雪国/川端康成

二十歳の頃に読んだ時、「果たしてノーベル文学賞を受賞する程の作品なのだろうか」という感想を持った。二十年を経て再読し、本作の醸す美しさの片鱗に、やっと触れる事ができた気がする。本作は、四年に渡って分載されたが、縮の村と火事の場面は十年後に「新雪国」として書き足されたと聞く。いま読んでも、新雪国のパートは蛇足ではないかと感じてしまう。旅館の部屋から二人で牡丹雪を眺め、冬の訪れを知る場面で終わってくれればと願うのは、いまだ作品を読めていないのだろうか。戦中という時代背景を重ねると、より深みが増すように感じた。


◇蛇足

「雪だろ?」 「ええ」と、駒子は立ち上って、さっと障子をあけて見せた。 「もう紅葉もおしまいね」  窓で区切られた灰色の空から大きい牡丹雪がほうっとこちらへ浮び流れて来る。なんだか静かな嘘のようだった。島村は寝足りぬ虚しさで眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る