蟲
やけに体が重い。昔、未だガキだったころ、めちゃくちゃ必死に走っても一歩も前に進まない夢とか見たけど、そんな感じ。でもこれは、恐ろしいことに現実だ。現実の俺は一秒一秒年を取っているし、見たくもない現実は見たくもないし、相変わらず怖いと思っている。
それでも俺は、走るしかなかった。
俺はそのまま一階に逃走した。
「何をしている……」三階の窓から海藤は俺を見て歯ぎしりしたが、俺を追ってはこなかった。
「お疲れです」校門の裏手にバイクがあった。エンジンがかかっている。そこにまたがっているのは筋肉隆々の男、須藤だ。
「今野さん、どうぞ」俺は須藤が言い終わらないうちにバイクにまたがる。
「おそらくあの居酒屋だ」
俺たちはあの居酒屋を目指した。俺の友人がやっているあの場所に。
「よっと、今野、どうした開店前によお?」友人はのんきに言った。
「悪い、屋上までの鍵、もっていないかい?」
「なんでだよ?」
「緊急事態なんだ」俺は須藤にアイコンタクトした。須藤がムキムキの筋肉を見せつけた。
「わかったよ。でも今回だけだぞ。ったく、なんだ?今日は花火大会でもあるのか?」
「緊急事態なんだってば」
俺は屋上の鍵を開ける。思った通りだ。バカでかいコンテナがそこにあった。
「わざわざ大学じゃなくてこっちに作るかねえ」
俺はそのコンテナの鍵を、ペンチと安全ピンで開ける。中にはバカでかいパソコンが入っていた。
「でかすぎるよ」
俺は、コンテナの中で火をつけた。
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