22話 本能

本能(1)

 春日井と打ち解けてしまえばあとは簡単だった。ソウタくん――ハルカちゃんのお兄ちゃん――はフラワーに来る男の子たちの中にほどなく馴染んだ。

 たまに顔を出す他の小学校のメンバーとも仲良くなり、それをきっかけに子どもたちの輪が広がったようだった。


「もともとリーダータイプの子なんだろうな」

 園美さんが分析する。

「その分、自分の思う通りにならないとイライラしちゃうの。周りと自分の思いとの折り合いがつくようになれば、ものすごく力を発揮できるんじゃないかな」


 なるほど、と由香奈は思った。実際、子どもたちの様子を見ていればいろいろな気質の子がいることがわかる。当たり前だけど、みんながみんな同じわけじゃない。同じ対応がうまくいくとも限らない。

「春日井くんのは、本能だろうね。直感で、相手が本当にしてもらいたいことがわかっちゃうんじゃないかな」


 してもらいたいこと。反芻し、由香奈は耳が熱くなるのを感じる。園美さんがにやにやしているのが目に入ったけど、精一杯知らんふりしておいた。





 規則的だけど不健康で内に籠りがちだった以前の生活から、今はクレアや園美さんたちのおかげで、社交的で目的のある毎日を送れている。楽しい、とも感じる。そんな気持ちの緩みを突かれるように朝、エレベーターで松田とかち合った。


「元気そうだね」

 四階から乗り込んできた彼は挨拶のようにつぶやき、由香奈に迫った。壁に追い詰められて顎を掴まれる。声をあげる前に乱暴にくちびるを奪われる。あっさり侵入されたことに羞恥して抗ってみても、うごめく舌が立てる音がいやらしさを増すだけだった。


 多分、この数か月で最も多く接した唾液の匂い。コトの始まりから終わりまで叩き込まれたからだが反応する。気持ちイイことをたくさんされた。気持ちイイことは嫌いじゃない。気持ちイイことが好き。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る