第15話 復活したら、巫女ゲット!?(中)

 サテラさんから手渡されたテレビのリモコンを受け取る。

 今ひとつ訳が分からないが、とりあえず俺は電源を入れた。

 電源? の入ったテレビにはテラフが映し出された。

 テラフは画面内ギリギリにおさまる球状で見えている。

 さらにいうならば俺の世界でいうところのユーラシア大陸面が正面になっている。

 この状態がデフォなのだろうか?


「主神としての人界の管理には、こちらを使ってもらいます」 

「これって、地上の俺と相性の良い存在が確認できるってだけじゃなかったんだ」

「バカですか。あの方がそれだけのためにこのように凝ったまねをするとおもいますか?」

「あの方って――ああ、主神のことね。まあ確かに、変なところに懲りそうなタイプだったもんなぁ。あれ? もしかしてあのとき『キミが良くやっているゲームのシステムみたいにしといたからね~』って言っていたのは――これのことか?!」

「そうです。分かったならそのリモコンの左上〈地デジ〉というボタンを押しなさい」


 スチャッとザーマス眼鏡でも掛けそうな雰囲気を発して、サテラがマニュアルを開いていた。

 あれ! それいつの間に出しました!?

 ともあれ促されるままに、〈地デジ〉ボタンを押すと、画面の上部にパソコンで言うところのメニューバーが表れた。

 そこには、左から【メニュー】【検索】【守護】【開発】[エディタ]という項目がある。ちなみにポインターを[エディタ]という項目に持って行っても反転表示にならないので選択できないようだ。

 さらに、エディターに続いて、〔運営ポイント:8〕という緑色の表示があった。


「先ず【検索】を選択なさい」


 俺は素直に従って、リモコンを画面に向けてその先に現れるマウスのポインターのような矢印を【検索】合わせて〈決定〉ボタンを押した。

 すると検索対象を入力するボックスが開かれ、さらに画面下に仮想スクリーンキーボードが現れる。

 ナニ――この無駄なゲーム感。

 サテラさんじゃないが、主神、こんなことしてる暇があったんならちゃんと世界運営しとこうよ。


「そのボックスの中に、ロンダンと入力して〈決定〉を」


「……おお!?」


 言われるままに入力して〈決定〉ボタンを押すと、テラフがクルッと動いて止まり。地上へと向かって表示がフェードインして行く。


「これ、ロンダン村……あっ、あれ、長老の家だよね」


 上空から、丁度村が画面内におさまる大きさまでなったところでフェードインが止まった。

 建物は三十くらいか、ログハウスっぽい建物に混じって、ティピーのような建物がいくつかある。

 俺たちが一晩お世話になった長老の家も確認できた。


「あれ、これは?」


 村の比較的奥まったところ、一見の家がボワッと白く明滅している。


「そこはペルカの家……今はアナタの神殿でもあります」


 つまりは族長の家ってことか。


「正式な神殿ではないので、はやりまだ繋がりが弱いようですね。ですがこれを使って村を発展させてゆけば次第にアナタへの信仰も高まり、神殿も立派なものになってゆくことでしょう」


 もしかして神殿が立派になっていくと光り輝くんだろうか? それはそれで恥ずかしい気もするが……。

 そんな俺の思いは当然サテラさんには伝わるはずもなく、彼女はマニュアルを片手に解説を続ける。


「まだできることが少ないですが今は【開発】を選択、次に現れる【土地】を選びなさい」

「【開発】っと、――おお」


 画面上中央に新たなウィンドウが開いた。

 そこには、【土地】【建築】【文化】【海洋】、四つの項目があり、さらに【土地】を選択してみると、【地力】【地殻変動】【水源】などの項目の一覧が現れた。


「狼人族の問題であったアースドラゴンが滅せられた今、この先ロンダン村では人口が増えていくでしょう。ロンダン村周辺の【地力】を上げれば作物などの実りが増えます」


 そう言われて【地力】を選択すると、新たな空のボックス入力欄が現れる。


「……こうかな?」


 俺はリモコンの音量ボタンの+側をポンッと一回押してみた。

 ……やっぱり。

 ボックスの中に〈1〉と表示される。

 音量ボタンを二回三回と押していくと〈2〉〈3〉と増えてゆき、さらに押していくと〈8〉まで増えたところでそれ以上には増やせなかった。

 もしかして……メニューバーに視線を上げると〔運営ポイント:0〕となっている。


「分かったようですね。こちらは、アナタへの信仰から得られる運営ポイントによって運用することが出来るのです。私たち神々の神力は基本的に自身と地上の個人や種族などへ影響を与えるものです。しかし主神代理であるアナタには人界を管理する特別な力が与えられています。それがこの人界運営システムです」


 俺への信仰から得られるって……あれか、神力は正常な状態だったら82ほど入ったはず。ということはその十分の一が運営ポイントとして計上されているということだろうか?

 つまり、信仰から得られた神力10に対して人界の運営ポイントが1といった感じだ。


「ああ……ただしこのシステムでの人界への干渉は、ポイントを割り振ったとしてもすぐに結果が出るわけではありません。ポイントを多く割り振れば時間の短縮にはなりますが、一カ所に大量にポイントを割り振りすぎても人界のバランスが崩れますので、そのあたりを考えてポイントを割り振ってください。今はまだペルカしか巫女がおりませんが、この先アナタの信者が増えていけばヤマト。アナタの力が及ぶ場所はさらに増えてゆきます。ポイントは考えて使いなさい」

「……分かったよ」


 静かに言うサテラさんにそう答えたものの……どうしたもんだろう?

 さっきサテラさんが言ったように、【地力】は上げた方が良いよな。


「この【地殻変動】っていうのは、土地の標高を上げたり下げたり出来るのかな?」

「ええそうです。少ないポイントを割り振れば少しづつ標高が変わります。間違っても一度に大きいポイントを割り振らないように。大地震が発生しますので」


 ヤッバ、聞いておいて良かった。人界のバランスを崩すってそっちもあるのか。

 一カ所だけの文明レベルが上がりすぎたりするのが問題なのかと思ってたよ。(たぶんそれもあるんだろうけど)


 その後、もう少し詳しくサテラさんから人界運営システム話を聞いた俺は、システムを使って、ロンダン村周辺の【地力】を〈2〉上げて、【地殻変動】で地盤を〈1〉下げる方向へとポイントを振り、さらにロンダン村の近くには【水源】が無かったんで【水源】にとりあえず〈1〉を振ってみた。

 残った〈運営ポイント4〉は今回振ったポイントがどう作用するのか見極めてから使うつもりだ。


「ところで、ペルカと話でもしたらどうですか? 心配していると思いますよ。私は、少し用事がありますので、席を外しますが。話が終わったら部屋に戻りなさい。この神殿を出た目の前にヤマトの部屋がありますから」


 俺が人界運営システムを使い終えたのを確認したサテラさんが、マニュアルを閉じて小脇に抱えた。

 その姿がとても様になっているが、それでもやっぱり出来る秘書というよりは、出来る教育実習生感を感じる。


「ペルカと話すってもしかして【神託】? 良いの、そんなことに使って」


 神の力って、携帯電話ですか!?


「そうですが、なにか?」


 サテラの返事は何を当たり前のことを聞いてるんですか? って感じだ。 何だろうサテラさんの冷たい眼光と口撃こうげきがないのが逆に不安だ。

 えっ、しかしそういうモンなの? 【神託】。なんだか俺の中で神託の神秘性が携帯電話の新規加入料金並みに絶賛値引き中です。


「それでは、私は行きますので」


 俺が、【神託】のあまりの気安さにショックを受けている間に、サテラはスタスタと神殿を出て行ってしまった。

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