プロテクター(3)

 シームレスの黒いブラジャー。スポーツブラみたいにアンダーから鎖骨の下までをしっかり覆っているけれど、もっとかっちりして、そしてどことなくエレガントな雰囲気だ。

「あたしは胸、大きくないけどさ。それでも揺れたり邪魔になるのが嫌で。スポーツブラって案外ホールドが頼りないし、ラインがきれいじゃないんだよね。あたしはタイトな服が好きだからさ」


「この子のはいきすぎだけどね」

 お茶を飲んでいたミチルさんがふうっと口を開いた。

「デザイン性も何もありゃしない。補正ったってランジェリーなんだよ、一応。それをレースも刺繍も付けないで。まるでプロテクターだよ、これじゃあ」

 プロテクター……。


「なにさあ、いいじゃないか。おかげで気に入ってるんだから」

 Tシャツを戻しながらクレアは口を尖らせる。

「それはそうさ。お客様を満足させるのがプロの仕事だからね」

「私も欲しいです。これ」

 由香奈は何も考えず声を出していた。

「欲しいです。プロテクター」


 即決するような由香奈の言葉に、クレアとミチルさんは顔を見合わせる。それで由香奈は察した。

「あ……でも。高いのですよね……」

 また控えめに戻って由香奈は尋ねる。

「これと同じでいいって言うなら、サイズにもよるけど大体」

 ミチルさんはすうっと指を三本立てる。

「三万円……」


「でもね、由香奈。売り込みたいわけじゃないけどさ」

 由香奈の顔色を窺いながらクレアが話す。

「由香奈は今、市販の下着買ってるよね?」

 由香奈は頷く。いつも買うのは上下セットで千円から千二百円のものだ。

「それってせいぜい一か月でよれよれになっちゃうんじゃない? もって三か月?」

 その通りだ。


「あたしのこれ、もう三年使ってるけど。ちっとも消耗しないよ。手洗いで大事にしてるもん」

「お、ちゃんと言い付け守ってるのか」

「当たり前だよ。高い買い物だもん」

 またクレアはミチルさんに口を尖らせて見せる。ミチルさんは笑って由香奈と目を合わせた。

「きちんと手入れしてくれれば十年以上持つからね。洗い替えを合わせて三着くらいでローテーションしてくれれば、二十年はいける。もちろん、わたしが生きてる限りは修理の保証もするよ。ワイヤーが歪んだとか、穴が開いたとか」

「長い目で見るとお得なんだよ」


 押しつけにならないよう、クレアは気遣って話してくれているようだったけど、由香奈の気持ちは決まっていた。

「欲しいです。今買えるのは、一枚だけですけど」

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