◆Ⅱ
実家から逃げ帰ってからというもの、彼の母親のヒステリーは凄みを増していた。そしてそのあとに来る虚脱感の波も大きくなった。目を離せば何をするかわからず、彼は外に出ることができなかった。ようやくいくらか落ち着いてきて、弁当屋のパートへと復帰したのが2日前のことである。
彼は久しぶりに公園へ出向いた。自由は嬉しかったが、気分は沈んでいた。それまで毎日会っていたのに、一週間も無断でいなくなっていたのだ。きっとあの少女も愛想を尽かし、ほかの子たちと遊びまわっていることだろう。自分のことなど忘れて。初めて友だちと呼べそうな相手ができたのに、残念なことだ。
しかし、彼の予想とは裏腹に、少女は堂々と姿を現した。
ベンチに座っている彼を見つけて目を丸くしてかけよってきて、母親が手あたり次第投げつけてきたものでできた傷跡を見て心配そうにわけを聞いた。彼は木から落ちたのだといってごまかした。
驚くべきことに、少女はこの一週間ずっと彼を探し回っていたらしい。涙ながらに訴えられ、彼は大いに戸惑った。誰かに長らく待たれるのも、目の前で女の子に泣かれるのも、初めてのことだった。
だから紫陽花屋敷に行こうなどと血迷ったことを言ってしまったのだ。あそこは、あの部屋には、誰も近づかせてはいけなかったのに。
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