異世界チート馬鹿男子達
雷鳥
第1話 思春期
異世界トリアムはイスクール王国、その首都チイチ。そこに存在する冒険者ギルド本部。その一階に併設された酒場『秋の恵み亭』その15番テーブル。
そこには周りの喧騒にそぐわぬ重苦しい雰囲気が漂っていた。
テーブルに座るのは4人の少年であった。
『戦車』の能力を持つ佐藤
『魔術師』の能力を持つ鈴木
『力』の能力を持つ高橋
『審判』の能力を持つ田中
いずれも日本で生まれ、異世界トリアムに転移してきた、強大な異能を持つ『
重苦しい沈黙。押し付け合うように交わされる視線と視線。やがて3人の視線は彼らの実質的なリーダーである勇へたどり着いた。
「 ⋯⋯分かったよ」
一つため息を吐き、息を吸い、
「すいません!キャリーさんッ!」「はぁーいッ!少々お待ち下さぁーいッ!」
キャリーとはこの酒場に勤めるウェイトレスの美女(おっとり系、巨乳)の名前であった。
間。焦れるような沈黙。ここまでで役割分担しねえ?という視線。拒否。
「お待たせしましたぁ。お伺いしまぁす」
勇は緊張した面持ちで、口を開いた。
「これ、あぁちょっと量が多いかなぁこの『焼きウェロマン』『小盛り』で貰えます?」
きっかけは楽の些細な一言だった。
「この世界にも『オマーン国際空港』みたいなのって存在するのかな」
「はぁ?あるわけねーだろぉ」と勇。
「 ⋯⋯いや、あるだろうな」と一拍置いて勉。
「 ⋯⋯なるほど、あるかもな」とさらに遅れて了。
「ん!?どういうことだ。どう見たって中世ヨーロッパなこの世界に国際空港なんて ⋯⋯」
言いかけた勇を勉が遮る。
「そうじゃない。 ⋯⋯何回か言ってみろ」
勇は素直に『オマーン国際空港』と何度か呟き、言葉の並びが卑猥になっていることに気付き、手近にあった楽の頭を叩いた。
「なんで俺!?」「アホなこと言い出したのがお前だからだよ!」
「やれやれ、辞書 ⋯⋯いや、『これ』からでも探すか?」
二人の様子に呆れつつもなんだかんだでノリのいい了が開いてあった酒場のメニューを見る。
勉がなんとなしにそれを覗き込みつつ「誰が一番早く思いつくか勝負な」などと言えばふざけ合っていた二人も、もう一つのメニューを引き寄せた。
ああでもないこうでもないそれはちょっと無理がある完成度で勝負しねえかと議論を交わしつつ最終的な結論に辿り着いた。
「『焼きウェロマン』『
発案者の了が小さく歓声を上げ、楽はまだ諦めきれないようでペラペラとメニューを捲っていた。
一区切りついて楽以外の三人は『馬鹿な時間を過ごしたなぁ』という虚無感を味わっていた。
気だるい沈黙が落ち、今まで気にならなかった周囲の喧騒が耳に入ってくる。
その瞬間である。
「お待たせしましたぁ。野鳥と季節の野菜の炒めものになりまぁす」
近くのテーブルに料理を持ってきたキャリー(おっとり系美人ウェイトレス、巨乳)の美しい声が四人の間に響き渡った。
⋯⋯沈黙の種類が一変していた。恐ろしく緊張を帯びたそれにより、それぞれは他の三人が自分と同じことを考えていることを悟った。
勇が代表して口を開く。
「そういえば『焼きウェロマン』『小盛り』はごく普通の料理のごく普通な注文であり、頼んだとしても何の問題も無いよな?」
「待て」
勉の制止。白けた目を向けかける三人だったが、額に手を当てる勉を見て瞠目する。それは勉が『魔術師』の能力の副産物である高速思考を用いる時のルーティンだったからだ。
「確かになんの下心も無い単なる料理の注文だが ⋯⋯『不幸な誤解』を産む可能性もある。ここは俺の能力でよく検討すべきだろう?」
「勉の奴 ⋯⋯マジだぜ」「ああッ ⋯⋯!」
ニヤリと笑って見せる勉だが割と最低な使い方だった。
「検討したが問題は一つ。周りのテーブルに『稀人』 ⋯⋯日本人 ⋯⋯もっと言うと日本語を母国語にしている人間が居るかだな。翻訳魔法の仕様上、それ以外にバレて、『不幸な誤解』を産む可能性は極めて低い」
頼めるかと問う勉に仕方ねぇなと頷きを返し、了は『力』の能力を発動する。『力』は発動することで使用者に超人的な身体能力を与える。超人的なチラ見、超人的な盗み聞き、超人的やましいことしていませんよアピール ⋯⋯全てが無駄にハイレベルだった。
「確認した。周りの客は全員トリアム人だな」
「よし、後は誰が注文するかだが ⋯⋯」
キャリーは歴戦のウェイトレスで、酒場の荒くれどものセクハラもやんわりと受け流し注意する剛の者であり、かつ、勉のバレる可能性は極めて低いというお墨付きがあったとしても、唐突に『うわっキモッ』と言われるかもしれないという恐怖は拭い難かった。
テーブルを沈黙が支配し ⋯⋯冒頭へ至る。
「これ、あぁちょっと量が多いかなぁこの『焼きウェロマン』『小盛り』で貰えます?」
無駄な小芝居を挟みはしたが自然な振る舞いではあった。そして一瞬の緊張。
「はぁい。『焼きウェロマン』を『小盛り』ですね」
勉は不自然なまでの無表情、楽はあからさまに落胆した様子だったが、全体としては『まぁそんなもんだよな』という雰囲気が漂う。
「一皿ですかぁ?それとも四皿?」
楽がはっとした様子で口を開く「一万個くださ痛いッ!」「一皿で」
キャリーは少し不思議そうにしていたが、言及はせず注文がそれだけであることを確認してキッチンへ注文を伝えに向かった。
「明らか不自然だろうが ⋯⋯」
了が呆れの視線を楽に向ける中で、勉が空気を変えるように言う。
「まぁ彼女が料理を持ってきたときもう1チャンスある」
「あッ!そうだぜ!」
楽が俄然元気を取り戻し、他三人も諦めきれないのかそわそわと落ち着きのない様子を見せ始めた。
各自飲み物を飲んだり、紙ナプキンを妙な形に折ったりして無言で時間を潰す中、料理を持ったキャリーが姿を見せる。
「来たッ」
「お待たせしましたぁ。『焼きウェロマン』の『小盛り』です」
「あっハイ」
当然のごとく失敗であった。
知ってたなどとため息をつきつつ四人はテーブルの中央に置かれた『焼きウェロマン』に目を向け、目が合った。
「ぎゃッ」「ぐ ⋯⋯」「げぇっ」「ごほッごほッ」
『稀人』である四人は今の今まで知らなかったが『ウェロマン』とは、つまり、簡潔に言うと、イモ虫であり、『焼きウェロマン』とは昆虫食の一種であった。
「?食べないんですかぁ?」
ちょうど注文を捌き終わったらしいキャリーが動きの止まった四人を不思議そうに見ている。
勇が恐る恐る口を開いた。
「あの、これ、返品、とかは ⋯⋯」
「……お姉さんそういう悪ふざけは感心しないなぁ」
やんわりとしながらも明確な『不許可』であった。
勉は既に受け入れた様子で天を仰ぎ、了は諦めて飲み物の残量を確認していた。
「い、痛たた腹の」「嘘ですよねぇ?」
楽の悪あがきも食い気味に切って捨てられた。
沈黙、そして笑顔ながら次第に強くなっていく圧力……。
『い、いただきます ⋯⋯』
「よろしい」
すべてを見届けたキャリーが去った後はぐったりとした馬鹿四人が残されていた。
「もう当分こういうことはやらねぇ ⋯⋯」
「だな ⋯⋯」
「ああ ⋯⋯」
「当分な ⋯⋯」
二度とやらないとは言わないあたり懲りない奴らであった。
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