第3話 金玉均(きんおうぎょく)

        金 玉 均




B 久しぶりやな


A そうやな


B どこか旅行にでも行っていたんか


A そうや


B ある人の頼みで、歴史的な仕事をしておるんや


A また


B ほんまや


  おまえに説明するのは骨が折れると思い、用意してきた


  「金玉均」の文字を示す 


  読めるか


A 当然や。


  Aの心の声 (こいつ俺のことを無学と思っている。しかし口にするのは恥ずかしいな。しかし、読まなければ、総理大臣が漢字を読めなかったと恥をかかせられたと一緒や。笑いものにするつもりや。口にするのも恥ずかしい。笑いものにもされたくない。名前としては恥ずかしけど、ええ言葉や。キンタマヒトシ。後ろに座るイケメンの先生方一物も、自分の一物と同じと言うことや。しかし現実には違うよな。故郷に帰るたびに公務員になって残る同窓生は子どもを増やしておる。子どもを造るたびに国から金を貰えるとニコニコしおる。ええことして金が貰える。うらやましいな。家族も持てないワシの代わりにええことして、子どもを造りおる。ワシは一物を使ったこともないのに。)


       迷いながら、モジモジと歩き回る


B 何をしとる。やはり読めないのか。 


A 心の声(やはり物笑いにするつもりだ。一気に大声でカタをつけてやる)


  キンタマ ヒトシ (問題がありすぎます。紙に書いて観客に示すことも一案でしょう)


B ハリセンで思い切り、Aを叩く


  阿呆。


  なんちゅうことを。


A 何をするんや。おぬしが読めと言うから読んだや


B 放送禁止用語を怒鳴って。


  漫才デビューなど吹っ飛んだわ。


  立場をわきまえろ。


  すべておしまいや。見ろお客様を。


  青ざめているぞ。


A ワシも迷った。でもおぬしが読めと言ったから、読んだんや


B 無学なおまえに期待した責任は俺にもある。


  いいか。キンオウギョクと読むんだ


A どこが。


  A(玉の文字の点を示し)オウとは読めんわ。タマとしか読めん  


B やはり学がないの。


  このカタは隣の国の偉い革命家。


  客席の皆さん、今日のことはワシが事情を説明しますから、忘れて下さい。


  この方は韓国の方で科挙試験という偉い難しい試験に合格されたエリートや。しかし当時の朝鮮国の行く末を憂えて、日本の明治維新に学べて政権打倒のクーデターを起こした。明治17年の頃や。明治17年と言うと、明治維新から17年後のことだぞ。ところが3日間でクーデターは失敗、日本に亡命し、刺客の手から逃れ東京や札幌、小笠原諸島など日本各地を点々とした。ところが革命の闘志を消えず、上海に渡ったが、そこで刺客に、パンパンとピストルで暗殺された。明治27年のことや。明治27年というと日清戦争開戦の頃や。この方の暗殺事件が日清戦争の引き金になったと指摘する学者にいる。


しかも遺体はバラバラに切断されて、朝鮮各地に路上に晒された。


A はあ、偉いな


B どうもピントきていないな。


  はなこの方は誰や。(と言いつつ、分厚い財布から1万円札を取り出す)


A わあ一万円札や。(と叫び思わず手を伸ばそうとする)


B この方は知っているか


A 知らない筈ないだろう。それより、そんな大金、どうした。


B ええから。


A ,沈黙


B 本当は名前を知らないやろ。仕方はないから教えてやる。福沢諭吉さんや。


  明治の大教育者や。


  慶応大学の創始者や。


  この人たちか中心になってキン、いかん思わず放送禁止用語を口にしそうになった。


  キンオウギョクの日本での逃避行を助けた。


A 偉かったんやな。(言葉とは裏腹にAの目はBの一万円に釘付けになって動かない)


B 天は人の上に人を造らず。人の下に人に造らず。


A 心の声(キンタマ ヒトシと同じことや)


  Bの心の声に、AはハリセンでAを叩き、言葉を続ける。


B ぽけやくとはホンマに腹立つ。こいつな元屋ではいつも最近、結婚したことでノロケまくっているんや。こんな顔の女性やけど少しは羨ましい。まあ、一人Hの回数では負けんけど。羨ましいな。


A  (ハリセン連発)


 何てことを考えるんや。


 しかし、人間には差があると福沢先生も認めておふ。学がないから仕様がない。だから人間は学ばねばならないと言った。


B 何で怪談士のおまえが、そんな世界に関係するうや。


A (ハリセンをならし) よくぞ聞いてくれた。


  いいか、ある偉い先生が偉い仮説を造りはった。


  幽霊はいる。いなければ自然の摂理に反すると。


  この金王均のような悲劇的な人生を送った人間が報われる。


B ハア。幽霊がいる。


A そうや、今は人間のカンが鈍くなって見えない。しかし将来、それを補う機器が開発される。あるいはわしのような感の鋭い人間が現れて、先生の学説は証明される。ノーベル賞なみの仮説だ。


B ノーベル賞ね。


A そうや。日本のノーベル賞受賞者の多くは仮設を打ち立て、それが後年に証明され賞をもらった。


B 要はお主の言う先生も、それにあやかろうと。


 御自身の仮説を証明する手伝いを言いつかった。


 はあ (頭を振りながら、しきりに感心)


  それで、お主が姿を見せなかった理由と、どういう関係が。 


A まだ説明せねばならんのか。


B 要は、東京にある青山墓地に寝泊まりして、キンオウギョクの霊と交信を図っていたと。  


A そうや


 


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