第1話 プロローグ
プロローグ
「はぁ……はぁ……。おじいちゃん……どこにいるの? おじい、ちゃん」
きちんと手入れをされた和室、夏の日射しが欄間から漏れ入る部屋の片隅にしかれた布団の上で、少女は息も絶え絶えに祖父を呼んだ。年齢にしてまだ小学校高学年といったところだろうか?
そんな少女は、今まさに死の淵にたっていた。
少女はケガをしたわけでも、病気になったわけでもない。それどころか、ほんの数日前まではもうすぐ訪れる夏休みを楽しみに待つ、小学生だった。
その少女がなぜ、こんなことに?
すべては60年前の過ちに起因する。
過ち。
それは過去に起因する禁忌。少女の祖父が60年前に得た見返りの代償……それが今、孫娘に降りかかっていた。
いわゆる、呪詛――呪いであった。
そして、その呪詛は確実に少女の命を奪う。そう、それはすでに決まっていること、60年前から決まっていたことであった。
「おじい、ちゃん……どこ?」
「どうした、ここにいる。おじいちゃんはここにいるぞ……」
少女はもう目も見えていないのか、うっすらと少しだけまぶたを開け、老人の声がする方に顔を向ける。そして布団の隙間から少しだけ手を出し、老人を探した。
老人が、もうほとんど力の入っていない少女の手を取ると、少女は少しだけ微笑み口を動かす。
「おじいちゃん……ごめんね」
「どうして……何を……謝る? わしは恨まれこそすれ、謝られることなど何もない! お前は何も悪くはないんじゃ……それなのに、それなのにどうして謝る?」
老人は、少女がやっとの事で絞り出した声を受け、とうに枯れ果てたはずの涙が止めどなく流れ落ちることさえも気にとめることなく、問いかけた。この少女が死ななければならないのは、すべて自分にその責がある。
60年前の約束。
犯した罪。
そして、その罰。
今、苦しみあえいでいる少女にも話してあること。
その事を知っているはずの二人の間には、いや、老人に対しての少女の言葉としてはあり得ない言葉であった。
「結局……最後までおじいちゃんに、希美香(きみか)が作ったごはん、おいしいって言ってもらえなかったから……だから、ごめんなさ……」
「?! 希美香? 希美香!」
少女を激しく揺する。
しかし、もうなんの反応も示さない。
それでも、だからこそ、なおいっそう激しく揺さぶった。
ひとしきりその行為を続ける……それはいつしか、少女をこちら側に引き戻すためではなく、少女の死を確かめるための行為へと移り変わっていた。
「なぜ、なぜこの子が死ななければならなかったんじゃ!? なぜ――」
老人の叫びも、もう少女に届くことはない。
享年12歳。
今日が誕生日であった少女――
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