ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)

京衛武百十

第一幕

僕は君と共にいるよ……

「私も何とか頑張ってはみたけど、さすがにもうここまでみたいだね……


ごめん、ミハエル……」


何と百歳を過ぎるまで現役の作家として筆を振るってきた<蒼井霧雨あおいきりさめ>は、百十歳の誕生日を迎えてすぐ、ベッドに横になったまま呟くように言った。その声にはなるほど力もない。


人間としては例外とも言える百十歳まで生きたのだから、それだけでもすごいことなのだろうけれど。


そんな蒼井霧雨に、さわやかなそよ風のような声が掛けられる。


「ううん…いいんだよ、アオ。アオは十分以上に頑張ってくれた。こんな僕に八十年以上付き合ってくれた。


僕は八十年以上も、アオの愛に包まれてこれたんだ。むしろ感謝しかないよ……」


そこにいたのは、歳の頃なら十七~八くらいかという、<神秘>そのものを纏ったかのような美麗な少年だった。


さらさらとしたプラチナブロンドの髪。深い時を見詰めているかのごとき碧眼。宝石のような白い肌。


この二人が<夫婦>だと言ってすぐに信じられる人間はそうはいないだろう。


実際に法律上は夫婦ではないものの、八十年以上の時間、心が繋がっていたのなら、それは並みの夫婦以上に夫婦なのかもしれない。


そして、二人と共にいた者達。二人の、子、孫、ひ孫、玄孫達は、互いに顔を見合わせて頷き、部屋を出て行った。最後の時間を供するために。


「…ありがとう…ミハエル……


私は……幸せだよ……」


呟くように蒼井霧雨が、アオがそう言うと、彼女は眠りに落ちるように穏やかに息を引き取ったのだった。


享年、百十歳。


夫、ミハエルを愛し抜いた一人の女性の人生が終わりを告げた。


それをミハエルが見届ける。人間よりもはるかに長い時間を生きる、<吸血鬼>として。




「おやすみ…アオ……


君がどこにいても、僕は君と共にいるよ……」




これは、深い愛で繋がれた、見目麗しい吸血鬼<ミハエル>と、そんな彼を生涯<人間>として愛し抜いた蒼井霧雨との、ときめきに満ちた(?)日常の物語である。


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