第2話 召喚ですか? 降臨です!(中)
コタツの対面に座る主神を名乗る男は(もう面倒だから主神でいいや。チャライ神の方が長くなるし)、古代ギリシャのヒマティオンと呼ばれる服(確かそんな名前だったと思う)によく似た服の襟元から、一枚の紙を取りだし俺に差し出した。
主神が差し出した紙? はどう見ても写真だ。だって主神とおなじ金髪碧眼の女性の姿がハッキリ、クッキリ映しだされていた。写実派の画家だってここまでの質感で描けないだろうと思えるほどだ。
写真? に映し出さされている女性(いや、女神か?)は、好き嫌いはべつとして、見る者すべてが究極の美と認識するだろう
「どうだい素晴らしいだろ~~、ボクのハニーさ~~。彼女が生まれてから苦節四六億年、やっとボクの気持ちを受け止めてくれてね~。しばらくのあいだ、ボクたち新婚旅行にいくからさ~。『新婚旅行』いい慣習だよね~。君らの世界を覗いていてハニーに話したらさ、ぜひやってみた言っていってくれたんだよね~」
この世界がどのくらい続いているのかは知らないが、この世界に新婚旅行という
「と言う訳で、その間この星界に代理の主神が必要なんだけどね~~。チョット世界運営に行き詰まってるからさ~、目先を変えて以前から気分転換に覗いていた隣の世界のキミ――キミにお願いしようってはなしになったのさ~~」
てっ、「さ~~」じゃねえ!!
「隣の世界って……、それ以前に人間に神様の変わりなんてできるんですか!?」
「君らの世界でも、人間から神の座に登った者の話しがあるだろ~~」
この世界のほかの神を代理にした方がいいんじゃないかという考えが俺の頭によぎる。
「奴らは、専門職だからね~~、世界運営には向かないんだよ」
また思考が読まれました。こう思考が読まれるのって、結構ストレスあるな。
「それにしたって、俺より優秀な人間はたくさんいたと思うんですが」
「この世界でもそうなんだけどね~。優秀な人間というのはどうも同じ方向にいきやすい傾向があってね~~。キミみたいに平凡な人間の方が多様性があるんだよ~。ついでにいえば、キミのその
「とりあえず、なぜ俺に白羽の矢が立ったかというのは置いておいて、『神様やってみない?』ってことは、断ることもできるんですか?」
「できるよ~~」
あっ、できるんだ。しかし、あっけらかんというな、この神。
「その場合、報酬はなくなるけどね~~」
「報酬って?」
「キミここにくる直前に、良いことあったよね~~」
主神はニコニコ顔に、人を食ったような雰囲気を
そう、そうか! そうだった、そいうことだったのか!
俺が、というか俺をふくむ俺の部屋がこの状態になる直前、俺は人生最大の幸運に恵まれていたんだった。
あまりの展開に忘れてたよ。
俺は主神との間にあるコタツの上に、改めて視線を落とした。
そこには、新聞が広げられていて、そのうえに、カラフルな絵柄の札が何枚も置かれていた。
その絵札には『年末ジャンボ宝くじ』という文字と、右端には数字が書かれている。
そして、重要なのは新聞紙にある一等の番号と、宝くじの札の番号が一致しているということだ。しかも二組もだ。
一等七億、前後賞あわせて一〇億円が二本!!
合計二〇億が当たっていたのだ。
「て、ことは、……これは」
「そういうことさ。引き受けてくれたら、ボクの代理が終わったあと、これがキミのものになる。引き受けずに帰ったら、この当たりくじはなかったことになるんだな~~、まあ、異世界に干渉するのはボクの力でもこれくらいが限界でね~~。本当はもっと報酬を与えたかったんだけどね~~」
出張先で買った宝くじが、地元で買った宝くじと同じ番号だったときには落胆したものだが、まさか異世界の神の力が働いていたとは。
「でも、ほかの世界の神様がなんで俺たちの世界に干渉できるんですか?」
「まあ、世界が違うから大きな干渉はできないんだけどね~~。キミらの世界って何故か『神様がいない』んだよね~~。と、いうわけで、キミらの世界にはボクたちが『神の障壁』と呼んでいる、世界を隔てる
俺たちの世界に神様いなかったのか……しかも、結構重要なことをいともあっさりと説明されてしまった。
「なんだか、ボクらの世界がキミらの世界に近づいたときには、もうキミらの世界の神はいなかったんだよね~~」
「最初からいなかったってことは?」
「いや~~、神と世界は一緒に生まれるモノだからね~。不思議だよね~~」
主神は、両腕を組んでうんうんという感じに頷いている。
「ということは、俺は召喚『降臨』されたんですか?」
俺が、召喚ということばを発したところに、主神が『降臨』とかぶせてきた。
「降臨。キミはこの世界に降臨したんだよ。神は、降臨するものだからね~」
実質召喚なんだろうが、神にもこだわりがあるらしい。
「どうだろう。キミがボクの代理を引き受けてくれたら、この二〇億円と、あとそうだな~~、何らかの特殊能力をキミの世界でも使えるようにして帰してあげるよ。特殊能力の付加はこの世界でできることだし、それならなんとかなりそうだしね~~」
おお、交渉もしてないのに条件が良くなったよ。あっ、でも俺の心は読まれてるから悩んでるのも見透かされてるのか。しかし特殊能力って、正直かなり魅力的だ。
残念ながら、このまま俺が死ぬまで働いたとしてもこれだけの金を稼ぐ自信はない!!
胸をはって宣言するのは情けないけどね。
「ところで、あなたの代理を引き受けるとしてどのくらいの期間なんですか?」
「あっ、なんかその気になってきた?」
主神は、嬉しそうにニンマリ笑うと(元々ニコニコ顔なので判りづらいが)、「数千年ほどお願いね~」と、まるで二、三日のような感じで言い放った。
「はぁッ!?」
「ああ、だいじょうぶ、大丈夫。そのくらいだったらキミを呼び出した時点に帰すことができるからね~~」
「いやいやいや。数千年って、いろいろと問題あるだろ!」
思わず、
それに、不老不死を取り扱った小説なんかで、人間はあまりにも長く生きると精神が耐えられなくなるという話があるし、そのばあい肉体がどうなるのか? とかいろいろあるだろう!
「だいじょうぶだって、それは、魂が
だから、「さ~~」じゃねぇ!
でも、不老ってことは歳はこのまま、そして、俺がここに呼ばれた時点にもどれる。報酬は二〇億円と特殊能力。
ゴクリッと、思わず唾を飲み込んだ。いやまて、まだ見落としてることがあるかも……。
「……もし世界運営に失敗してまずいことになったばあいは、何かペナルティがあったりは?」
「それは問題ないよ。ボクも三度ほど失敗してるからね~~」
主神は、俺の問いに間髪入れずに答えを返したが――ちょっと待て!
「それってどういうことですか!?」
「いや~~、なんか変なふうに文明が育っちゃって、ボクに喧嘩売ってきたもんだからさ~~、チョット頭にきて滅ぼしちゃったんだよね~~」
おいっ、テへペロみたいな感じで言っちゃたよこの神。いいのかそれで!?
「だから、キミは気楽に引き受けてくれればだいじょうぶだからね~~」
軽いなオイ! しかし、リスクなしってことだよね? ね? ……たぶん?
俺がグダグダとそんなことを考えて、決断を先延ばしにしていると、主神が笑みの中に何かを思い出したような雰囲気を紛れ込ませた。ちょっとニヤ~っとしたような嫌な感じだ。
「それにさ……
俺は呼吸を止め、マジマジと主神と視線を合わせる。
いつから俺を覗いてたのか知らないけど……そこまで知ってるのか。
……そうか、そうだよな。
「………………わかりました、引き受けます」
言ってしまった……。結局、俺の決断を促したのは主神の最後の一言だった。
でも、でもさ、実際こんないい条件ってないよね。拘束される時間には問題があるけど、それ以外はある意味責任がないってことみたいだし。
「うん、キミなら引き受けてもらえると思っていたよ~~。それではさっそくだけど、キミに神の力を授けよう~~」
主神は、あいかわらず軽い雰囲気のままで言うと、コタツから立ち上がり、右膝と左手をコタツの天板に付いて乗り出すように俺に近付いた。
外から見たらとても神の力を授けるという場面じゃないですよ、その格好。
主神が右手の指先をそろえると、その指先に
「心を静かにして、この力を受けいれてね~」
その指先が、俺の額に触れると、そこに一瞬、熱を感じた。その熱は、ゆっくりと波紋を広げるように俺の身体中に広がていった………………。
…………あれ? これだけですか? なんだかもの凄くアッサリなんだけど。
俺に力を授けた主神は、コタツの向こうに戻って立ち上がると、フッ。というように前髪を払う。無意味に格好いいのがなんか悔しい。
「力の受け渡しなんてそんなものだよ。さあ、これでキミも神の仲間入りだ。異世界から来た神だから
うがい薬かい!!
「自分の名前で」
主神が珍しく(というほどの付き合いがあるわけでもないが)、残念そうな表情を浮かべた。
「ヤマト神って、ひねりがなくない?」
「ふつうで、結構です!」
ガチャリ。
という音が、俺の背後から響いた。
あっ、後ろのドアはあったんだ。いまさらながら俺の後ろに壁と部屋の入り口のドアがあることが判明しました。
「あなた、まだですの? 私もう待てませんわ」
俺が、後ろを向くと、主神に見せられた絵の女性(このばあいはたぶん女神)が立っていた。
「ああ、いま終わったところだから、すぐに出掛けられるよハニー~~」
主神は、ハニー(この方なんの神なんだろう?)にいうと俺に向きなおった。
「さっきので、キミにも神の力を使うことができるようにしたからね~~。それからキミが力を使いやすいように、キミが良くやっているゲームのシステムみたいにしといたからね~。まあ、あとのことはキミの補佐をするサテラに聞いてね。じゃ、ボクたちはもう行くからね~」
主神は、コタツをよけて壁のなくなった俺の右手側をツカツカツカと歩くと、玄関に立つ女神の手をとって律儀に部屋のドアから出ていってしまった。
だが、さすがは神というべきか主神のやつ、俺の隠れ趣味を知っていた。まあ、覗いていたそうなので言わずもがなでもあるんだけど。
俺はいわゆる隠れオタクというやつで、ジャンルでいえばゲームオタクだ。いま発売されているゲーム機はすべて持っている。そのことを知っているのは学生時代からの友人だけで、職場はもちろん、たぶん家族さえ知るまい。
ゲーム機は押し入れにラックを組んで設置していたのでこちらの世界にはやってこなかったようだ。なにしろ、押し入れのあった場所はオープンセットになってるしな。
好きなゲームは、育成ものと呼ばれるジャンルで、特に世界を運営していくタイプのゲームが大好物なのだ。おなじゲームを何十回もいろいろな方向から試して攻略するなど、かなり廃な自覚がある。おかげで彼女なしだしな。
たぶんそのあたりもふくめて俺が選ばれたのだろう……悲しくないよ。
あれ? ……てっ、おい、待てや。
あまりにもスムーズに出ていってしまったので、別のことに思考が向いてしまっていた。
よくよく考えたら
俺は、急いでコタツから立ちあがり、主神を追おうと開いたままのドアに駆けよった。
「うぉッ!」
部屋から出ようとすると、堅い何かにぶち当たり、俺は後ろに座り込むように倒れることとなった。
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