色を抜かれた子。
僕は愛されていたのだろうか。
愛おしい父と母。
強い西陽に焼かれ、横たう。
蜩は命を燃やし、僕を美しさと哀愁の入り混じる感情にさせる。
母の甲高い声が耳の中で蠢く。
「どうしてみんなと同じように出来ないの?」
父の優しそうな声が耳の中で蠢く。
「どうしてこれが出来てみんなが出来ることが出来ないんだ?」
僕の居場所は生まれ育った、落ち着くあたたかい家ではなかった。
「君はどうして周りと同じように出来ないんだ?」
僕は外に駆け出したが家の中も外も世界は同じだった。
「周りと同じように…」
「みんなと同じように…」
外に出ても街にいる人はみんな色を抜かれた透明人間だった。
「僕は…」
父と母も透明人間。
「僕は…」
学校の先生も透明人間。
「僕は…」
友人達も色を抜かれ、殆ど見えなくなっていた。
「僕は」
色の無い人間しかいない世界。
色のある子供は色を抜かれ透明人間にされる。
褒められたかった?
何をすればいい?
みんなと同じように。
みんなが出来ることを出来るようになればいいんだよ。
周りが出来ないことは出来なくていいんだよ。
だってみんな出来ないんだから。
「どうして?」
あの子は凄いね。
子供の頃は貧乏な家だったのに年収100億円だって。
12歳で大学卒業だって。
あなたも社長になってよ。
こんな事言うのに。
「どうして色を抜くの?」
透明人間に愛はあるの?
「僕は愛されたかった」
あやつり人形があやつり人形を作る世界。
「僕は…」
日が沈んでも赤い父と母を見る目は涙を流していた。
僕を操るあやつり人形は肉の塊に進化していた。
でも、肉の塊は動かない。
「僕は何をしたらいいんだろう」
みんなと同じように。
みんなと…
同じように…
包丁は首にゆっくりとめり込む。
みち
にちにち
にゅちぃぃ
次第に身体に力が入らなくなっていく。
視界には白黒の斑点が踊り始めていた。
温かい肉塊は冷たい床に激しい音を立て転がり動かなくなって…熱を吸い取られていく。
「あぁ…僕、褒められるかな…」
そして、僕は周りと同じように死んだ。
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