おれがクナピトル・ウェミナンシをしていたときの話
逢坂 新
第1話
おれ五年くらい前に工場で働いてたんですけど、その時に労災事故やっちゃったんですよね。
電球を変えるためにパレット積み上げて、それフォークリフトで上げて。そんでパレットがぐらぐらっと倒れてさ。七、八メートルだから、地上三階くらいかな、そのくらいの高さからバーンと落ちちゃって。
頭から落ちたから、もう即死だよね。首の骨からゴキリィって音してさ、ヘルメットとか意味ないない。
そんでさ、行ってきちゃったのよ、異世界に。ビビるよね。
あ、女神? なんか会ったような気もするけど覚えてない。チートとか貰えなかったから、多分会ってないんじゃないかな。とにかくフワーッて温かくなって、目が覚めたら馬小屋の藁の上だった。
最初三日くらいは、こう、ステータス画面開こうとして色々やってたわ。空中を指でスワイプするわけよ。「ステータス」、「ステータス」つって(笑)。
あとから現地の友達にその話したら「そんなもんあるわけねえだろ」って笑ってたな。
まあそれで異世界の話なんだけど、そこメンヒバッシ帝国っていうのね。そんでメンヒバッシ語、マジで難しいの。
「ノルニポカ・グバテー」ってなんだと思う?
ブブー、ちがいます。
正解は〝水〟のことです。そんで単に「ノルニポカ」って言った場合、〝酒〟って意味になんの。おかしくね? 普通逆だろ。
水が欲しくて片言で「ノルニポカ」、「ノルニポカ」って言ってたら酒がガンガン出てくるわけ。泡盛みてえな度数高いのが。
だからとにかく言葉覚えるのが大変だったよ。それでも人間ってすごくて、何ヵ月かで片言ならなんとかやり取り出来るようになるんだね。
英語とかも多分そうだけど、ホームステイとかで「もう英語使うしかない」って状況になったら片言でも覚えるしかないもんね。
まあ、そういうわけでその何ヶ月間が一番キツかった。言葉通じないと何も出来ないもん。
おれだって冒険者とかやりたかったけど、「冒険者ギルドはどこですか?」って言葉がわかんないし。だからもう、言っちゃっていいのかわかんないんだけど、盗みで食ってた。
あー、ごめん。仕事の話ね。
異世界に五年もいたらね、いろいろやりましたよ。言葉覚えてからはね。
特に面白かった仕事はクナピトル・ウェミナンシかな。知ってる? クナピトル・ウェミナンシ。
日本語で「ブルセラショップ」って言うんだけど。
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