第10話 異変
「アル!……おい、アル!」
アルフィーは体を揺さぶれ現実に意識が戻ると、心配そうに自分を見詰めるユーマの姿が目に入った。
事の発端と思われる老婆は既に警備兵に連れ去られておりその場にいなかった。
「だ、大丈夫……大丈夫だよ」
言葉をつっかえながらも心配させまいと取り繕うが、ユーマはアルフィーの意識が戻るや否や、一瞬だけ恐怖や驚きとも取れる表情を浮かべたように思えた。
「本当に大丈夫か?」
「ああ、大丈夫……ほんとに大丈夫。大丈夫……大丈夫」
段々と声が小さくなり呟くように大丈夫と連呼する様は虚勢を張ってることを物語っているが、敵はすぐそこまで来ており時間が差し迫っている。
ユーマは半ば放心状態のアルフィーを立たせて列に並ばせ、様子を見に駆けてきた上官には問題ないと報告した。
隊列が再び行進を始めるとユーマが再びアルフィーに声をかける。
「しっかりしろ、アル!これから俺達は戦場に向かってるんだ!何があったかは知らないがその状態のままだと命取りになるぞ!今はとにかく切り替えろ……話は後で聞いてやるから」
「ああ、ありがとう」とアルフィーはこちらを見ずに一言だけ話すと、あとはただ前だけを向いていた。
ユーマは何か話しかけようとするが、かける言葉が見つからず黙るしかなかった。
ユーマもこれ以上なにかを言うのは諦めて、これから向かう戦いに意識を集中することにした。
前方遠くから金属製の軍靴の音──魔導兵の装備は革製のブーツである──が響き渡ってきたからだ。
アルフィー達がいる隊列の前方。
チラリとだけアルフィー達の方に目をやる男がいた。
先程起きた騒動の様子を見に来た上等兵だ。
視線を戻すと一人の部下を呼び囁くように命令を下す。
「総督に伝令。例の監視対象、不測の事態により術が解けた模様。離反・逃亡の可能性あり。よって拘束及び再修正部隊の編成求む。と」
部下は命令を聞き終えるとコクリと頷き隊列から外れ、路地裏の闇に消えた。
隊は間もなく配置先である城門前に到着するところであった。
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