檻(4)

「でももう、拒まないよね。俺も、もう、由香奈ちゃんじゃないとダメなんだ」

 どういう意味? 考える間もなく肩に手をかけ体を返される。覆いかぶさる彼の顔をまともに見上げる。表情はよくわからないのに仄暗く目が据わっている。


 怖いと思うのに、くちびるをふさがれて侵入されると、からだは反応しだした。乳房をまさぐられながら由香奈はもう癖のように膝を立てる。さっきのやりとりで血の気が引いて凍るように怯えているのに、からだは勝手に熱くなる。


「ふ……」

 苦しくて息をもらす。なのに執拗なキスは終わらない。柔らかく乳房を揉み上げ、背中や足を撫でる手つきはあくまで優しい。由香奈が悦ぶ触り方をすっかり知られているのだから。


 肝心の場所は攻められず時間だけをかけられて、由香奈は我慢できずに男の首に腕を回してキスの合間につぶやいた。

「もう……」

 胸が苦しくて切ない。このままじゃどうにもならない。はしたなく腰が揺れるのも止められない。ぐずぐずになって甘えるようにしがみつくと、もう焦らされることはなかった。


 もどかしく下着を下ろし、いつものようにやんわりと指が滑る。大好きな触り方。由香奈は小刻みに震えて相手の首元で吐息をかみ殺す。軽くイッただけなのに息が上がる。苦しい。


(だめ……)

 声もなく脱力して、由香奈は腕を投げ出しシーツに倒れる。力を入れてこらえたいのにからだが言うことを聞かない。

 ぼんやりと彷徨う視界にときおり、男の視線を感じる。でももう何も反応できない。頭が真っ白で手のひらはしびれたみたいに指が動かない。ふわふわと浮遊感だけに包まれて上にも下にも行けない。気持ちいいのに苦しい。


 くちびるが震えて浅い呼吸を繰り返しているのがわかる。苦しい、苦しい。でもどうなりたいかがわからない。怖い。訳もわからず涙が零れる。

「由香奈」

 名前を呼ばれて手に指が絡まる。どうして今日はそんなに口数が多いの。思っても瞬きもできない。

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