第221話

「前と比べて違和感は無いか?」


 新しい防具の装着具合を確かめていた。

 黒い防具に違和感を感じながら、身が引き締まる。

 染め直したことで少しだけ革が柔らかくなったのか動きやすい感じがする。


「大丈夫です」


 全ても防具を装備して、小太刀と短刀を受け取る。

 硝子に映った姿に驚く。

 自分じゃないような姿に加えて、防具を黒にしたことで自慢の銀髪がより目立つ。

 思っていた以上に喜んでいる姿を見られていることに、リゼ自身は気付いていない。

 リゼは迷宮ダンジョンから持ち帰った武器や防具を買い取ってもらう。

 防具職人からは「スクィッドニュートの墨を浴びても大丈夫だぞ」と言われるが、リゼ的には二度と戦いたいと思わない。

 なにより、五階層から六階層へ行く方法も分かったので、遭遇することもない。

 査定を終えた店主から買取分の銀貨と銅貨を受け取る。

 店主からは「太客だね」と誉め言葉か冗談か分からないことを言われて、苦笑いをしながら店から出ると、目の前にサブクエスト達成が表示された。


「えっ!」


 思わず声を出してしまったので、通行人に見られている。

 しかし、リゼの思考は目の前に表示された画面に集中していた。


(防具は買い替えていないのに……どうして?)


 サブクエストのクエスト内容を思い出すと、達成できた理由が理解できた。

 それは『防具の変更』。

 難しく考えていたのだと、リゼは気付く。

 防具の色を乳白色から黒色に変更した。

 つまり、防具の色を変更したことになる。

 多分だが色でなくても防具に何かしらの追加や、改造を施してもクエストは達成できた。

 自分のスキルながら意地が悪いと思いながらも、自分の頭の固さに嫌気がさしていた。

 だが、正解かどうかは画面が表示されるまで分からない……。

 

 とりあえず、予想外にサブクエストが達成できたことを喜ぶ。

 続けて新しいサブクエストが発生するかとも思ったが、その画面が表示されることは無かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 リゼは迷宮ダンジョンへと向かう。

 この時間から迷宮ダンジョンに入るということは、朝まで迷宮ダンジョン内に滞在するということになる。

 頭の片隅にリャンリーの言った言葉が過ぎるが、焦る必要はないと自分に言い聞かせる。

 ただ、冒険者を見る時に、自分がパーティーを組むとしたらなどと考えながら見るようになる。

 少しだけだが意識の変化が現れていた。

 実際に仲間が出来るかは、リゼの性格を考えると別の問題だ。


 前回の失敗を教訓にして、松明を使用せずにライトボールで迷宮ダンジョンを進む。

 五階層までにストーンワームの討伐には成功したが、もう一種類のニアリーチを発見することは出来なかった。

 方位計を使い、無事に六階層の階段に辿り着くが、すぐには六階層へと進まず、階段の前で悩んでいた。

 レベルの低い自分が、このまま六階層に下りて無事に戻って来れるか不安だったからだ。

 これから何時間も迷宮ダンジョン内で過ごすため、無理はしないほうがいいに決まっている。

 だが、無理をしないと強くなれないという思いが頭の中で葛藤していた。

 そして――リゼは階段を下りて六階層に行くことを決めた。


 六階層は五階層に比べても暗い感じがしていた。

 四階層の光苔や五階層のような湖がないため、より暗いと錯覚しただけだ。

 ここに来るまで、すれ違う冒険者は多くいたが、リゼと同じ方向に進む冒険者はいなかった。

 数少ない迷宮ダンジョンに残った冒険者。

 戦闘音が聞こえないのも当たり前だった。

 出来るだけ五階層へ続く階段から離れないように、戦闘態勢のまま周囲を確認する。

 上から魔物の鳴き声が聞こえる。

 ライトボールの灯りが届く範囲に魔物の姿は見当たらない。

 だが、確実に視線を感じている。

 いつでも襲えると、その時を狙っていた。


(この階層は……まだ早いかも)


 リゼが自問自答している瞬間に、近付く足音をリゼは聞き逃がさなかった。

 ライトボールに一瞬だが姿を確認した魔物は”ダークスコーピオン”だった。

 闇に紛れるように黒い体はライトボールの灯りが無ければ見落としてしまう。

 すぐに魔物図鑑に書いてあった内容を思い出す。

 バビロニアの迷宮ダンジョンだけでなく、他の迷宮ダンジョンや洞窟でも生息している魔物だ。

 注意すべきは普通の蠍同様に尾の先から出される毒。

 しかもダークスコーピオンのような魔物系の多くは毒を発射することも出来る。

 足音のする方向からも、数は一匹ではない。

 致死性の毒ではないにしろ、何か所も刺されれば致命傷になる。

 リゼは悩んだが、腰のバッグからスクロール魔法巻物を取り出すと同時に破く。

 ライトボールが二つになったことで光量も二倍になった。

 目視出来ただけで三体。

 迷うことなく“ドッペルゲンガー”で発動させる。

 ドッペルゲンガーであれば、毒が効かないため有効な攻撃だと判断した。

 リゼの思惑通り、ドッペルゲンガーは次々とダークスコーピオンを倒していく。

 目視出来た三体だけでなく、攻撃中に発見した二体も難なく討伐することが出来た。

 大きさ的にも解体しなくてもアイテムバッグに入る。

 ダークスコーピオンの外殻が、自分の防具と同じような黒さだと思いながら回収をする。


(あっ!)


 リゼが自分の闇属性魔法“ディサピア”を上手く使えば、魔物に不意打ちをかけられるのではないかと考える。

 どうしても捕食される立場なので攻撃が後手に回るが、先に攻撃出来れば楽に戦うことが出来るだずだ。

 名案と思ったが、その考えが現実的でないことを知る。

 姿や気配を消しても何も見えなければ意味がない。

 かと言って、ライトボールを発動させれば、魔物にも気付かれる……いいや、気付かれておびき寄せれば‼

 考えが二転三転するが、試してみる価値はあると思い、すぐに実行へと移す。

 少しだけ歩きながら、物音に集中する微かに聞こえる物音。

 リゼは“ディサピア”で気配を消して物音の方へ移動する。

 ライトボールはリゼの周囲から離れないため、一緒に移動するので視覚が遮られることはない。

 素早く行動をしないと“ディサピア”の魔法効果が切れてしまう。

 魔物は“ウィンドミンク”だった。

 鼬に似た魔物だが口から空気の砲弾を放つ。

 先程倒したダークスコーピオンを好んで食べる魔物だ。

 リゼはウィンドミンクの背後を取ると喉元を切り裂く。

 討伐寸前に“ディサピア”の魔法効果が切れたため、ウィンドミンクが振り返ったため少し焦った。

 この討伐方法は使用方法を上手く考えないと、逆に危険が大きくなると感じた。

 しかし、使えないと分かったりする経験が自分に足りないと思い、今後もいろいろな方法を試すつもりだった。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十三』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十六』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日

 ・報酬:転職ステータス値向上


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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