第42話 女神様と平和な年越し

 年越しそばも食べたし、あとは年越しを待つだけだ。

 何気なくゴロゴロしていたらいつの間にか眠っていたようだ。目を覚ますと、すぐ近くに穂香の顔があった。


「おはよう……まだ年越してないよ。あと五分」

「あ~……眠っていたのか……ん?」


 寝る前と今の状態に大きな違いがある。こたつに入って横向きに寝転んでいたような記憶があるが、今は仰向けで、頭の下に穂香の太股がある。何度も体験しているが、市販の枕では絶対に得られない感触だな。俺をダメにする枕の筆頭で間違いないはずだ。正直、この枕にならダメにされてもいいと思う。


「なんでひざまくら?」

「ユウ君好きでしょ?ひざまくら」

「まぁ、否定はしない」

「だったらいいじゃない。私がしたくてしてるんだし。こういう事もできるし……」


 そのまま、穂香が俺の頭を撫でてきた。こんな姿は浩介達には見せられないが、これはこれで気持ちいい。気持ちが安らぐというか、落ち着くというか。

 このまま続けられていたら、また眠ってしまいそうだ。


「あ、まだ寝たらダメだからね。年越しまでは起きてて」

「ああ、そうだな……」


 口ではそう言っていても、ひざまくらと穂香の手が睡魔となって襲ってくる。


「ふああ……」


 思わずあくびが出てしまった。テレビでは年越しまで30秒と言っている。

 そして、あと10秒というところで穂香がいきなりキスをしてきた。


「……っ!」


 完全に不意打ちされてビックリした。しかも軽く唇を重ねる方ではなく、ディープな方ときた。どうやらこのまま年越しを迎えたいようだ。そんな意識が伝わってくる。

 超至近距離ながら、目の前の穂香の顔が赤くなっているのがわかる。普段は目を瞑っているのだが、今回は目を開けている。視線が合うと、唇は繋がったまま微笑んでくれた気がした。

 年越しのカウントダウンが0になり、新年を迎える。それまで静かだった携帯に友人からのメッセージが届き始める。去年は浩介と菜摘だけだったが、今年はそれなりに友人も増えたので、去年よりは多いはずだ。穂香の方は相変わらず鳴りやまないくらい来ているようだ。

 どれくらいしていたのか……お互いの携帯に通知が来なくなってしばらくしてから、どちらからともなくゆっくり離れた。


「……えへへ……しちゃった……」


 頬を赤らめながら舌をペロッとだして微笑む穂香。いつも一緒にいて、色んな表情を見慣れているはずなのに、自分の顔が赤くなるのがわかった。

 今回のこの不意打ちは菜摘の入れ知恵だろうか?まぁ、その可能性が高そうだ。


「あ、遅くなっちゃったね……あけましておめでとう」

「ああ、あけましておめでとう。こんな体勢のまま言うことになるとは思ってなかったけどな」

「ふふっ……来年もする?それとも他にしたいことある?してほしい服装とか?」

「いいのか?でも、他にと言われても急には出てこないな……」

「じゃあ、ユウ君が好きな恰好ランキングから、勝手に選ぼうかな……」

「ん?そんなのいつできたんだ?」


 俺の知らない間に知らないランキングが形成されているとか。


「もちろん、私の独断と偏見で」

「おいおい……その中身はどうなってるんだ?」

「詳しくは秘密。今年一年で中身に変動があるかもしれないし……でも、ベスト5にメイド服は入ってるよ。ユウ君好きだよね……あの服」

「うっ……まぁ、そうだな……」

「ユウ君だけじゃなくて、男子はみんな好きみたいだけどね。この前の衣装、彼氏持ちの子は大体みんな使ったらしいよ……うちのクラスの女子」

「えっ、そうなのか?」


 おいおい、大丈夫かうちのクラスの連中。俺も人の事言えないが、みんななかなかやるな……俺以外は浩介くらいかと思っていたのに。


「うん、ユウ君がダントツだとは思うけど……私、毎週ご主人様って言ってる気がするよ?」

「いや、そこまではないだろ?」


 俺は穂香にご主人様呼びをしてくれと言ったことはないので、穂香が自主的にやってくれているのだが、やめてもらう必要はないのでそのままだ。正直言うと、やめてもらっては困る。


「ふ~ん、そんなこと言うんだ……じゃあ、半年に一回くらいでもいいの?ご主人様?」

「なっ……そ、それはちょっと……せめて今と同じくらいで頼む」

「……やっぱり、ランキング上位は確定よね……」

「他のがかなり気になるんだが……」

「他のは恥ずかしいから秘密……それだけで大体わかるでしょ?」


 なんだ?気になるが恥ずかしいという事は、水着とか下着とかそういうのか?他に俺がそんなに食いついた服装はなかったと記憶しているんだが。

 しかし、新年早々こんなことを話している俺達は平和だなとも思う。しかもずっとひざまくらだ。結局、穂香が熱い珈琲をいれてくれる時まで、俺の頭は至福の時を過ごすことができた。


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