第6話 女神様と初めてのお出掛け

「というわけで、買い物に行きましょう」


 次の日、一ノ瀬は休みなのに朝早くから来て、ちょこちょこっと掃除を済ませていた。


 結局、食事に関しては、一ノ瀬が来れるときは毎食作ってくれることになった。

 全て一ノ瀬任せにしては流石に申し訳なさすぎるので、洗い物は基本的に俺がする。食費に関しては、元々、俺の方が食べる量も多い(一ノ瀬の1.5倍以上)こともあり、ここは一ノ瀬の反対意見を聞かずに俺が全額出すことを納得してもらった。


 それでも、今までのコンビニ弁当&外食暮らしに比べればかなりの節約になる。更に、美少女と一緒に手料理を食べられるというおまけ付きだ。

 俺の方にメリットがありすぎて、申し訳ない気もするが、一ノ瀬も楽しそうにしてるのでいいかな、と思うようになってきた。


 俺の部屋で料理を完結するにあたって問題なのが、調味料などが圧倒的に不足していることだ。今まで料理なんてしなかったのだから当たり前なのだが、事実、塩と醤油くらいしかない。


「いいけど、一緒に出掛けるのか?」

「ええ、その方が効率いいじゃない。何か問題あるの?」

「問題しかない気がするぞ。休みの日に一緒に出掛けてるところをだな、学校の人間に見られでもしたら、面倒しか起きないだろ?」


 そんなことになったら、明日以降、俺はよろしくない意味で学校の有名人になってしまう。一ノ瀬の方にも、普段より多くの人が押し寄せるだろう。お互いにリスクしかない。変な呼び出しとか勘弁してほしいしな。


「じゃあ、どうしよう?何かいい方法はない?」


 方法はないこともない。仕方ない、アレをするか。


「ちょっと待っててくれるか?」


 そう言って、洗面所へ行き、ワックスを手に取った。俺は普段から、目が隠れるくらい前髪を下ろしているのだが、それをやめて髪型を変える。で、ちょっとカッコいい感じの伊達眼鏡かけて、と。


「待たせたな。これならどうだ?」

「っ!!」


 一ノ瀬が驚いた表情を見せ、固まっている。あれ?失敗したか?


「ダメだったか?」


 そう言うと、首をブンブン振って否定しながら、顔を赤くしている一ノ瀬がいた。


「そんなことないない……大人っぽいし……カッコ良くて……ビックリした……」

「そ、そうか?」


 一ノ瀬にお世辞でもカッコいいとか言われて、ドキドキしてる俺がいた。多分顔も赤くなってるだろう。我ながら単純な奴だ。


「うん……これならパッと見、相沢君だとはわからないかも?別の意味で注目集めそうだけど」

「たまに一人で出掛けるときは、これで行ってるからな。今までに、クラスの連中とすれ違った時もバレたことないから、大丈夫だろ。問題は、一ノ瀬の知り合いに会ったときだな」


 俺はバレなくても一ノ瀬はまるわかりだからな、知り合いに会ったときの対策は必要だ。俺の事をどう話すか考えておかないと、後々面倒になる。


「……いとこのお兄さん」

「はい?」

「年上に見えるし、相沢君にもあまり迷惑かけないと思う……」


 まぁ、確かに無難な選択だな。それなら、一ノ瀬の信者達もあまり刺激しないで済むだろう。


「じゃあ、そういう設定でいこうか、一ノ瀬」

「……穂香」

「ん?どうした?」

「いとこなら名字呼びは変でしょ?だから、ほ・の・か。名前で呼んで?」

「わかった……穂香、俺の方はどうするんだ?」


 いきなりのフリには緊張したが……菜摘で慣れてなかったら無理だったな。


「そうね~優希さん……は、微妙だなぁ。優希君……も、ちょっと違う気がするわ…………お兄ちゃん……はどうかな?」

「いや、それは勘弁してくれ。もしも、バレた時がヤバい」


 正確には、バレなくても俺の精神力が持たないのだが、穂香にお兄ちゃんって呼ばせるのはヤバすぎる。どんなご褒美だ。

 菜摘にお兄ちゃんって呼ばれるならわかる。見た目からして年下に見えるからな。


「じゃあ、ユウ君……ユウ君って呼ぶね。それならいいでしょ?」


 まぁ、これならいいか。あまり変なのになると困るし。穂香も普段より機嫌良さそうな感じだし、あえて機嫌を損ねる必要もない。


 こうして、初めて二人で外に出かけることになった。

 俺たちのマンションは駅から徒歩15分と、歩いて行動するにしてもなかなかいい立地だ。近くには大型スーパーや、飲食店などもそれなりにあるので、普段の買い物などに困ることもない。

 しかし、さっきから周りの視線を多く感じる。


 主に穂香のせいなのだろうが。今日の穂香は薄手の淡い水色のワンピースで、裾から覗く健康的で瑞々しい素肌、秋の少し優しい日差しに煌めく美しい黒髪。普通にみんな二度見していくのは、見ていて新鮮だ。


 これだけの美少女と、一緒に並んで出掛けることになろうとは、昨日までは全く思ってなかったが……やはりというか、穂香と並んで歩くと、それだけで注目を集めてしまう。


 俺も一応変装?してるし、バレなければいいか……穂香にはかなり世話になってるしな。


「なぁ、穂香……お前って外に出かけると、いつもあんなに周りの視線集めるのか?」


 丁度、昼飯時だったのもあり、昼は外食にしようということになり、ファミレスに入った。


「ん~あまり気にしないようにしてるけど、普段より多かったかも?でも、半分はユウ君に向けてだと思うよ?」


 そんなことはないだろう。この格好で今までに出かけた時は、そんなに周りからの視線は気にならなかった。

 俺に向けられている視線は、穂香の隣を歩いているということに対する、羨望と嫉妬のようなものが多いのではないかと思う。


「ユウ君、普段からその髪型にしてればいいのに……きっとモテると思うけどなぁ?」

「そんなことしたら、無意味に目立つだけだからな。それは避けたい」

「ふ~ん、なんか勿体ない気がする。なんかね~ユウ君って、同級生って言うより、年上のお兄さんって感じがするのよ。あ、老けてるとかそういうのじゃないよ?」


 確かに、前世を合わせれば同級生よりは長く生きてるが、精神年齢的にはそんなに変わらないと思うんだが。

 俺の性格とかは、勉強(魔法含む)と筋トレばかりしてきて、一人で過ごす時間が多かったから、同年代よりはひねくれているかもしれない。


「だからね、私としては、他の同級生よりも話しやすいし、いいんだけどね。しっかりしてそうなんだけど、私生活滅茶苦茶なところがね~」

「それを言われると何も言い返せない……」

「でも、私がいる間は、しっかりした生活送ってもらうし、不摂生なんてさせないから覚悟してね?」

「ああ、それはめちゃ感謝してる……あと、これからも頼む」

「えへへ……もちろん、こちらこそよろしくね」


 結局、買い物して家に帰るまで、他愛もない会話を続けながら楽しく過ごせた。

 今日一日で距離が縮まったような気がするのは、俺だけだろうか?

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