第269話

「嘘だろ‼」


 冒険者の誰かが叫んだ、その言葉は跳躍したロックゴーレムを見た冒険者たち全員が思ったことだった。

 ゴーレムと言えば鈍足で、力任せな攻撃をするイメージを誰もが持っている。

 実際に、ここまでの進行は非常に遅かったため、疑うことさえしなかった。

 それが突然……これほど機敏に動くゴーレムは見聞きしたことがない。

 ロックゴーレム自身も足にダメージを受けているのか、形勢していた岩が広範囲にわたり崩れ落ちる。

 町への進行が最優先の命令になるのか、自分自身が傷つくことを厭わないようだった。


 跳躍したためリゼの体が、ロックゴーレムから引き離されるように浮いた。

 咄嗟に【闇糸】を発動させて、ロックゴーレムの体に突き刺していたクナイに繋ぐ。

 先に着地したロックゴーレムの反動で、高く飛ばされていたリゼ。

 上からだと頭頂部が丸見えだった。


(あそこに着地すれば……)


 闇糸を手繰り寄せ、最終目的地の頭頂部に着地するが、体を大きく打ちつけたため激痛が走る。

 だが、千載一遇の状況を死守するため、左手に握っていたクナイを頭頂部に突き刺す。

 そして、腰から忍刀を抜いて目の前の魔法陣が刻まれている部分に向かって、何度も振る。

 片手で不安定な状態だったため、魔法陣の刻まれた岩に忍刀が上手く当たらない。

 何十回振ったか分からないが、なんとかロックゴーレムから魔法陣が刻まれた岩が外れる。

 その瞬間にロックゴーレムの動きが数秒間止まり、命令の上書きが解除された。

 本来の迷宮主ダンジョンマスターの命令を遂行しようとしたが、今いる場所は迷宮ダンジョンではない。

 思考停止に近い状態から情報整理をしながら、自分の使命を思い出しているようだった。

 背後から追いついた冒険者がロックゴーレムへの攻撃を再開すると、その攻撃が引き金となり振り返って、冒険者への反撃を開始する。

 迷宮ダンジョン内ではないが、侵入者を排除することを最優先にする命令に沿った行動だった。

 とりあえず、町への進行を阻止したことで最悪の事態は免れた。

 唯一、ロックゴーレムの体に張り付いていたリゼが魔法陣の破壊に成功したのだと、戦闘していた冒険者たちは確信して、作戦は魔核の破壊へと移行する。

 リャンリーはリゼに向かって、ロックゴーレムから離れるようにと大声を出す。

 頭頂部で上下左右の動きに必死で耐えているリゼの耳に、その声は届いていない。

 ロックゴーレムの体にしがみついているのはリゼだけで、他の冒険者たちは跳躍した段階で振り落とされていた。

 皮肉なことにリゼがいるため、ロックゴーレムの体に向かっての攻撃が困難になっていた。

 一方のリゼは、そんなことになっていることとは知らずに、必死で魔核を探す。

 リゼの頭の中に、ロックゴーレムから離れるという考えはなかった。

 大きな衝撃の後、ロックゴーレムの体が傾く。


「くっ!」


 その反動でリゼの体が激しくぶつかると、激痛で顔を歪める。

 足元で執拗な攻撃が実を結び、ロックゴーレムの右足首部が損傷していた。

 やはり無理な跳躍が災いしていたようだった。

 片膝をついたロックゴーレムはすぐさま起き上がろうとするが、冒険者たちは一気に攻撃する。

 最初こそ固いイメージだったロックゴーレムの体にも攻撃が通るようになる。

 一心不乱に攻撃しているので気付いてはいないが、迷宮ダンジョンから離れると、体に施されていた強化魔法の効力が落ちていた。

 これは迷宮主ダンジョンマスターの影響力が関係していた。

 本来であれば、迷宮ダンジョンでしか活動しない魔物たち。

 迷宮主ダンジョンマスターの影響力があるのは、迷宮ダンジョン内だけなので、迷宮ダンジョンの外では影響力が落ちていた。

 リゼも隙を見てロックゴーレムに攻撃をするが、ロックゴーレムから離れるようにと言われる。

 その言葉に従い、即座にロックゴーレムから下りる。

 リゼが下りたのを確認すると波状攻撃とも言えるような攻撃を一斉に浴びせる。

 表情も持たず、言葉を発しないロックゴーレム。

 自分たちの攻撃が有効なのか不安な気持ちを抱えつつも攻撃を繰り返す。

 反撃するように腕を振り回すが、腕の可動域を把握している冒険者たちに当たることは無かった。

 次第に腕は肩から捥げ、体を覆っていた岩が落下していく。

 攻撃手段が無くなり細身になると魔核のありそうな胸や頭を重点的に攻撃をして、魔核を探す。

 魔法攻撃で首を攻撃すると岩が外れて頭が落下してきた。

 落石に対応出来なかった冒険者数人が怪我を負う。

 前のめりに倒れ込んだロックゴーレムは、起き上がろうとするが、両腕が無いため振動する岩でしかなかった。

 誰もが勝利を……バビロニアを守ったと確信する。

 その慢心した気持ちから、ロックゴーレムの体を登り攻撃をしながら、いち早く魔核を探す冒険者も現れた。

 魔核を最初に手に入れても、報酬は変わらない。

 ただ、“バビロニアのスタンピードのボスだったロックゴーレムの魔核を取り除いた冒険者“として、後世まで語られる可能性はあるし、自分自身の冒険者としての功績になる。

 名のある冒険者の仲間入りができるかもしれない。

 そう考える者たちは手柄を得ようと、我も我もと後に続く。

 リゼも流れに任せるように、魔核の探索に参加する。

 魔術師たちも魔法攻撃が出来ないため、体を休めながら打撃により次々と破壊されるロックゴーレムを見ていた。

 その眼差しは羨ましさや嫉妬が混じっていた。

 距離を取って戦う魔術師が戦闘中に魔核を取り除くことは、ほとんどないからだ。

 多くの冒険者たちに削られ続けるロックゴーレム。

 魔核が発見されるのも時間の問題だった。


「あったぞ‼」


 一人の冒険者が首の後ろに隠されていた魔核を発見する。


「終わった」


 張り詰めていた糸が緩み、体の力が抜けるリゼ。

 それはリゼだけでなく、その場にいた……スタンピードを止めるために参加した冒険者たち全員が感じていた。

 喜びの歓声が響くなか、魔核を発見した冒険者が嬉しそうに魔核を取り出そうと触れる。

 すると、魔核から眩い光が放たれ、岩のすき間を通して閃光となる。

 不意を突かれた一瞬の出来事に反応が遅れる。

 魔核が爆発を起こし体を覆っていた岩が爆ぜて冒険者たちを襲う。

 しかも、深層部分の骨格を形成していたであろう部分には尖った加工が施されており、冒険者たちの体を切り裂き貫いた。

 歓喜の声から一転して、辺りは阿鼻叫喚と化す。

 迷宮主ダンジョンマスターが仕掛けていたトラップだった。

 ゴーレムの種類に”ボムゴーレム”が存在している。

 見た目はロックゴーレムやアイアンゴーレムなどの風貌だが体内に爆弾を隠し、該当箇所を攻撃すると同時に爆発を起こす。

 主に足止めと戦力を減らすために製作されるゴーレムだ。

 今回のロックゴーレムだったと思っていたゴーレムも実はボムゴーレムで、魔核に触れることで発動する魔法を施されていた。

 ゴーレムと言うレアな魔物だからこそ、誰もボムゴーレムだと気付かなくても仕方がない。

 だが、この局面での爆発に多くの死傷者を出すことになる。

 リゼも爆風に飛ばされながら、腹部を岩が貫く。

 激痛で意識を失いそうになりながら、傷付く冒険者たちを見る。


(……っ‼)


 リゼは必至で意識を保とうとするが、飛んで来た岩が頭部に当たり、完全に意識を失い地面に叩きつけられた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十三』

 『魔力:三十二』

 『力:二十七』

 『防御:十九』

 『魔法力:二十五』

 『魔力耐性:十二』

 『敏捷:百七』

 『回避:五十五』

 『魅力:二十三』

 『運:五十七』

 『万能能力値:五』

 

■メインクエスト

 ・スタンピードからバビロニアを防衛。期限:スタンピード終息まで

 ・報酬:達成度により変動。最高報酬(万能能力値:十増加)


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


 ・殺人(一人)。期限:無

 ・報酬:万能能力値:(十増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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