第170話
まず、ある街で骨董市が開かれていたことから話が始まった。
リスボンは頻繁に骨董市に足を運んでいるため、王都魔法研究所から幾つかの貴重な品があれば、購入する依頼も受けていた。
依頼した品でなかったとしても、似たような品であっても購入する権限を与えられていた。
それだけ貴重な品を入手することが難しいということなのだろう。
だからこそ、リスボンはどんな小さな骨董市に出向く時でさえ、必ず六人以上の護衛をつけていた。
「今回、リスボンが手に入れてくれた品は……これじゃ」
グローアが持っていた布から、手のひら大の丸くて薄い金貨の大きな物を出して、
ジックペリンの前に机に置く。
「付与魔法が施された円盤じゃ」
リゼとジェイドは実物を見たが、自分たちが戦った原因が、これなのか? という印象だった
「フォークオリア法国製ですか?」
アンジュは触らないように円盤の一部を指差す。
「そうじゃ。ここにフォークオリア法国の証である国章が刻まれておるじゃろう」
ジックペリンはアンジュの言葉が真実だと証明するかのように、国章の部分を指差す。
フォークオリア法国が必死で取り返そうとしていたのも頷けるが、そもそもそのような品が骨董市に出回ること自体が不思議だった。
「これは長年フォークオリア法国で行方不明になっていた品で、フォークオリア法国は必死で探していた品なんじゃ」
「そんな大事な品を、フォークオリア法国に返還しなくてもいいのかしら?」
「普通の品であれば返還するべきじゃろうが……」
ジックペリンは険しい顔になる。
「数百年前、フォークオリア法国は圧倒的な魔法を駆使して、この世界を支配しようとしていたのじゃ。その時に使用された大型魔法兵器を稼働する鍵が、この円盤だと言われておる」
リゼは聞いたことのない魔法兵器という言葉に驚く。
「魔法兵器って、今は条約で使用禁止になっているはずですよね。唯一、所持していたフォークオリア法国も魔法兵器を破棄したと聞いていますが?」
「建前では、そうなっておる。学習院の授業でも、そう教えているしの」
「……実際は違うと」
「この円盤は全部で六つある。当時でも簡単に起動させることは出来なかったのか、円盤は別々の者が所持して居ったそうじゃ」
「六つの円盤が揃わなければ、起動しないということですか?」
「いいや。残っておる文献では、絶対に必要な主円盤と言われる円盤が一つと、他の副円盤と言われる円盤が三つ揃えば起動すると書かれておった。ちなみに、この円盤は副円盤じゃ」
主円盤はフォークオリア法王が、今でも所持している。
公にはなっていないが、事情を知る者たちにとっては、周知の事実だった。
数百年前の戦争で、幾つかの円盤が紛失したため、長い年月をかけてフォークオリア法国は探していた。
同時に、他の国はフォークオリア法国への抑止力として、自国で所持しようと裏で動いていた。
「このことは、アルベルトやアリスに、クウガとササジールも知っておる」
「えっ‼」
不意にアルベルトたちの名前が出たことに驚くアンジュとジェイド。
銀翼をはじめ、各地でクエストをするクランには事情を話して協力をしてもらっているそうだが、クランメンバー全員が知っているわけではない。
クランでも信頼のおけるメンバー数人が知っている程度だ。
「フォークオリア法国で内紛が……権力争いが起こっているということですか?」
アンジュの言葉に、ジックペリンは隠しても仕方がないと思ったのか頷いた。
「あまり情報が出回らないので知らぬ者も多いが、現フォークオリア法王は病に伏せられておる。その後任として長男でなく、長年フォークオリア法国を支えてくれていた副法王を考えているらしいのじゃ」
「法王に成れない長男が円盤を集めているということですか?」
「そうじゃ。表面化はしておらぬが、フォークオリア法国の首脳陣たちの間でも、現フォークオリア法王の意思を尊重する者たちと、変革を求めて長男を押す者たちと別れているそうだ。ただ、円盤の収集は外交的にもフォークオリア法国への抑止力になるため、権力争い前から回収に動いておる」
思っていた以上のことにリゼは驚いていた。
それよりも自分と歳も変わらないアンジュの頭の回転の速さや、的確に質問をすることを凄いと感心していた。
「この円盤は我がエルガレム王国だけでなく、迷宮都市バビロニアを持つラバンニアル共和国や、女神リリアを崇拝するリリア聖国も収集していると聞いている」
「なるほど……まぁ、そうなりますよね」
ラバンニアル共和国はフォークオリア法国と隣接しているので、攻撃を受ける確率が高い。
女神リリアを崇めるリリア教以外は異教徒として、各地で問題を起こしているリリア教徒。
リリア聖国も、この世界で崇拝者が多い女神ユキノを崇めるユキノ教に対抗するため、魔法兵器を欲しているのだろうとアンジュは考察する。
「しかし、さすがじゃな」
「何がですか?」
「アンジュ、君のことじゃよ。学習院での優秀さは私の耳にも届いておった。てっきり、上級学習院に進み、我が王都魔法研究所に来てくれると思っておったのじゃが残念じゃった」
「噂に尾ひれがついただけで、私は優秀ではありません。ただの過大評価に過ぎませんので、残念がる必要はないかと思います」
アンジュの返事に、ジックペリンと共に話を聞いていた副所長のグローアとラドカは苦笑いをしていた。
リゼは知らないが、アンジュの優秀さは王都にある三つの学習院でも有名だった。
まさに”天才”とはアンジュのことを言っていると生徒たちは納得していたくらいだ。
誰もが上級学習院へ進学するものだと思っていたら、急に進路を変更して冒険者への道に進んだ。
当然、教師たちも優秀な人材を上級学習院へ送り、いずれは国の一角を担う人物になると期待していたので、何度もアンジュを説得した。
しかし、アンジュは自分の意思を変えることなく学習院を卒業して、冒険者になった。
冒険者になったアンジュをスカウトしようとするクランは多くあったが、それを全て断り銀翼に入る。
銀翼では見習いのアンジュだったが、その待遇さえ受け入れる。
他のクランであれば、もっと高待遇で迎えると銀翼に入った後もスカウトされていたが、アンジュが首を縦に振ることは無かった。
「まぁ、本人の意思が変わらないのであれば、仮定の話じゃしの。追加報酬の前に少し、休憩でもするかの」
ジックペリンはグローアの顔を見ると、グローアは表情を変えることなく指を鳴らした。
グローアの指が合図だったかのように、新しい飲み物と菓子が運ばれる。
「お口に合うかは分からないが一応、有名は三星飲食店の飲み物と菓子を取り寄せてみた」
ジックペリンが緊張を解くかのように軽い口調で話し始めた。
「飲み物は王都特産の果物をふんだんに使った物です。隣の菓子は、この期間だけの限定商品になります。別々の店の物になりますが私的には、この組み合わせは最高だと思っていますので、ご用意させて頂きました」
グローアは誇らしげに説明する。
「さぁ、どうぞ」
グローアに進められて、リゼたちは飲み物を飲む。
たしかに、いままで飲んだことのないくらい濃厚な味だと思いながら、リゼは感じていた。
次に菓子を一口分に切り分けて口に運ぶ。
こちらも食べたことのない食感で美味しいと感じながら飲み込む。
『メインクエスト達成』『報酬(魅力(二増加)、運(二増加)』が表示されると喜びよりも、飲み込んだはずの菓子が逆流してきた。
クエスト達成した瞬間に、人を殺したことを思い出してしまったからだ。
吐き出す訳にもいかないので、リゼは必死で再び飲み込んだ。
リゼの様子に気付いたアンジュが「大丈夫?」と声を掛けてくれたが、心配させないように「大丈夫です」と返答する。
ふと頭を過ぎる情景に慣れることは出来るのだろうかと、不安を感じながら雑談を始めたジックペリンたちの話の輪に入った。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十五』
『魔力:十八』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:八十四』
『回避:四十三』
『魅力:十九』(二増加)
『運:四十五』(二増加)
『万能能力値:零』
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