み込んで仕組みを作るだけ。
一番の苦労した点は、銃弾と銃身をかなりの厳しい公差で精密に、かつ大量に作るってところ。ここはまだまだでした。
なので距離によって銃弾がばらけやすい。
しかし、銃弾の形状は、普通だと球体にしてしまいますが、流線形にするのも、銃身内に螺旋の溝を彫るのも、全部元の世界のアイデアをそのまま使えます。それでだいぶマシにはなりました。
あとは、むしろ諦めてショットガンにしてしまいました。
それでも普通の剣や槍に比べると遥かに遠くから攻撃できるわけで、兵士装備させれば十分な戦力に。
もはや「剣と魔法のファンタジー」でなくなりました。
ゲームが変わっちゃいました。
「銃と魔法」です。
ゲームチェンジです。
ちなみに銃については民間では厳重に規制しました。武力は国家で管理します。
これによって、国家による中央集権化も加速。
経済政策についても自由度が増しました。
経済を支える株式会社や銀行システムも、原始的なものはあったので、それを発展させれば良かったのも大きかったです。
私の知識と、この世界の文明度がちょうど噛み合っていた感じです。
これが征服した広大な領土に適応された結果、どうなったか?
・莫大な農業生産の増大
・テクノロジーの飛躍的進歩
・それが征服した広大な大地に適用される
・急速な経済発展と工業の出現
・発展が産業を、産業がさらなる発展を生み出す無限ループの開始
「シヴィライゼーション」というゲームを御存じでしょうか?
知らない人のために簡単に説明すると……
文明を選んで、技術を発展させながら最終的な勝利を目指していくゲームです。
基本的には探索、建設、生産、技術発展を繰り返していく感じです。
その過程で文化や宗教に割り振ることで、文化勝利や宗教勝利というちょっと変わった勝利方法もあります。
細かいところは色々あると思いますが、簡単にザックリ説明するとそういうことです。
ちなみに、私がこのゲームのたとえで目指しているのは、「技術勝利」か「軍事勝利」でしょうか。
そして魔導鉄道の開発と実用化によって、この技術的勝利はほぼ決定的になりました。
それだけの技術を支える金融制度、つまり銀行や株式会社、リスクを取る起業家を保護する財産権の保護などを行った結果、わずかなアイデアを提供しただけで、あとはこの世界の人たちが頑張ってリスクを取って産業として発展させてくれました。
鉄道で繋がった結果、まずは近隣から、そして遠くからも移民が波のように押し寄せることに。
豊かな生活と一攫千金を夢見て、「マクメリー・ドリーム」と呼ばれる現象が湧きおこりました。
これによって、何も軍事的行動をとらなくても、隣国から大量の人口が移住することで経済力を吸い取ることに成功。
さらに吸い取った人口は、急速に進む魔導近代化のための労働力として莫大な富を生み出す人的資源へ変貌。
しかし、やはり光あるところにこそ、影はできるもの……
貧富の格差や急速な人口増加による治安の悪化など、問題は尽きませんでした。
税金は社会保障や教育などへ潤沢に突っ込みました。
軍事は後まわしでも構わないと判断。
経済発展で周囲の人口を取り込めば、軍事力などなくても勝手に衰退していきますから。
札束で殴るのが、最大の軍事攻撃です。
ひと段落したころに元のオリビアの故郷に戻りました。
最後の仕事の前に、子供の顔を見ておきたかった。
魔導スマホで写真も送りあっていましたが、やはり肉眼でみたい。そしてその体温を感じたかった。
戻ってみると、すでに子供は大きくなっていました。
もういつの間にか学校へ行くようになっていました。
「ほら~、パパだよ~~~」
と言っても、最初は全く相手にもされない悲しいマクメリー……
でも最後には都会で買った美味しいお菓子で殴りました。
いいんです。最終的に仲良くなれば。
「マクメリーも、そろそろ家族を大切にしたらどうだ?」
妻にも嫌味を言われました。
でも、私もそろそろ本気で家族と一緒になりたいと思っています。
最後は家族と安らかな時間を一緒に過ごしたい……
そのために頑張ってこの世界を平和へと導いているのですから。
私は一か月間という、少し長めの休暇を取って、もう一回家族というのを噛みしめました。
そして新たに誓いました。
すぐに人間の領土を統一して、今度こそ一緒に過ごそう。
しかし、その願いが達成されることは、ありませんでした。
さて、鉄道を利用した兵力移動は、大軍を組織することを可能にしました。
さらにそこに加わった最新の魔導兵器。
もはやこのスキル、一回も使わずに、残った旧王国はあっけなく滅びました。
残っていたのは旧態依然とした支配階級、貴族階級と、彼らの所有資産である家畜と農奴だけでした。
それ以外の人はみんなマクメリー共和国へと移住してしまったんですね。
これ、本当に誇張抜きで、マジです。
残った軍隊は貧弱で士気も低く、魔導銃で武装した兵士たちの敵ではありませんでした。
というか、銃もほとんど使う必要すらありませんでした。
一部の支配階級の搾取的な制度のために死ぬ気のある兵士なんていませんから。
銃口を向けるまでもなく、こちらの軍勢を見ただけで降伏していく敵軍たち。
最終的に必要のない支配階級や、やる気のない支配階級に関しては、デリートしました。
特に命乞いを繰り返す見苦しい貴族たちは、速攻でデリート。
残してもまた反乱とか起こされると面倒です。
他人を奴隷にして富を独占するようなゴミに生きる価値はありませんから、邪魔になる前に消した方が早いです。
これによって、人間領土の統一は完全に終了しました。
後に残っているのは、占領地域の統治です。
統治計画を立てているときです。
魔導スマホが鳴りました。
妻からです。
「早く帰ってきて!」
何だろうと思ってみたら、子供が浅黒い顔で寝込んでいる写真でした。
見た瞬間、絶望と焦りで、よく分からない汗が全身から噴出しました。
手からも汗が出て、魔導スマホを落としそうになるのを、必死に握力だけで持ちこたえました。
恐らく疫病か何かでしょうか……
とにかく、私は急いでオリビアのところへ戻ることにしました。
新たな占領地域は、まだ魔導鉄道がないのがあまりにももどかしすぎた……
自国領へ戻ると、速攻で魔導鉄道を手配して、速攻でオリビアの元へ。
そこで待っていたのは、ほぼ無人と化した城でした。
近づいただけで異臭がしました。
明らかにおかしい……
町の中は死体だらけ。
何とか城に到着。
城の部屋へ戻ると、オリビアと子供は、ベッドの上で安らかな眠りに就いています。
もう二度と起きることはないのは、見た瞬間に顔色で分かりました。
恐らく、黒死病のようなものでしょうか……
私も危ないかもしれない、と思われた方、その通りです。
しかし、私は最初の牢屋のところで言った通り、臭い分子など特定のものだけ消すことも可能です。
スキルはさらにレベルアップしていたので、ウィルスだけをデリートすることで、私は無事でした。
そういえば、ワクチンなんかの医療についてはほったらかしだったな……
後悔はいつも後からやってきます。
過去に戻りたい、と思ったことも、前世から通算して何度もあります。
今ほど思ったことはありません。
何とか妻と子供の葬儀を執り行いました。
しかし国内では、この疫病が大流行して、葬儀も何もなく放置される死体で溢れかえりました。
どうも、魔導鉄道が良くなかったようです。
人の移動によって、疫病も鉄道と同じ速さで広まることに。
また、安全地帯の城は城壁をデリートしていました。
これも人が簡単に移動できることになり、疫病を広める要因に。
結果的に、近代化した国は半分くらいの人口を失って大打撃……
しかし、まだ半分の人口が残っています。
家族を失ったとはいえ、私は今では責任ある国王なわけですから、国民のために頑張るしかありません。
国内では、国王である私の責任論も浮上していました。
ただ、いくらなんでも私に直接責任があるというのは言い過ぎだと思いました。
私は国王という立場で、確かに国民を守る義務があることも事実ではありますが……
でも、この時はさすがにそこまで冷静に考えることは無理でした……
「私だって、家族を失っているんだぞ!?」
思わず言ってしまいました。
でも、それが正直な気持ちです。
それ以上に何があるんですかね……?
一部ではいわゆる炎上したものの、大半は同情もしてくれました。
しかし、国王に必要なのは同情ではなく、結果です。
とりあえずは、まず身近な衛生対策を徹底しました。そして病原菌の発生源を突き止めるよう調査をすぐにしました。
調査の結果、どうやら疫病の根源地は魔界のようでした。
そうか……そういえば、魔族と人間が争っていたという世界観を忘れていました……
人間界で私が急速に領土を統一したように、魔界にも新たな魔王が登場し魔界を統一したようです。
魔王の名は、ホジョエモン……
聞いた瞬間、こいつも転生者だと分かりました。
結局、最後は転生者同士で戦うことになるようですね。
さて、魔王軍討伐の軍隊でも編成しようと思いましたが……
とてもではないけど、そんなことはできそうにありませんでした。
軍隊も疫病で壊滅状態。
国内の治安もありますし、新たに征服した地域は幸いそこまで疫病の被害が大きくないものの、まだまだ治安の維持のためには軍隊を置いておく必要がありました。
結局、私ひとりで行くことにしました。
正直、少し不安でした。
……正直に言います。
すごく不安でした。
しかし、自分で始めた物語なので、自分で決着付けるしかないでしょう。
魔導鉄道も止まっていたので、歩いて魔都へ向かいます。
ドゥームガイ張りに重火器背負って行こうと思いましたが、最後なのでせっかくなのでスキル使って進みます。
あと、単純に武器が重すぎました。それなら食料とかそっち持って行きます。
ミニマリストなので、旅行の時は荷物は最小限にしたいんですよね。
私、忘れものも異常に多いので。
まあ、もう忘れるものもありませんけどね。
途中で襲い掛かってくる魔族の刺客は、全てスキルで消しました。
見ただけで魔族って分かる見た目なので、簡単に分かりました。
さらに途中の困難な地形も消してなるべく平坦にして進みました。
途中で持ってきた食料も尽きたので、村を訪問して、村人の魔族たちを消して食料だけ漁りました。
本当はこんなことをしたくなかったものの、今の状態では致し方ないでしょう。
誰もいなくなった村で、魔導スマホの中にあるオリビアと子供の写真を眺めていると、途中から涙で滲んで見えなくなりました。
それでも、前へ進んでいくしかない。
その先に救いや希望はあるんでしょうか。
いや、ないことは分かっていました。
何を目的に進むんでしょうか。
分かりません。
今は進むしかない、ということだけは分かりました。
村や町をいくつか消しつつ進んでいくと、ようやく魔王城が見えて来ました。
そのまま城の中へ入ります。
トラップもありましたが、消しました。
四天王が出てきましたが、消しました。
副魔王が出てきましたが、消しました。
やがて魔王が出てきました。
「あれ、マクメリーじゃん、久しぶりぃ!」
魔族でしたが、姿かたちは元いた世界のホジョエモンに似ていました。
「……なんでこんなことしたんだよ」
「いや、なんでって」
バカにしたような薄ら笑い。
「そりゃあ、お前の開発した国をそっくりそのまま奪いたかっただけだよ」
「じゃあ、疫病を広げたのは、お前なのか?」
「だからそういってんじゃんww お前脳みそ大丈夫かww」
余りのことに何も言えませんでした。
「俺のスキルは疫病を生み出すスキルなんだよ。昔あったじゃん、『銃・鉄・病原菌』って本。異世界転生するときに異世界の様子見てると、なんか発展してる異世界あってさ。んで話聞いてみるとなんか転生者が技術発展させてるって話じゃん。だったらそれうまいこと奪い取って俺が魔王として君臨するのも面白そうだなって思ってさ。どうせお前の能力って”知識無双”とかそんなんなんでしょ?」
魔王ホジョエモンが私の能力を知ることは永久にないでしょう。
恐らく、私があまりに急速にテクノロジーを発展させたので、私のスキルに思いが至らなかったのでしょう。
後には空っぽになった玉座と沈黙だけが残りました。
触ってみると、ホジョエモンの生ぬるい体温だけがしばらく残っていました。
何をしたらいいのか分からず……
しばらくの間、泣いていたと思います。
帰り道は、また他の村を消しながら食べ物を補給しつつ帰っていきました。
国境付近に軍勢が見えたときに、ようやく故郷に帰ってきたんだ、という実感が湧いてきました。
まずは疫病の対策……そしてより一層、国を発展させないといけない……
私には待っている国民がいるのだから……
「マクメリー国王ですか?」
将軍が歩み出ました。
「ああ、それ以外に何に見える?」
「マクメリー国王、非常に言いづらいのですが……」
「なんだよ」
「あなたを国家反逆罪とその他収賄の罪で、逮捕します」
一体、何を言っているのか、最初は全く分かりませんでした。
一瞬、冗談だと思いましたが、周囲の兵士は真剣です。銃口をこちらに向けています。
「マクメリーさん、ここはおとなしく従ってください……私もこんなことはしたくありませんが、命令なので……」
「一体、誰の命令なんだ?」
「……」
「誰の命令だ」
「……ゲール新国王です」
覚えているでしょうか。
オリビアと砦を消しに行った時の、山賊の親分格の一人です。
どうやら、この混乱に乗じて、軍部を掌握、ついに国王にまでなったそうです。
ちなみに、兵士の中には魔族も混じっていました。
内部から崩されたのか……
「分かった、仕方ないな」
私がそういうと、将軍は安堵して、兵士たちの銃口を下げさせました。
私はそこを狙って
「デリート」
しました。周囲の兵士たちが一瞬で消えます。
焦る将軍は、逃げようとして転んでしまいました。
まあ、転ばなくてもどうでもいいですけどね。
「ヒィッ! 助けて……娘が病気で……仕方なかったんだぁぁぁああああ……!」
「どうしてこんなことをした?」
「娘が病気になって……でもゲールが魔族を連れてきて、なんか変な薬を配って……それを飲んだら病気が治ったんだ! 全員だ! それでゲールは救世主扱いさ! もう誰もゲールに逆らえなかった……俺だって、本当は国王様にこんなことしたくかったんだ! 分かってくれ!」
分かるけど、消しました。いい年した大人の言い訳って見苦しいですね。黙って死ねよ。
そこで魔導スマホが鳴りました。
スマホを取り出すと、そこにはゲールの姿が。
「よお、マクメリー、元気か?」
「今からお前を消しに行く」
「まあ、そう言うと思ったよ。もちろん対策は取っているがね」
ゲールは狡猾なので、何か罠を仕掛けているのかもしれません。
「まずは、お前に会いたい人がいる」
「誰だ?」
「もうそろそろお前の前に出てくるはずだが」
一人のよく見る一般女性らしき人がこちらに近づいて決ます。
「じゃ、お二人で楽しんでくれよな」
魔導スマホがいったんは黙りました。
「私がマクメリーだ」
「私はクラウディアだ」
全く記憶にも何もありません。
「分からないか?」
全く何も分かりません。
「フランツは私の兄だった」
思い出したでしょうか?
一番最初に投獄されて、脱獄したときに、消した一般兵士の一人です。
「フランツは両親が死んだ後、城の兵士として働いて、私を養ってくれた。なのにお前が消した」
何と言えばいいのか、分かりませんでした。
「兄が死んでから、私は生きるために体を売ったりもした。いつか生きてお前に復讐するために。お前にも同じ思いをさせてやることを誓った」
「だから魔族に寝返って、疫病をばらまく片棒を担いだってことか」
「そう」
「お前のせいで何人死んだと思っている?」
「お前は何人消してきた?」
「少なくともお前の犠牲者よりは少ない自信はある。それに経済を発展させて、たくさんの人々の生活を豊かにした」
「んなもん、関係ねえよ!!」
クラウディアが叫びます。
「どうせ最後に消すだろうから、言っておこうか。消されることが目的でここに来たんだ。消された側にも大切な人生や守りたいものがあった。お前はそれを踏みにじった。それだけは確かだ。最後にお前の苦しむ姿を見れて、せいせいしたよ」
それが彼女の最後の言葉になりました。
しかし、彼女の言葉は、私の中から消すことはできませんでした。
しばらく、考えていました。
とにかく、ゲールを消しに行こうと思いましたが、ゲールは狡猾であり、追いかけるのも大変でしょう。
一つずつ都市を消していくのも思いましたが、そもそももうこうなったら異世界自体に用事はありません。
この異世界そのものが、不要になりました。
まずは、周囲の地形を全て消して、平面にしました。
視界に入る限り、何もない地平線が広がっています。
これで余計な物に惑わされずに、これからのことを考えることができます。
「「スキルレベルがアップしました」」
どうやら、私のスキルを全力で使用するときでしょう。
私は目をつむり、瞑想しました。
この世界を全て消去してくれ
目を開けると、そこは真っ白な空間でした。
何もない、デバッグルームのような感じです。
恐らく、これでゲールも消えているでしょう。
何もかも消えた世界を歩いてみました。
下の地面も何もないのですが、歩く感触はありました。
どれだけの時間が経過したのか、全く分かりません。
場所感覚がないと、時間間隔もなくなっちゃうんですね。
最後に消すものがあります。
自分の手を眺めました。
またゆっくりと目を閉じます――
これで異世界転生の話は終了したはずなんですが……
また目が覚めました。
なんか私、培養液の中で浮いてるみたいなんですね。
そして周囲には配管や配線が大量にあります。
どうやら、試験管の中で浮いてる脳みそみたいですね。
でも、私ってミニマリストじゃないですか。
どうしてもこの配線や配管が気になってしょうがないんですよね。
こういうゴチャゴチャしたものが視界にあると、気が散ってしょうがない。
この培養液もベタベタして気持ち悪いし、衛生上も精神衛生上もあまりよろしくありません。
思考力の妨げになるので、これもう、まとめ全部消しちゃいましょう――
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