不器用センパイとお馬鹿コウハイ

北上獺

第1話 ムカつくあいつ

 はっきり言っていけすかないやつだと思った。

 

「ここは絵を描くところなのだけど」


 その通りなのだ。私たちが100%悪いし、私たちだって道理を説かれて反抗するほどグレてない。ただ、そういったあいつの顔が綺麗すぎたから。怒るでも呆れるでもなくて、ただルールを読み上げるだけみたいに淡々とそう言われたから。


 私たちは何も言わずに第二美術室と書かれたそこを出て行った。


 その日たまたま見つけたばかりの溜まり場を追われた私達の空気は最悪だった。口数少なく、誰もがあいつのそれこそ絵みたいに綺麗な顔と、私たちの存在を無視したような口調を思い出して、ムカついていた。


 家に帰ってもあいつの顔がちらついた。


 私は不良だから怒られることには慣れている。それでも、一言言われた言葉がこ

んなに尾を引いたのは初めてだ。

 

「なんだよあいつ。むかつく」


 あんなに綺麗な顔に、まるで虫を追い払うように扱われたら、ムカつくに決まってるのだ。


 むかつく!むかつく!むかつく!頭の中で顔を思い浮かべながら悪態をついてたらいつのまにか眠った。

 

次の日起きても頭の中にはあいつがいた。一日経ってもあいつの澄ました表情は変わらないし、悔しいけれどハッとするほど綺麗なままだった。


 綺麗でもあんな性格じゃモテないに違いないとか、あんなやつでも彼氏の前なら笑うのかなとかいやあれじゃ彼氏どころか友達も怪しいなとか色々考えてたらお昼になって、思いがけずあいつの話が出た。

 

「黒森楓って言うらしいよ。あの女」


 「あんな性格でしょ?絵が上手いらしいけど美術部からもはぶられて、いつもあそこで一人で描いてるらしいよ」


 友達居なそうだもんねーとかなにそれ暗笑とか、みんなでしばらくあいつの悪口で盛り上がってる最中も、私はあいつの顔を想像していた。


 友達いないのか。じゃあやっぱり、あいつはいつもあんな顔をしているのだろう。笑いもせず、こうやって陰口を言われても泣いたり歪ませたりせずに、楽しいことも悲しいことも興味ないのよって顔をして、一人であの部屋にいるのだろうか。


 聞いてる?って言われて我にかえる。

 

「やべ!ぼーっとしてた!なんの話?」


 だからさ、あいついつも授業が終わるとあの部屋に行って、毎日6時には帰るらしいんだよね。その後であの部屋行ってさ、


 「あいつの絵、汚しちゃおうよ」

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