◆Ⅳ

 少女は小さな妹と母親を眼下に見つけ、そわそわし始めた。彼はといえば、その状況に焦るより、少女の挙動不審なふるまいに目が行っていた。あんなふうに木にぴったりと密着したところで、白と黄色の明るいTシャツが目に入れば、一発で存在がわかってしまう。


 見つかったところで、少女が言うほど深刻な事態にはならないような気がした。たしかに怒られはするかもしれないが、少女のことだ。すぐに開き直って、どうにかしてまたここに戻ってくるだろう。


 少女の母親は、1歳にも満たない赤ん坊を膝に乗せてゆっくりとブランコをこいでいる。お姉ちゃんはどこだろうねと話し合いながら。


 何の変哲もないのどかな昼下がりの光景だったが、彼はどきりとした。急に息苦しさを覚える。


 そのとき、少女の妹と目が合った。


 それは、わたしのお姉ちゃんだから!


 そう言われているように感じた。

 彼は初めて焦る。唯一の友だちと引き離されてしまうのではないか、と。


 母親が妹を連れてこちらへ近づいてくる。


 それまで抑えていた衝動が彼を支配する。

 少女を連れ去ってしまおう。そうすれば、少女は難を逃れることができる。


 彼は少女の同意を得た。

 彼は少女の手をつかむと、いつもより荒っぽく世界を閉じた。

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