事件前日――④
ゲイル・ロンバート様
突然お手紙を差し上げる無礼をお許しください。私はリッチーのアンビア、エフライム王国から指名手配を受けている者でございます。
怪しげな手紙だと思わず、どうか最後までお読みください。
私は現在、ティアミナの森で、魔王と二人で暮らしています。その経緯は、インプのリムからお聞きになったかと存じます。魔王が【蘇生】スキルで二度目の生を得てから、二年の時が過ぎました。彼の魔力は衰え、死期が目前まで迫っています。
魔王は以前より、あなたに会うことを強く望んでいました。しかし、種々の理由からそれを断念していたのです。心に未練を抱えたまま、彼は死ぬつもりなのでしょう。
ですが、私は彼の願いを叶えてあげたい。失礼を承知で申し上げます。どうか、余命いくばくもない魔王に会ってはいただけないでしょうか。
このような手紙一枚で、あなたの信用を得られるとは考えておりません。私は終戦直前に姿をくらまし、今なお逃げ続けている犯罪者。言葉巧みにあなたを森まで誘い出し、罠にはめる魂胆だと疑われても仕方のない身分です。
長い年月をかけて信頼関係を築くことができれば良いのですが、時間はあまり残されていません。だから私も覚悟を決めました。明日、王都バームにて。私は自分の言葉に偽りがないことを証明します。欺瞞が入りこむ余地のない、明確な行動によって。
明日は必ず王都にいてください。あなたの元に、リッチーのアンビアに関する知らせが届くはずです。それで私を信じてくださるのなら、私と直接会い、話を聞いてください。どうかお願いいたします。
ゲイルは読み終えた手紙をテーブルに置いた。
「とりとめのない頼みだな」それが率直な感想だった。「この手紙には大事な情報がいくつか欠落している。魔王は俺に会いたいそうだが、その理由は一切書かれていない。明日のアンビアの行動についても、具体的な内容には触れずじまいだ」厳しい口調で、向かいに座るリムに問い詰める。「それともお前が説明してくれるのか?」
「オイラの口からは言えねえ」声を震わせながらも、断固とした言葉で拒絶する。
「俺はこの手紙が安っぽい悪戯だと考えている」現物を指先でコンコンと叩く。「戦争で悪名が広まったせいか、魔物に恨まれることも多くてな。この手の嫌がらせはお前が初めてじゃない」
「オイラは字なんて書けねえよ。その手紙はアンビア様の直筆だ。嘘じゃねえ」
無言でリムを凝視するゲイル。椅子の上で縮こまる小鬼は、視線から逃げるように顔を背けた。これ以上の追及は無駄なようだ。
「帰ってくれ」ゲイルは言った。「明日も仕事があるんでな」
嘘だった。だが、非番であることを律儀に教えてやる義理もない。ゲイルの言葉に従い、リムは黙って家から出て行った。繰り返される悪戯に辟易しながら、ゲイルは蝋燭を吹き消して、眠りについた。
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