恋(2)

 外に出ると秋風がひんやりして肌が震えた。急いで岩で囲われた湯船に足を入れる。少し熱い。ゆっくり慣らすように体を沈める。

「気持ちいいー」

「うん……」

 たっぷりのお湯に浸かって手足を延ばすと、体中から疲れが溶け出すようだ。初めてのことばかりで緊張もしていたし、その分体にも負荷がかかっていたのかもしれない。


 露天の岩風呂も広々していて、なぜか真ん中の岩の土台に桜色の石がどんとそびえていた。土産物店でクレアが見ていたローズクオーツの原石に似ている。立ちのぼる湯気に囲まれたその石を、クレアも見上げて首を傾げていた。


 ドーナツ状の湯船の向こう側へ移動すると、室内からの灯りが途切れて、夜空の光が見やすくなった。

「星なんて見るの、久しぶりかも」

「だねー」

 普段生活している街はそれほど都会というわけではないけれど、それでもここまで星空は見えない。深夜でも街灯やビルの灯りが多いから。


「行き当たりばったりだったけど、楽しいね」

「うん」

 めったに食べられないぶどうを食べて、観光地を巡って美味しい物を食べて。


 時間をかけてお湯の中でくつろぎ、喉の渇きを感じてお風呂から出ることにした。軽くバスタオルで髪を拭いた後、ミチルさんのブラを着けようとする由香奈にクレアは目を丸くする。


「お風呂あがりにそんなの着けるの?」

「だって……」

 由香奈はうまく言えずまぶたを瞬かせる。彼女の不安な気持ちを察したのか、クレアは扇風機の前に由香奈を立たせた。

「ほら、後ろやってあげる」


 風呂あがりの上気した肌には確かに窮屈だったけれど、我慢する。洗面台に備え付けのドライヤーを使って髪を乾かし、やはり備え付けの化粧水と乳液を好きなだけ使って肌を整えた後、壁のポスターで見た美容ドリンクを飲みに食堂へと移動した。


 てっきり空いていると思ったのに、畳の上に並んだ座卓テーブルは食事をしたり、新聞を広げてビールを飲んだり、寝そべってテレビを見ている人たちでそこそこ込み合っていた。

 由香奈とクレアはジュースを飲みたいだけだったので、厨房のカウンターで注文してグラスを受け取り、すぐ目の前のテーブル席に座った。


「こんな高いジュース普段だったら絶対買わないよね」

 こそっと囁くクレアにこくこく頷く。本当に今日は、なんて贅沢をしてしまったのだろう。今年いっぱいはもう引き締めなければ。


 脇のマガジンラックからクレアが選んだファッション雑誌を一緒に眺めながら、甘酸っぱいジュースを飲んだ。温泉でぽかぽかした体の体温が下がると、眠気が襲ってくる。

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