第7話
ギルド会館に戻ると、クエストを発注してくれた受付嬢が居なかった。
仕方が無いので、受付にいたアイリに事情を話すと、ランクC以下であれば受付嬢は誰でも良い事を教えて貰う。
リゼは申し訳なさそうに、アイリにゴロウから貰った紙とプレートを渡す。
笑顔で紙を受け取ったアイリは、予想外の報告に驚く。
リゼに対して、何て言葉を掛けて良いか分からなく戸惑うが、自分が無言だとリゼが余計に気を使うとすぐに感じた。
「リゼちゃん。あまり、落ち込まないでね」
「ありがとうございます」
そう答えるリゼの声は、明らかに元気が無かった。
アイリは、リゼにプレートを返す。
リゼは一礼して無言のまま、二階にある孤児部屋に戻って行った。
「どうかしたの?」
落ち込んだ顔のアイリに、レベッカが話し掛ける。
「実は、リゼちゃんがクエストに失敗してね……」
「……そう。ランクDで珍しいわね」
「そうなのよ。確かに『瓦礫の搬出』は肉体労働高めだけど、失敗するようなクエストでも無いのよね」
レベッカは「御嬢様だからかな」と言おうとしたが、アイリやリゼを見ている限り、差別的な表現になると気付き、口に出するのを止める。
実際、孤児部屋に来る多くの子供は貴族の子だ。
しかも、正妻の子では無い場合が多数を占めている。
クエストを受注もせずに、一日中部屋に籠っている者や、クエスト内容に文句を言ったり、失敗しても人のせいにする者や、受付嬢や冒険者を馬鹿にする等、扱いに困る事が多い。
よって、ギルド内でも孤児部屋の子供は腫物扱いをされる。
レベッカ自身も、何人もそういう子供を見ている。
しかし、リゼは自発的にクエストを受注して、受付嬢に対しても礼儀正しく接している。
レベッカは今迄の経験だけで、リゼに対して軽率な発言をしようとした自分を恥じた。
「いや~、参ったぜ!」
戻って来た冒険者の一人が、レベッカに話し掛ける。
「シトルさん、御疲れ様。どうかされたのですか?」
シトルと呼ばれた冒険者は、クエストが完了したのでギルド会館に戻ろうとした時に、瓦礫撤去の作業場で事故が遭った事を伝えた。
シトルも怪我人を救出する為に、瓦礫の撤去を手伝っていた事をレベッカに伝えて、良い人アピールをして高感度を上げようとしていた。
隣で話を聞いていたアイリは、リゼのクエスト失敗はその事故が原因だと、すぐに分かった。
それは、レベッカも同様だった。
しかし、アイリやレベッカが、リゼのクエスト失敗に対して何か出来る訳でも無い。
「そういや、孤児部屋の女の子も必死で瓦礫を動かそうとしていたぞ。まぁ、子供の力では無理だけどな」
シトルは笑いながら、リゼを馬鹿にしたように話す。
「……シトルさん。プレートとクエスト達成の証明書出して下さい」
「ん? レベッカちゃん、どうしたの?」
明らかに不機嫌な態度を取るレベッカに、シトルは戸惑っていた。
「私は一生懸命頑張っている人や、弱い人を馬鹿にする人が嫌いなだけです!」
「いやいや、冗談だよ」
笑いながら弁明するが、レベッカとアイリが軽蔑の眼差しをしている事に気が付くと、シトルは黙る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……どうしようかな」
寝床に寝転がり天井を見ながら、リゼは独り言を呟く。
この部屋に居られるのも、今日を入れてあと数日だ。
この街で一番安い宿でも、一泊食事無しで銀貨二枚だ。
最低でも、毎日銀貨二枚のクエストを達成しないといけない。
食事も含めると、さらに通貨が必要になる。
ランクBであれば、銀貨二枚以上のクエストばかりだ。
しかし、ランクCに昇格した前提で考えても、常に銀貨二枚以上を毎日稼ぐのは大変な事だとリゼには、分かっていた。
だからこそ、出来る限り早くランクを上げる事を目標としていた。
しかし、二日目で挫折を知る。
「困ったな……」
この街でギルド会館から、クエストを受注しているランクDは自分しか居ないとリゼは知っていた。
ランクDだけでなく、ランクCを含めてもリゼだけだ。
何故なら、クエストボードの紙が剥がされていない。
他にも冒険者が居るのであれば、クエストの数が減っているので分かる。
リゼは肉体を酷使した影響なのか考えがまとまらないまま、疲れてそのまま眠ってしまう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「御免よう」
作業を終えたゴロウと、解体場でリゼと会話したヨイチがギルド会館に姿を現した。
ゴロウに気が付いたアイリは受付を飛び出してすぐに、ゴロウに駆け寄りクエスト失敗の謝罪をする。
冒険者がクエスト失敗した場合、発注者への謝罪が必要だからだ。
リゼはランクが低い為、担当が居ない。
今回、リゼの受付処理は別の受付嬢だった報告を受けたのが自分だった為、ゴロウの顔を見た瞬間に体が先に動いてしまった。
「いいって事よ。嬢ちゃんには、何一つ非は無いからな。むしろ、俺達が悪い事をしたくらいだ」
ゴロウは、昼の出来事をアイリに説明をした。
説明が終わると、ゴロウとヨイチはアイリに頭を下げる。
「どうしても、礼と謝罪をもう一度したいと思ってギルドに来たんだが、あの嬢ちゃんが何処に居るのか教えてくれないか?」
アイリは複雑な表情を浮かべる。
「その……守秘義務ってので、教えられないのは分かっているが、この通りだ」
ゴロウもギルドの守秘義務については知っている。
しかし、どうしてもリゼに会わなければと思い再度、頭を下げてアイリに頼む。
「よっ、ゴロウ。さっきは大変だったな。お探しのお嬢ちゃんなら、このギルド会館の二階に泊まっているぜ」
話を聞いていたシトルが、会話に入って来た。
「シトルさん!」
アイリは、シトルを怒鳴る。怒鳴り声が、フロア中に響いた。
居場所を教えなかったのは、守秘義務もあるが孤児部屋に居る事を、話したくなかった事が大きい。
アイリの怒鳴り声で、受付や周りの冒険者達も何事かと、アイリ達に視線を集める。
皆、シトルがアイリを怒らせる事をした事に間違いないと思っているので、シトルを軽蔑した目で見る。
シトルは何事も無かった振りをして「あっ、用事を思い出した」と言い、ギルド会館から出ていった。
「二階という事は、あのお嬢さんは、はずれスキル持ちで捨てられたという訳か……」
ヨイチとゴロウも、リゼについては薄々そうで無いかとは感じていたが、シトルの言葉で確信する。
「それはそうと、ここでクエストを受注しているでランクDは、あのお嬢ちゃんだけかの?」
「はい。ランクC以下は、リゼちゃんだけです」
「そうだろうな。まぁ、殆どは学習院に入学するだろうからな」
「お前のように、自分から学習院にも行かない奴だっているのにな」
「……まぁ、それは」
一般の家庭以上の子であれば、十歳になると街にある学習院に入校して、学習院にあるクエストを受注していく。
月に一回入校する日があり、申請と通貨を払えば、誰でも入校出来る。
入校の際に能力値を測定して、統計に役立てる事もしている。
半年に一度試験を行い、実力別にクラス分けを行う、。
最短で三年間の生活を送る事で、訓練による能力値も向上や、ランクBの地位が約束される。
希望者は学習院卒業すると、上級学習院に進学する事も可能だ。
上級学習院で三年間過ごして卒業すれば、国に雇われる『王国騎士』や『国家機関』等で仕事をする事が出来る。
学習院から上級学習院に進む者は、約半分居る。
しかし、上級学習院を卒業出来るのは、その三分の一程だ。
数字が語るように脱落する者が多い。それだけ過酷だという事を物語っている。
リゼのように十歳から冒険者として働き、ギルド会館でクエストを受注する者は、オーリスでも年間で数人しか居ない。
学習院に教育費が払えない貧乏な家庭の子か、リゼのように親に捨てられた子だ。
ヨイチはゴロウに合図をすると、ゴロウは持ってきた紙をアイリに差し出した。
アイリは受け取り、紙を見る。
「……これって」
「わしたちからの、詫びだと思ってくれて構わない」
「有難う御座います」
アイリはヨイチとゴロウに礼を言うと、紙を持って受付に戻った。
「しかし、もしかしてとは思っていたが、本当にはずれスキル持ちだったとはな」
「ゴロウ。はずれスキルを決めるのは、何も知らない大人だ。知名度の無いスキルが、はずれスキルとは限らないだろう」
「確かにそうだが……」
「虚偽の報告だって出来る。それに、お嬢さんのスキルが分れば、もしかしてという事もある。まあ、難しいだろうな」
「当たり前だ。ノーマルスキルの名称を教えるのは、馬鹿しか居ないからな」
一般的に、ノーマスキルの名称を他人に言うのは、自分の愚かさを言っているのと同じだ。
学習院では世間知らずの者が、極稀に自分のノーマルスキルを自慢気に話す者も居る。
自分が他人よりも優れたスキルを持っている事で、院内での立場を優位にしようとするからだ。
しかし、本当に優秀な者こそ、自分のスキルを喋らない。
何故なら、自分以外誰もが持っているノーマルスキルである可能性もあり、敢えて口にするメリットが無い。
仮にこれがレアスキルであれば、冒険者の場合パーティーを組んで欲しいと依頼があったり、クランに勧誘されたりする。
パーティーとは、クエスト達成する為に協力する仲間の事だ。
クランは気の合う仲間で集まった軍団の名称で、クラン毎に独自のクラン名と印がある。
メンバーが三人以上入れば、ギルドにクラン申請をすることが可能だ。
ただし、クランの仲間が悪事を働けばクラン責任となり、罰則等はクラン所属している全員の責任となる。
ランクDのリゼには、まだまだ関係の無い話である。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:二十二』
『魔力:二十』
『力:十七』
『防御:十四』
『魔法力:五』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:十一』
『回避:十二』
『魅力:十四』
『運:十一』
『万能能力値:零』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます