第49話 パシリ条約

俺は、玉入れを終えて一ノ瀬と話をしたあと、クラスメイトたちが待機する場所から少し離れたところへ向かうことにした。


俺がいても特に意味ないし、俺からすれば誰もいないところの方が気が楽になるし。


さらに言えば、俺がクラスの待機場所から離れても誰も気づかないだろう。


それぐらい俺は壊滅的に存在感がない。


俺は行くあてもないので、トイレに行くことにした。


そして、その道中にどこかないか探る作戦だ。


道中探してはみたものの、どこも人がいっぱいで、この学校は今インキャが滞在できる場所がない。


俺はグランドにいることを諦め、グランドからは離れることにした。


しかし、焦ることはない。俺はその完璧に適している場所を知っている。


その場所はグランドから徒歩1分で着くことができ、こんな体育祭の時には誰も現れたりしない。


その場所とは、声命館といい、普段は軽音楽部の活動場所となっている。


そして、この場所は部活以外で人が通るのをみたことがない。


よって、1人で過ごしたい人には天国のような場所なのだ。


俺は声命館に向かっていく。


このいつもの静けさ。


最高だ。


声命館についたが、予想通り誰もいなかった。


「おぉ、我が楽園よ」


つい口から出てしまった。まぁ、こんなところで叫んだとしても誰も出てくるわけがない……と!思ってたんですが……、なんだか声命館の裏からギャルみたいな奴らが出てきているんですが?!


いや、ギャルみたいじゃなくて、完全にギャルだな。


髪の毛は全員で虹を作ってるのかとつっこみたくなるぐらいカラフルだし。


一応説明しておくと、この学校の校則で頭髪について全く書かれていないので、このギャルも校則違反だというわけではない。


「おーい!ちょっとそこのお前!逃げんじゃねーよ」


どうやら少しずつ後ずさりをしていることがバレていたらしい。


もうどうすることもできない。


これから俺はどうすればいいんだ?


これからカツアゲでもされるのか?


俺は緊張なのか単に暑さのせいなのかはわからないが、体から汗が垂れてきた。


ギャルの奴らが少しずつ近づいてくる……。


俺は、後ずさり作戦も不発に終わり、もう手がない。


どうにかこの場面から脱出する方法を考えてはいるものの、こういう時に限って全く思いつかない。


どうする……、おもいっきり全力で逃げるか?


いや、少し走れるようになったからといって、ギャルを相手にして逃げきれるとは思えない。


ギャルって意外と運動できたりするんだよ。


どうすれば……どうすれば……


気づけばギャルたちは俺のことを囲んでいた。


「ねぇ、君誰?私たちになんかよう?」


戦隊ものでは真ん中に立つ赤髪の女が話しかけてきた。


「いや、少し寄り道をしていまして……、そしてここについたといいますか……」


こんな時に高姿勢でものを言ったら、殺されるかもしれないので低姿勢を意識して話す。


「いや、寄り道して来るようなところじゃないでしょ」


ですよねー!自分でも言いながら『そんなわけねーだろ』ってつっこんでました。


「ねぇ何年……って、君……森木くん?」


「えっ、」


えっ、なんで君みたいなギャルが俺のこと知ってんの?怖いんですけど……。


もしかして、クソインキャでパシるために狙われたとか?


考えるだけで恐ろしいわ。


「いや、一応私あんたと同じクラスだし……、後ろの方でずっと本とか読んでる子でしょ?」


まさかそこまで知られていたとは……。


まぁ、たしかに授業中とか前の方に髪の毛が燃えてるような奴がいたような気がする。


「そ、そうだけど……」


「やった、当たったー!あ、私は村瀬。よろしくね」


えっ?よろしくとはどういうことでしょうか?


『これから私たちのパシリとしてよろしく』ということでしょうか?


俺が応答に困っていたら、彼女は俺の手を取り、無理やり握手を交わされた。


「えっ?」


思わず口から驚きの声が出た。


当たり前だろ。女子の手なんて触ったの小学生の時以来だぞ。


このときの感想を言あとすれば、村瀬の手はプニプニしている。


とてもギャルとは言えない可愛らしい手だ。


5秒ほど握手して村瀬は俺の手を解放した。


「これからは私たちのパシリとしてよろしくね」


「えっ?パシリ?毎日ですか?」


やはりパシリかい!


「まぁ、私もそこまで鬼じゃないし、どれくらいならいける?まぁ、することと言っても放課後私たちについてきたりするだけで学校ではほとんど絡まないから」


なんて優しいパシリだ。


俺の想像してたパシリって毎日昼休みになったら焼きそばパンと牛乳を渡しに行ったりするのかと思ってた。


逆にこれって本当にパシリなのか……。


でも、それなら変に機嫌が悪くなったりしてめんどくさくなる前に手を打っておいたほうがいいんじゃないか?


きっとそうするべきだ。


最後はどれだけするかだ。


「それって、週2ぐらいでもいけますか?それぐらいならいけると思うんですけど……」


「まじで!やったー!全然週2でいいよ!それじゃあ日程とか連絡するからライン交換しようよ」


「それは別にいいですけど……」


こうして俺はここにいる戦隊ギャルズ5人とラインの交換をし、パシリ条約を締結した。


そして、祝すことができた。


俺のラインに出てくる友達が、10人になりましたー!


いや、高校に入るまではこんなことを考えたこともなかった。


2、3人アニメ好きな男子友達ができるとは予想していたものの、結果は正反対。


男子友達は1人もできていないものの、女子の友達が7人もできた。(まぁ、ただラインを交換しただけだが)


ラインを交換して少し話をしようとした時だった。


村瀬は少し驚いたように言った。


「あ、明美さんだ。森木くんは早くどっかに行った方がいいよ、明美さんに絡まれたら面倒だから。これからよろしくね。また連絡するから」


「あ、はい」


明美とはまた番長みたいな名前してるな。ギャルのこいつらがめんどくさいというのだから相当ヤバい奴らなんだろう。


ここは早く帰らせてもらおう。


俺はさっとグランドへ帰る。


それにしても村瀬とかギャルズって意外と優しいやつらなんじゃね?


グランドに帰ると一ノ瀬が俺を少し荒く手招きしている。俺は一ノ瀬の元へ。


「どこ行ってたの?まっひーの借り物競走始まっちゃうよ」


「悪い、まぁ、ちょっとトイレに……」


「トイレって……、流石に長すぎでしょ。つくならもう少しましな嘘つけばいいのに」


「す、すいません……」

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