小旅行(5)
「うわあ。キレイだー。これ、セロファン? 切り絵、細かっ」
由香奈より食いついているのはクレアで、一枚一枚の前で微に入り細に入り確認するように眺めている。
「あたし時間かかりそう。先行ってていいよ」
言われて由香奈と春日井もそれぞれのペースで回った。由香奈が順路の終点である休憩スペースにたどり着くと、春日井は奥の売店でお土産のはがきやクリアファイルを見ていた。手前には自販機とテーブルと椅子が数組あり、由香奈はそのひとつに腰を下ろした。
「疲れた?」
由香奈を見つけた春日井は自販機で買ったパックのお茶をくれた。
「いえ……」
パックにストローを通してから、由香奈は売店の品物を遠目に眺める。展示品を元にしたグッズのほか、天然石の雑貨が目立つ。
「あの……」
由香奈はどう言い出すか迷いながら春日井を見る。
「あの《忘れえぬ女》のことって……」
話が途中だったこともあり、あれからずっと気になっていた。由香奈が向けた水に春日井もすぐに応じてくれる。
「ああ、うん。えーと……多分だけど、あの絵の人が叔父さんの奥さんに似てる気がするんだよね」
「奥さん……見たことないです」
「あ、うん。亡くなってるから。多分、俺が生まれる前に」
「……」
「うちの母さんが言うには、すっごい大恋愛で、すっごいラブラブで、見てるのが恥ずかしいくらいだったって」
すっごい大恋愛で、すっごいラブラブで、見てるのが恥ずかしい、が藤堂と結びつかなくて、由香奈は目をぱちぱちしてしまう。
「信じられないけど、そうだったって」
「奥さんに似てるから、あのポスターをずっと飾ってる……?」
「と思ったんだけど、それもどうかって感じだね。おかしいかな」
「おかしいかどうかはわかりませんけど」
でも、自分はあの絵が好きだ。
売店に賑やかな家族連れがやって来る。若い夫婦とベビーカーで眠っているふっくらしたほっぺたの赤ちゃん、それと一緒にやって来た小学生高学年と低学年くらいの女の子二人が、天然石の雑貨に目を停めて欲しい欲しいと連呼しだす。
「女の子って好きだよね、宝石とか」
「きれいなものはみんな好きですよ」
なんとなく笑い合う。ところで、一向にクレアが来ない。
「先に外、行ってようか? この下に滝があるんだって」
春日井に促され、由香奈は頷いて立ち上がった。
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