ナポリタンって日本発なんだよね

 白木さんと別れて、徒歩で帰宅途中に俺はいろいろ考えこんでいた。

 黄昏時は、思考の世界と現実の境目すらもあいまいになる。


 …………


 どうするかな。

 ぶっちゃけ、復讐すると言っても何をすればいいのかわからない。


 ただ、俺はね。

 俺や白木さんを不幸にしておいて、佳世や池谷がのうのうと幸せを堪能している状態が気に入らないんだよね。

 せめてさっき流した涙の分だけでも、あいつら二人を泣かせてやりたい。


 まあ、そのためには何をすればいいのかは、まったくわからないんだけど。

 復讐のために悪魔に魂を売る、なんて腹をくくればまた別かもしれないけどさ。


 うーん……一番の復讐って、何だろうな。


 わからん。

 仕方ない。こんな時は、頼りになるナポリたんに相談だ。

 同じ部活だから、佳世の動向についても詳しく探れるだろうし。そのあとで、いろいろ考えてみよう。


 思考に一段落をつけると、ちょうど我が家が見えてきた。

 その隣にある家の佳世の部屋は、まだ明かりがついていない。


 ──今も、池谷と乳繰り合っているんかな。


「くそっ!」


 バコン。

 俺は思わず我が家のブロック塀を拳で殴ってしまった。


 当たり前のように、血が出た。



 ―・―・―・―・―・―・―



 帰宅の挨拶もそこそこに玄関を過ぎると、妹はまだ帰宅してなかった。晩飯までも少し時間があるようだ。

 俺はさっそくナポリたんとコンタクトを取ろうと、まっすぐ自室へと向かう。


 部屋に入り、鞄を放り投げ、部屋着に着替えて、ベッドへドスンと座りつつ、スマホを操作する。さっき壁を殴ったせいで指が痛い。


「助けて、ナポリたーん!」


 痛みをこらえメッセージを送ると、速攻で既読がついた。


『祐介ぇー! おまえは、いいかげん【ナポリたん】と呼ぶのをやめろ!』


「じゃあおばさん」


『殴られたいか? 殴られたいのか? このドMが』


「いいじゃん。ナポリたんってかわいい響きだし」


『どこがかわいいんだバカモノ! じゃあ祐介は、ウエスという名前の子がいたら、ウエスたんと呼ぶのか? スーラーという名前なら、スーラーたんと呼ぶのか? サムゲという名前の子を、サムゲたんと呼ぶのか!?』


「ここまでテンプレありがとう。けど長ぇよ」


 メッセージの相手は、小松川奈保里こまつがわなぽりという、クラスは違うが俺の高校の同級生で、佳世と同じバスケ部員で、俺の母方の叔母だ。あだ名は俺がつけた『ナポリたん』。


 笑えるだろ? 叔母が同級生なんだぜ。

 俺の父親は高校の教師なんだが、高校卒業したばかりの元教え子だった母親を即孕ませて結婚したからな。

 すると俺の祖父母が『こんなに早く一人娘が嫁いでしまって寂しい』とかで、あとを追うように子供を作ったんだと。


 ……立場的にも、高〇出産という身体的な意味でも、いろいろ即死案件かもしれない。ツッコミしたいのはわかるが、まあそういうものだと思ってくれ。

 ちなみに祖父母はまだ五十代だ。もちろん元気にしている。


 関係ないがついでに。

 俺の母親の名前は美良乃みらのという。祖父母がイタリア料理店を経営しているから、イタリアの都市名から取ったらしい。


『で、用件はなんだ?』


 デフォルトの挨拶が終わり、ようやく本題。

 俺はストレートに切り出す。血縁者に遠慮はいらん。


「単刀直入に聞きたい。最近の佳世の様子なんだけど」


 俺の用件をメッセージすると、既読がついてもなかなか返信はこない。

 ナポリたんも気づいているようで。


 待つこと数分、ようやくメッセージが返ってきた。


『まず尋ねたい。祐介の今の気持ちは、どうなんだ?』


 今度は俺が返信できない。

 数分悩んで、質問に質問で返すことにした。


「どこまで知ってるの?」


『やっぱりか。まだ確証はなかったが。安心しろ、バスケ部内でもおそらくボクしか気づいてないと思う』


 この返事で、ナポリたんの味方引き込みが確定した。

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