第5話

 リゼは、受付嬢のアイリに連れられて、街の衣服店を訪れる。

 採寸して服を作ると高い為、ある程度背格好が同じであれば着用可能な汎用性が高い服とズボン、下着二組を購入する。

 アイリから動きやすいスカートもあると言われたのだが、スカートを着用するメリットが無かったのでズボンを購入した。

 しかし、買い物に同行してくれているアイリの顔を立てる為に、動きやすいと言われるスカートを着用してみるが、ズボンに比べると、やはり動き辛い。

 リゼの表情を見たアイリは自分の発言が無理強いをさせていたのだと気が付き、スカートの購入を見送る。

 申し訳なさそうにするリゼを見ながら、アイリは複雑な心境だった。

 リゼの職業が不明だったので、魔法系職業でも戦闘系職業のどちらでも無難な服装を提案したからだ。

 ここ数日のうちに、リゼも職業を選択しなければならない。


「私こそ、ゴメンね。気にしなくて良いからね」

「はい、有り難う御座います」


 リゼは、アイリに頭を下げる。


 衣服店を出て、靴屋にも向かう。

 リゼは動きやすさと丈夫さを重視しながらも、服同様にアイリの意見にも耳を傾けて、靴を選んだ。

 今着ていた衣服や靴等は、生地に良い物を使用されていた為、それぞれの店で買い取って貰えたので、出費も抑える事が出来た。


「アイリさん。買い物に付き合って頂いて、有難う御座いました。とても助かりました」


 リゼはアイリに礼を言う。


「リゼちゃんは、もう少し子供っぽくした方が良いと思うけどな」

「……十歳になれば成人と同じ扱いです。いつまでも子供気分では、冒険者は務まりません」


 この世界では、スキルを授かる事は成人になった事を意味する。

 リゼの言葉は、冒険者として生きていく事の決意でもあった。


「確かに、そうだけどね。あっ、忘れないうちに渡しておくね」


 そう言うと、アイリはリゼに残った銀貨と銅貨を渡す。


「あの、アイリさん」

「何?」

「これで、御飯でも食べませんか?」

「……デートの誘い?」

「いいえ、今日のお礼です」


 アイリの冗談を、リゼは軽く受け流す。

 受け流されたアイリは、少し寂しそうな表情だ。


「リゼちゃん。気持ちは有難いけど、貴女は無駄なお金を使っちゃ駄目よ!」


 リゼは無駄遣いが出来ない事は、重々理解している。

 しかし、御礼はきちんとするべきだと思っている。

 アイリは「リゼの気持ちは嬉しい」と伝える。


「まぁ、リゼちゃんがランクBになったら、私を受付嬢に指名してくれれば良いわよ」

「はい。必ず、アイリさんを指名します」

「約束ね」


 ギルドの受付嬢は、クエストの達成報酬の一部から給金を貰っている。

 ランクDやランクCは、達成報酬が少ないので報酬は無い。

 人気受付嬢だと、ランクBの冒険者よりも稼いでいる事もあるので、人気冒険者の引抜き等、受付嬢同士でも争いが耐えない。

 受付嬢は、オーリスのギルド会館で七人在籍している。

 一人は受付長で、受付を仕切っている為、受付嬢は六人になる。

 その中でアイリの順位は、今月三位になる。

 オーリスの受付嬢で頂点に君臨するのは、レベッカだ。

 アイリから見ても容姿端麗で、冒険者にも細かな気遣いが出来る。

 それでいて性格も良く、非の打ち所が無い。

 アイリの事を親友と呼び、仲良く接してくれている。

 順位にあまり興味の無いアイリは、自分の出来る範囲で冒険者と接している。

 綺麗なレベッカと、愛嬌のあるアイリというのが、オーリスの冒険者達が思う彼女達の評価だろう。

 幸いな事にオーリスでは受付嬢は六人とも仲が良く、他の地域のように冒険者の引き抜き等の問題は発生していない。

 順位もレベッカ以外の二位から六位は、大きな差が無い。

 月によって、順位の変動は頻繁に起きる。

 アイリが最下位になる月だって普通にある。

 レベッカが常に一位なのは、面倒を見ていたランクBに優秀な冒険者が数人居た為だ。

 リゼのような孤児部屋行きの冒険者は、将来が期待出来ないので親身になってくれる受付嬢は少ない。

 アイリのような受付嬢は、希少な存在だ。

 偶然とはいえ、リゼはアイリと出会えた事に感謝するべきだが、リゼ自身は受付嬢の裏事情を知らないので、受付嬢は皆が優しいと思っていた。



 買い物から戻って来たリゼは、寝床で横になる。

 天井を見ながら、自分のステータスを確認する。

 スキル”クエスト”の表示を押すと、達成率というものがあり、”零”のままだ。

 今日だけでもノーマルクエストを二つに、ユニーククエストを一つ達成している。

 リゼは、この達成率が示す意味が分からずにいた。

 そもそも、ノーマルクエストや、ユニーククエストが出現する条件さえも分かっていない。

 今日は、たまたま全て達成出来たが、未達成の場合に罰則が発生するのかと思うと、リゼは怖くなった。

 父親から「スキルは自分の力を高めてくれる素晴らしいもの」だと教えられていた。

 しかし、リゼは自分のスキルに疑問しか抱かない。


「まずは、ランクCに上がる」


 リゼは、そう自分に言い聞かせて、ステータスを閉じて眠りに入った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 リゼは、窓からの日差しで目を覚ます。

 顔を洗うと、『ユニーククエスト発生』と目の前に画面が出る。

 リゼはステータスを開いて、『クエスト』の表示を押すと『ユニーククエスト:一』『ユニーククエスト:二』と表示される。

 『ユニーククエスト:一』の表示を押すと、昨日同様に『ユニーククエストを受注しますか?』と表示されて、その下に『はい』『いいえ』の表示がされるので、リゼは迷わず『はい』を押す。

 画面が『達成条件:腹筋三十回』『期間:一時間』と変わると、リゼはすぐに床に寝転がり、腹筋を始める。

 時間を気にしながら、腹筋を三十回達成する。

『ユニーククエスト達成』と、『報酬(万能能力値:一増加)』と表示された。

 リゼは朝から、腹筋三十回はキツイと思いながらも、出来る限りユニーククエストは、昼前後に行う事を決めた。

 一階が騒がしい事に気が付き、リゼは一階に下りる。


 一階では受付嬢達が忙しそうに、新しいクエストの整理をしていた。

 新しいクエストの貼り出しは、昼前になる。

 一番冒険者達が集まる時間でもある。

 我こそが先にと、条件の良いクエストを受注する為だ。


 リゼは仕事の邪魔をしては悪いと思っていると、リゼを見つけたアイリが「おはよう」とリゼに挨拶をする。


「おはようございます」


 リゼは、アイリに笑顔で答える。 


「少し散歩をしてきます」

「はい、いってらっしゃい」


 アイリの元気な声で送り出された。


 リゼは、街を見ていると突如『デイリークエスト発生』と画面が現れるので、考える事なくデイリークエストを受注する。

 表示には『達成条件:一キロの歩行』『期限:二十四時間』とある。

 一キロであれば、街を散策していればすぐだと思いながら、リゼは街を見て回る。

 あっという間に『デイリークエスト達成』と、『報酬(万能能力値:一増加)』と表示された。

 デイリークエストは、ユニーククエストのように常に残り時間が表示されない。

 クエスト名から考えても一日が二十四時間なので、その日のうちに達成しないといけないクエストだと、リゼは理解した。

 オーリスの入出門まで来ると、クエスト帰りの冒険者一行と遭遇する。

 傷付き仲間に支えながら、辛うじて歩いてる。

 支えている者も、体から出血している。

 リゼは、いつか自分もこういう状況になるのだと思いながら、傷付いた冒険者達を見ていた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:二十二』

 『魔力:二十』

 『力:八』

 『防御:十四』

 『魔法力:五』

 『魔力耐性:十二』

 『敏捷:十一』

 『回避:十二』

 『魅力:十四』

 『運:十一』

 『万能能力値:七』(二増加)

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