構ってほしい

超特大パフェを食べ尽くした後も、セルゲイと安和アンナはホテル内のショップを巡り、一緒の時間を過ごした。


そこでもセルゲイは、安和の言葉に耳を傾け、決して蔑ろにしなかった。その一方で、彼女が望んでもいないのにあれこれと買い与えるような形でご機嫌をとることもしなかった。


安易にモノで機嫌を取ろうとするのは、それはむしろ相手を軽んじていると考えることもできるだろう。


『取り敢えずモノで釣っておけばこっちの言いなりになってくれるだろう、思い通りに動いてくれるだろう』


という<下心>がそこにはあるだろうから。


セルゲイもミハエルもアオもそれを知っている。知っているから安易に玩具おもちゃやお菓子を買い与えてご機嫌を取って自分に従わせようとはしない。


そのような方法で簡単に済まそうとするのではなく、きちんと彼女の言葉に耳を傾け、常に意識し、気を配り、彼女の存在を認めていると態度で示した。


玩具おもちゃやお菓子、まあ安和はすでに十二歳であり<レディ>としての片鱗も見せているのでこの場合はジュエリーやアクセサリーといった宝飾品も含めてだけれど、そういったものを適当に買い与えることで彼女の機嫌を取ろうとしない。


また安和の方も、それこそ、実年齢で一歳や二歳の頃からミハエルやアオが、彼女が話しかけるのを面倒臭がって玩具おもちゃやお菓子を買い与えることで気を逸らすという方法を取らなかったゆえに、何でもかんでもすぐに買ってもらえるものという認識がなかった。


ミハエルもアオも、まずは彼女の言葉に耳を傾けた。彼女が構ってほしそうにすれば面倒臭がらずしっかりと相手をした。だから彼女には自分の存在が両親から間違いなく認められているという実感があり、そのおかげでモノで自分を慰める必要もなかった。


確かに、子供が『構ってほしい』と話しかけたりするのは面倒だろう。その相手をするのは手間だろう。けれど、その手間を惜しんで無視したり安易に玩具おもちゃやお菓子で気を逸らすという手段に頼っていると、その<ツケ>はやがて大人に返ってくる。


これもまた、れっきとした<因果応報>だと言える。


それが分かっているからミハエルもアオもその手間を惜しまなかった。手間を惜しまなかった結果が、今の安和であり悠里ユーリだった。


「あ、これ、可愛い♡」


イルカをモチーフにしたブローチを見付けた安和が声を上げる。


「これ、ママにプレゼントしたら喜んでくれるかな!?」


「かもしれないね」


自分が欲しがるのではなくまず母親へのプレゼントにどうかと訊いてくる彼女に、セルゲイは目を細めていたのだった。


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