第13話 レベルがなくても、機転でね。
「殺ったか! くっ、なにッ!」
俺の剣を、
「……フッ…………フッフッフッ……。来たぞッ! 来たぞ遂にこの時が!! 助かったぞ小僧。お前たちが巫女の娘を連れて行ったときには、その娘の生気を我はほとんど貰っておったのだ。進化は
えっ! もしかして、ペルカが
「サテラ! ペルカを頼む!!」
「分かりました!」
「もう遅いわ!!」
突然、
うっわ~~ッ! あれ、サテラさんのヤツに似てるよ。スッゲーやな予感が。
俺は、吹き出した霧を避けるように後ろに下がった。
「ドゥラン! ヤツが、アースドラゴンの成体に進化する前に倒す! 頼む。一緒に戦ってくれ!」
「任せろ! お前よりはまともに戦える。ヤツが成体になろうと大したことはねえよ。行くぞ!!」
俺とドゥランは、同時に巨大化していく霧に対して攻撃を仕掛けた。
ビュンッ!! と言う音と供に大きな物が弾き飛ばされた。飛ばされたのはドゥランだ。
尻尾か? 灰色の尻尾が霧の中にニュルリと蛇のように戻っていった。……ヤバい。ヤツの進化は想像以上に早いようだ。
飛ばされたドゥランは運良く平らなところに落ちたようだが、気を失っているようで動く気配がない。
「フフフフッ、三〇〇年の幼生紀を経て遂にこの時がきたぞ!! 何という力だ! この力があれば我が主の為により役立てよう……。ふむ、その前に礼としてお主等を我の腹に収めてくれよう。誇りに思うが良い我が力の一部となれることをな」
「
ユックリと黒い霧が晴れ、その中から灰色のドラゴンが現れた。
まさに、ヨーロッパで想像されているようなドラゴンだ。
日本の龍のような蛇型ではない。身体の大きさも五メートルを超えている。
「いくら進化っていったって――質量的にムリがあるだろ!!」
姿を現したアースドラゴンに向けて反射的にツッコんでしまったものの、心の中では別の思いが渦巻いていた。
それは……、昨日この世界にきて主神代行を引き受けたときのことだ。
正直、この地上に降りる前までは、文明育成ゲームをプレイするような気分でいた。
でも
まあ、神や魔族、ドラゴンみたいなファンタジーな存在がいる世界であることは確かだが。
でもペルカみたいな健気な子や、ドゥランみたいな石頭。フォルムみたいに真面目で融通の利かないヤツ、そして、コイツみたいな人を食い物(この場合、心情と実質共にだが)にするヤツ。全く……本当に俺のいた世界と変わらないじゃないか。
皆、この世界で生きてるんだ。ゲームみたいに空想やデータじゃない。
……
俺、
主神の野郎は、」神の傲慢さで三度も文明を滅ぼしたらしいけど、決してそんなことをして良いわけがないし、そんな状況にしていいわけがない。
【
さっきまでとは全く別物だ。能力値がすべてサテラさんより高くなっている!? いくら人化降臨しているとはいえ、戦女神より能力値が高いとは。
これは、サテラさんの助けが必要な場面なのでは……。
「サテラ! ペルカは!?」
「大丈夫です。命は助かります! ですがいま少し時間を稼い――!? ヤマト! 避けて!!」
「オワッ!?」
ヌルッと伸びたヤツの尻尾が、俺の腹の辺りを掠めて通り過ぎる。危ない、サテラが声を掛けてくれなければ間違いなく腹を貫かれていた。
それを示すように、尻尾が掠めた部分のレザーアーマーが尻尾の鱗によって削り取られていた。
「くそッ、これでどうだ!!」
突き出された尻尾が引き戻される前に、俺は思いっきり剣を振り下ろす。
「ぐぁッ! なっ!?」
高い金属音と共に火花がはじけた。
同時に固い鉱石に剣を打ち付けでもしたような反動が――ヤバッ、手が痺れた。
俺は飛び退って体勢を立て直す。
クソッ、この状態だと次の攻撃は捌けないかも知れない……どうする。
サテラはもう少し時間が必要なようだし、ドゥランはまだ伸びている。
この状況を打開できる策を求めて俺は精神を集中する。種族スキルが【考察】だって云うんなら何か閃けよ――俺!
正面には、今はもう完全にその姿を晒した灰色のドラゴン。
それは、きっと瞬きでもする間の僅かな時間だったろう。
集中した意識はそのドラゴンに集約していくのではなく、周囲にまで広がって、大きくその場を捉えた。
あっ……あれなら、もしかして……
そう感じた瞬間、俺は手にした剣をドラゴンに向かって投げつけていた。
「ハハハハハハッ、やけになったか小僧。どこに投げておる。そのような攻撃、避けるまでもないわ」
進化した己の防御力に自信があるのだろう、身体の横を通り過ぎてゆく剣を弾くこともなく見送った。
「自信過剰ありがとう。……それが狙いだよ」
「ナニ?」
ニヤリと笑ってボソリと呟いた言葉に、ヤツが気をとられたときそれは起こった。
「ガッ!? ゴァァァァァァァァァァァァァ!」
ヤツが背後に背負った崖の壁面が大きく崩れて、その身体の上へと落ちてきたのだ。
この岩壁を掘り進められるとしても、崩れたこの巨大な岩盤の下敷きになればタダでは済まないだろう。
重力舐めんな!
「グワ! くッ、この、グワァァァァァァ!」
自分で崩して出てきた壁面、その時に出来た大きなヒビに向けて、俺は剣を投げつけたのだ。
本来の俺の腕力では絶対に無理だったろうが、能力が底上げされている今の状態ならば可能だろうと考えた瞬間身体が動いていた。
ズン。ズン。ズン。と、剥がれ落ちた岩盤が次々とアースドラゴンの上へと積み重なっていった。
……………………
………………
…………
崩落によって舞い上がった砂塵が落ち着くまでの間、俺はいつでも対応できるように気を張って降り積もった岩の山を見つめる。
……やったか?
殺ったよな?
「ふーーーーーっ。まあこれは機転の勝利ってヤツかな。サテラ、ペルカは大丈……」
そう言いながら、サテラがいる方へ向かって振り向くと、血相を変えた彼女が俺に向かって駆け寄っていた。
「エッ……」
「ヤマト!!」
グサッ! という音とともに腹に衝撃が走る。一瞬遅れて焼けるような痛みが染みてきた。
えっ? あれ?
身体から力が抜けて、俺は膝から崩れ落ちる。
……あれ? 腹がスッゲー痛い。 身体を動かそうとしても力が入らず、やっと腹を見ると俺の腹に大きな穴が開いていた。
「ハハハハハハ――バカめ! 我はアースドラゴンぞ! 地に潜むことができる我を地の力で滅することなどできぬわ!!」
いつの間にか、崩れ積もった岩山の上にヤツの姿があった。
ハハッ、油断した。
ヤツの尻尾が俺の腹を貫いたらしい。
くそッ! …………俺、死ぬのかな……。そういえば、不老だとは言ってたけど、不死だとは言ってなかったよな。
ああっ主神の野郎に死亡保険はあるのか聞いておけば良かった。もしあったら両親に少しは親孝行できたのにな。
それにしても……死ぬ時って、俺はもっと、こう見苦しく騒ぎ立てるかと思ってたけど、案外達観しちゃう
「……サテラ……ペルカとドゥランを頼む。……逃がしてやって……」
ああ……俺はやっぱり何者にもなれないんだな……意識はそこでブラックアウトした。
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