第10話

 孤児部屋に戻ったリゼは、寝床に倒れこむ。

 布団に顔を押し付けながら、体の成長速度が停止したメリットとデメリットを考える。

 答えはすぐに出る。

 冒険者として生活をしていく上で、幼少の体で過ごさなければならないのは大きなデメリットでしかない。

 自分のスキル『クエスト』に対して達成報酬と、罰則のバランスが取れていない事を不満に抱きながらも、自分ではどうしようも無い現実を理解しながら葛藤する。


 いずれは、母親のような綺麗な女性になりたいと思っていたリゼは、そんな簡単な願いさえも叶わない可能性がある事が悔しかった。

 しかし、リゼは泣かなかった。

 辛い時こそ、笑顔でいる事を母親から学んでいたから。


 悩んでいても仕方が無いので、汚れた服を洗濯する事にする。

 受付に行くと、アイリが不在だったので、別の受付嬢にギルド会館裏で、洗濯をする許可を取る。

 洗濯を終えると、昼食と夕食を兼ねた食事を購入する為、街に出る事にした。

 街では、いつも以上に活気があったがリゼは気にせずに、目的の店まで足早に向かう。

 リゼが向かった先は、ここ数日で聞いた街でも比較的安価なパン屋になる。

 パン屋に入ったリゼはパンで無く、値札を先に見ていた。

 そして、店で一番安いパンを二つ購入した。


 帰り道、街の人日が先程よりも一層騒いでいる事に気が付く。

 聞き耳を立ててみると、有名なクランの冒険者達がクエストを達成して、街に寄ったそうだ。

 リゼは自分には関係の無い話だと、関心も持たずに足早に孤児部屋に戻った。


 リゼはギルド会館に近付くに連れて徐々に、人が多くなっている気がしていた。

 ギルド会館が目に入ると案の定、ギルド会館の入口付近に大きな人だかりが出来ていた。

 有名なクランの冒険者達が、ギルド会館内にいるようだ。

 人を押しのけて正面の入口から入るのも面倒だったので、アイリに教えて貰った関係者専用の裏口からギルド会館に入ろうと、ギルド会館の裏に回る。


「ちょっと待ちな!」


 裏口の扉を開けようとすると、背後から声を掛けられる。

 いきなり、声を掛けられたリゼは驚いて振り向く。

 すると、見知らぬ大男が立っていて、リゼがギルド会館の中の入るのを止める。

 こんな大男が自分の近くに居れば、すぐに気が付く筈だとリゼは思う。

 声を掛けられるまで、存在に気が付かなかった事を不思議に感じた。

 リゼが戸惑っている間も、大男はリゼを不審者扱いするかのように、見下ろしていた。

 確かにリゼは、明らかにサイズが違う大きな服を着て、人目を避けるようにして裏口まで来ていたので、不審者に間違えられても仕方が無い。

 そもそも、裏口はギルド関係者しか使用出来ないのだが、リゼは孤児部屋に居る間のみ、裏口の使用を許されていた。


「……もしかして、冒険者か?」


 黙ったままでいたリゼに、大男は疑問形で話し掛ける。


「はい。リゼと言います」


 リゼは胸元から、冒険者の証である鉄製のプレートを大男に見せる。


「……ちょっと、ここで待っていろ」


 大男は、扉を開けてギルド会館の中に入って行った。

 冒険者であれば裏口からでなく、正面から堂々とギルド会館に入れば良い。

 なのに、コソコソと裏口からギルド会館に入ろうとするリゼを怪しむ事は、決して間違いでは無い。

 リゼもその事は分かっていたので、大男の言った通りに素直に動かず、その場で待っていた。

 暫くすると、大男が扉を開けて戻って来た。


「悪かったな。これは詫びだ」


 大男は先程とは違い、笑顔でリゼに菓子を渡す。


「気にして頂かなくても結構です。私が怪しい格好や行動していたのは、自分でも分かっています」


 思っていた反応と違う事に大男は戸惑う。

 普通の子供であれば、菓子を貰えれば喜ぶ筈なのだが……。

 大男は菓子を差し出した手を引っ込める事も出来ずにいた。


「まぁ、そういうな」


 大男は強引に、リゼの手へ菓子を渡す。


「でも……」


 リゼもどうして良いか分からなかった。

 この大男が冒険者なのは、何となく分かるが見知らぬ人から、簡単に物を貰っても良いのか?

 もし、毒でも入っていたら……。


「やっぱり、結構です」


 リゼは大男の腹筋に菓子を差し出すと、大男は菓子が落ちない様に手で受け取る。


「失礼します」


 リゼは逃げるように、大男の横を走り抜けて、ギルド会館内にある専用の廊下を通り、一階のフロアに出ると今迄、見たことのない豪華な装備に身を包んだ冒険者が目に入る。

 リゼは有名クランの冒険者達だと確信する。

 彼等を見る為に、ギルド会館に来ている冒険者も居るようだ。




「疲れたな……」


 リゼは、扉を閉めると同時に呟く。

 買ってきたパンを小さな机の上に置き、窓から外を眺める。

 ギルド会館の内外問わずに、騒いでいる声が聞こえる。

 リゼは騒ぎ声を耳にしながら先程、ギルド会館の一階に居る冒険者達の事を思い出す。

 そして、冒険者の職業について考える。

 肉体を使っての戦闘を主体とする戦士系や、魔法を使う魔術師等を先程、一瞬だが間近で見て、自分はどの職業が向いているのかを考える。

 装備が安上がりなのは、拳闘士。

 魔術師は、魔法書を購入しなければならないので、通貨が必要になる。

 魔法書は魔法書に自分の名前と血印を押す事で、習得可能になる。

 習得する同時に、その魔法書は消滅する。

 街等でも専門店で売っているので、通貨があれば誰でも購入は可能だ。

 しかし、同じ魔法書でも人によって効果が違う事もある。

 魔法書は、ダンジョンと呼ばれる場所で発見される。

 魔法にも属性やランクがあり、一般に属性は”火”、”水”、”風”、”土”が四大属性と呼ばれ、他に”雷”、”光”、”闇”等もあるが、四大属性に比べると魔法書の数は少ない。

 人による効果の差が出るのは、この属性が大きく関係していると考えられている。

 又、特殊属性として”時空”がある。

 ランクは”初級魔法”、”中級魔法”、”上級魔法”、”超級魔法と別れている。

 中級魔法までは比較的にダンジョンで見つかるので、ランクBの冒険者でも購入は可能だ。

 もし、上級魔法や超級魔法の魔法書をダンジョンで見つければ、自分で習得する事が出来るし、売却する事も可能だ。

 超級魔法の魔法書を見つけた者は、一生遊んで暮らせたと語られる程だ。

 ”時空”の初級魔法でも簡単な魔法は解読されている。

 通貨があれば時空魔法を施した道具を入手する事が可能だ。

 高ランクの冒険者や、貴族達は所持していると父親に聞いた事がある。

 実際、リゼも父親の屋敷で時空魔法を施した道具から、物が出てきたのを見た事もある。


(魔術師や剣士は、無理かな……やっぱり、拳闘士になるかな)


 拳闘士のような屈強な肉体まで鍛える事は、リゼには無理だと分かっていた。

 しかも、自分のスキルの罰則によって、死ぬまでこの体形の可能性もある。

 職業に就く事で、職業能力値が与えられる。

 選んだ職業に沿った能力値が向上する。

 職業を変更する事は可能だが、変更前の職業能力値は二割程度しか引継げない。

 基礎能力値はそのまま引き継げるが、転職しなければ実際の能力値が分からない。

 変更後の職業によっては、バランスの悪い能力値になる事もあるので、最初に選択する職業は重要だ。

 しかし、リゼは懐事情等を考えると消去法で”拳闘士”になってしまう。


 ”職業案内所”に行き、幾つかある職業から選ぶだけで職業確定だ。

 職業欄には、その職業について詳しい説明もある。

 誰もが最初は、”初級職”と呼ばれる職業しかつけない。

 その後、職業別に決められた能力値を超えると、”中級職”や”上級職”へと進化していく。

 当然、進化するので職業基礎能力値も増加する為、自他共に強くなった事が分かる。

 だからこそ、出来るだけ早く職業に就いた方が、自分自身成長の成長が早い。

 因みに学習院では、入校後に冒険者や生産系等は問わず、自分で選んだ職業に就く事が義務付けられている。 


 リゼは下の騒ぎが落ち着いたら、職業案内所に行く事にした。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:二十二』

 『魔力:二十』

 『力:十七』

 『防御:十五』

 『魔法力:五』

 『魔力耐性:十四』

 『敏捷:十一』

 『回避:十二』

 『魅力:十六』

 『運:十一』

 『万能能力値:一』


■罰則:身体的成長速度停止(一年)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る