ハグ(3)

 男の子ってあんなに激しいのだと由香奈も背中が縮んでしまった。背が伸びて体つきもしっかりしてきて力もついて、そんな自分を持て余しているのかもしれない。四方八方に敵意だけを巻き散らかして。


 日曜日、クレアは学校の課題で忙しいからフラワーには行けないと言っていた。由香奈は午前中でバイトをあがって賄の昼食を貰った後、夜までフラワーですごすつもりで店へと向かった。


 ランチタイムで数組のお客さんが食事をしている店内の隅っこで、ハルカちゃんのお兄ちゃんがひとりで漫画を読んでいた。

 由香奈は内心びくびくしながら、本棚の脇に座って壁に寄りかかっている彼に近づいた。あっち行けって言われるかな。冷や冷やしながら話しかける。


「あの、今日も、来てくれたんだね……」

 むすっとした表情で彼はちらっと由香奈を見上げた。

「これの続き読みたかったから」

「そうなんだ……」

 会話が終わってしまって困ったけれど、由香奈はそのまま彼の隣に蹲った。どうしよう、彼に春日井とキャッチボールをしてもらいたいのだけど、なんて言えばいいのだろう。


 暖房が利いた店内でコートも脱がずに由香奈が変な汗を浮かべていると、ハルカちゃんのお兄ちゃんはじとっと横目に由香奈を見た。

「なんか用?」

「えと、あの……」

「何怖がってんの? オレがゆかなんイジメてるみたいじゃん」


 唇をとんがらせるその頬は、なめらかで柔らかそうで、まだまだ幼い子どものそれだ。あだ名で呼ばれたことにも安堵して、由香奈は少し緊張を解く。

「あのね。天気が良いから、外で遊んだほうが……」

「すっげえ曇ってるけど」

「え……」

 すげなく返しておきながら、彼は漫画本を閉じて立ち上がった。


「ずっと座ってたから、運動するかな」

「う、うん。そうだよ……」

 すーっとハルカちゃんのお兄ちゃんは店を出ていってしまう。自分はどうしようかとしばらく由香奈は迷う。厨房のカウンターへと目を向けると、園美さんがひらひら手を振っていた。それに背中を押されて立ち上がる。

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