ヴァルキリーおかあさん

アズサヨシタカ

第1章 ヴァルキリーとトリックスター

第1話 どこのどなたか存じませんが?


 唐突だが────。


 下校中、いかにも浮世離れした美人の姉ちゃんが現れて、いわくありげな様子で近づいてきたら、どうするべきだろう?


 さらにそれが、異世界ファンタジー全開な相手だったりしたらどうだろうか?


 具体的には今、俺の目の前にいるようなヤツだ。


 キラッキラの金髪ロングに、青い瞳をした白人の美女。

 煌めく光沢の金属甲冑プレートメイルに身を包み、腰には長剣を提げて、背中に盾まで背負ってる。


 まさにゲームに出て来る女騎士とか戦乙女みたいな感じのそいつは、出会い頭、実に流暢りゅうちょうな日本語でこう言った。


「わたしは、貴方を守るためにやってきた」


 容姿に違わぬ澄みわたった、そして、格好に違わぬ凛とした響きの美声。

 人気のない夕暮れの高架線路下道路。

 薄暗い中でも、その女の姿はまるで淡く輝いているように感じた。

 現実の中に舞い込んできた、浮世離れしたこの展開。


 さあ、こんな時、どうするべきなのか?


「あ、もしもし、事件です。刃物を持った不審な外国人に絡まれていまして……」

「待ってくれ! わたしは決して不審者では……!」


 110番通報の半ばにて、そのコスプレ女はいかにもハッとした様子で頭上を見上げると、そのまま一瞬で俺に飛びかかってきた。

 ほとんど体当たりされる形で突き飛ばされる俺。

 直後に響いたのは、ガァーン! と、滑稽なまでに盛大な金属音。


「うぉ! 何だ……!?」


 高所から落ちてきたタライが頭に直撃した音だ。

 いや、比喩じゃなくて、ホントに金属製のタライが降ってきて、目の前のコスプレ女の脳天に直撃したんだよ。何だこりゃ?

 グラリと傾いた女は、そのまま仰向けにブッ倒れて気絶してしまった。


 何この状況? 何でタライが降ってくんの?


 けど、形としては、この不審な女が俺をかばって助けてくれた……ってこと? ある意味、宣言通りにのか?


「……わけがわからん……」


 思わず呻きながら、とにかく電話の向こうに説明再開&救急要請。

 見たところ出血はしていない。一応は助けてもらった立場だし、放置して立ち去るのも心苦しい。が、手当てしようにも、頭を打った以上はヘタに動かすのは危険だ。


 不安と動揺に駆られながらも、とにかく警察や救急が駆けつけてくれるのを待つ。


 何というか、近頃の現実って、けっこうエキセントリックですよね。


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