第59話

 ――クエスト『ランフブ村付近の魔物討伐』実行日の朝。

 門の所には、冒険者たちが集まっている。

 リゼは参加しないが、見送りの為に来ている。

 オーリスの街の人たちは、前回同様と思っているようで特に騒ぐようなことは無かった。

 しかし、以前のときと違う。

 冒険者の殆どが、完全武装している。

 いつもと違うのは、武器の手入れや、武器や防具を新調している。

 同じギルドで活動する冒険者同士だから、微妙な変化でも気が付く。

 それだけ冒険者たちの本気だということだ。

 なにより、今回のクエストが、それだけ危険なことを意味する。 


(あれ?)


 リゼは冒険者の中に、衛兵がいることに気付く。

 衛兵は五人いる。

 明らかに装備が違い、同じなのですぐに分かるし、街で何度も見ているので違和感があり目に付く。

 冒険者の中にいるので、参加するのだろうか?

 リゼは疑問を感じながら、周囲を見ていた。

 

「全員、注目‼」


 門に近い所から、声が聞こえた。

 雑談していた冒険者たちが一斉に話を止める。


 冒険者で何も見えないリゼは、門の方をとりあえず見る。


「私はオーリス領主のカプラスだ。まずは、今回のクエストに参加してくれたことに感謝する」


 カプラスがクエスト参加者に挨拶をしていた。

 街の人もカプラスの言葉で、領主がいたことに驚いたのか、カプラスの声に反応した。

 リゼも声しか聞こえないので、そのままカプラスの演説を聞いていた。


 出来るだけ、街の人に不安を与えないように情報制限していたが、隠蔽する訳でなく、この場でゴブリンの存在を明らかにして、冒険者たちに討伐して貰うようなことを話す。

 カプラスがギルマスであるニコラスを呼んだのか、ニコラスの声も聞こえてくる。

 街の人の話し声や、周囲の物音もあり、リゼは全ての言葉を聞き取ることが出来なかった。

 冒険者が鼓舞するように大声を上げて、持っている武器を上に掲げた。


 徐々に、冒険者たちが移動する。

 リゼは無意識に手を合わせて、皆の無事を祈った。


 暫くして、集まっていた冒険者たちが出立したので、門の前は閑散としていた。

 見送りを終えたリゼは帰ろうとすると、領主のカプラスと目が合う。

 リゼが一礼すると、カプラスは笑顔で手を上げた。

 領主と領民――リゼは身分



 冒険者の大半が居なくなっただけで、街の行き交う人が減った気がする。

 街の治安を守る為か、衛兵の姿が多い気もした。


 リゼはギルド会館に向かい、清掃系のクエスト『川原の除草』を受注する。

 これは、街の中を流れている川を管理している領主からの依頼だ。

 この依頼はランクBと、ランクCの共通クエストになっている。

 ランクCのクエストになるのだが、ランクCの冒険者が少ない。

 その為、ランクBでも受注出来るようになっている。

 街の治安に関するクエストは、同じようなクエストが多い。

 だからといって、クエストの取り合いになるようなことは無い。

 要は人気のないクエストの一つだからだ。

 しかし、放置出来ないクエストでもあることから、ギルド側から提案される。

 断ってもいいのだが、暗黙の了解では無いが、持ち回りのような感じで提案される為、断る冒険者は少ない。

 戦闘が得意な冒険者でさえ、受け入れる。

 これはオーリスに限ったことではない。

 助け合うことで、冒険者同士の仲間意識が強くなる。

 困ったときに助け合うことが出来るのも、こういったことがあるからだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ふぅー」


 清掃系のクエストを二つ終えたリゼは、早めに宿屋に戻って来た。

 深いため息をつくと、冒険者の装備を思い出していた。

 剣士が多かったな――。

 リゼは自分と同じ盗賊の職業の人を探していた。

 軽装備で、それっぽい人はいなかった。

 人気が無い職業とは知っていたが、改めて実感した。

 やはり人気があるのは、剣士だろう。

 剣を持っている冒険者の数も圧倒的に多かった。

 正確には初級職の剣士でなく、中級職や上級職の別の職業なのかも知れないが、剣士の上位職には違いないと、リゼは推測していた。

 

 いずれ、自分も盗賊の上位職に転職出来る日を想像する。

 上位職に関しては、人によって異なる為、何に転職できるのか分からない。

 リゼが盗賊ということで、色々と教えてくれる冒険者もいた。

 上位職の情報として聞いた話では『斥候』に、『奇術師』や『狩人』そして、リゼに盗賊を進めたクウガの職業『暗殺者』。

 『道化師』という職業に転職した冒険者もいるそうだ。

 盗賊は上位職が、他の初期職に比べて少ないと教えてくれた。

 人気が無い理由の一つになっている。

 しかし、リゼは職業案内所でクウガや、アリスから説明を受けていたので知っていた。

 それを知ったうえで、盗賊という職業を選んだ。

 小柄な自分では、剣士や拳闘士は向いていない。

 安易に拳闘士を選択しなかったことに、リゼはクウガに感謝していた。

 何故なら、ギルドで見る拳闘士の冒険者は、いつも怪我だらけだったからだ。

 肉弾戦の為、剣士よりもより魔物に近付いて攻撃するからだろう。

 リゼは、この後に自分がどのような職業に転職出来るか分からない。

 だが今は、先のことを考える余裕はない。

 別に行き詰っている訳では無いが、同じ盗賊の冒険者がいれば、話を聞きたいと思っていた。


「やっぱり、オーリスで盗賊の冒険者は私だけか……」


 リゼは独り言を呟く。

 そして、ステータスを開き、保留にしているクエストを開く。

 幾つかのクエスト内容を確認する。


(――これなら、出来るかな)


 リゼは受注と表示されたところを押す。

 クエストは『達成条件:左右の指五本の先をくっつける』『期限:一時間』。

 リゼは座ると、左右の指先を合わせる。

 最低一時間は、左右の手が使えない。

 もし、体勢を崩して指先が離れてしまってもクエスト失敗になる。

 一瞬の気のゆるみが、失敗に繋がることをリゼはよく知っているので、指先を合わせることに集中していた。



 ――一時間後。

 クエスト達成だ。

 報酬は『精神力強化』だった。


(――また、これだ)


 ステータスに表示されず、数値化されない精神力。

 リゼは自分が強くなった実感がしないので、少し残念な表情を浮かべた。

 最近、デイリークエストやノーマルクエスト、ユニーククエストも一旦保留にした後、出来る限り受注するようにしている。

 しかし、最近は『精神力』『忍耐力』の強化を報酬になることが多い。

 『精神力』『忍耐力』の強化が、冒険者としてでなく人間としてのリゼを、大きく成長させていることをリゼは知らなかった。


 その後、リゼは保留していたクエストから二つ受注したが、いずれも達成報酬は『精神力強化』だった。

 当然、リゼは不満気な顔だった――。

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