夏だー! 海だー! 海水浴だー! 編
世界三大〇〇
夏だー! 海だー! 海水浴だー!
雲ひとつない晴天に向かって、テンプレ台詞を太一が叫ぶ。そう。今、太一たち御一行は真夏の砂浜・サマービーチにいる。
「よくそんな大声で言えたもんね」
「い、良いんじゃないかしら。本能むき出しのマスターも」
太一の絶叫を、冷ややかに嘲笑するあおい。歩み寄って肯定的に捉えようとするあゆみ。幼い子供のようにはしゃぐ太一を見る目は、それぞれに違う。太一は、そんなことはお構いなしに、本能をむき出しにしている。だが、日供祭を終えて直ぐに電車に乗ってやって来た太一を空腹が襲い、だらしなくグゥーという音を響かせる。
「みなさーん、朝ご飯を買ってきましたよ!」
「うぉー! 優姫のチョイス、さすがだ!」
「わーい! 焼きそば、焼きそば!」
早速優姫が買い物上手振りを発揮する。めちゃ盛り3皿で500円だ。そうでなくても高い太一のテンションをさらに高める。一方では、冷ややかにじと目で見る者もいた。あおいとアイリスだ。いつもは反目しあうことの多い2人だが、このときはお互いの意見が一致する。太一のために折角大胆な水着を着ているのだから、ポッコリお腹だけは避けたい、と。
「あおい、アイリス。気に入らなかったかしら……。」
「優姫、気にすんな。早い者勝ちだぞ!」
「そうだよ、そうだよ! なくなっちゃうよ」
結局、2皿を太一とまりえが完食。最後の1皿は優姫が半分食べ、残りをあゆみとまこととしいかが食べるのだが、あおいとアイリスは手をつけなかった。
「あぁー、食った食った!」
「食った食った!」
砂浜に直に寝そべる太一とまりえ。仰向けになり手足広げ、大の字になる。少し遅れて優姫が太一の横を陣取る。あおいとアイリスは、3人の食って寝るという本能むき出しの行動を羨ましそうに眺める。こういうときは、本能のままに行動する方が楽しいのだということを、本当は2人とも知っている。乗り遅れを実感しながらも、強かに次の機会を待つことにした。
「はぁー、眩しいー!」
まりえを、夏の太陽が容赦なく照らす。まりえは左の手首辺りを瞼の上にそっと乗せる。その弾みで右手が動き、太一の左手と重なる。
「まりえ!」
「マスター!」
名を呼びあいながら、今度は視線を重ね合う。
「まずいわ、この状況!」
「ええ。まずいですわ!」
あおいとアイリスがいくらほぞを噛んだとしても、幸せいっぱいお腹いっぱいの2人に割って入ることはもはや不可能に思われた。唯一優姫が食らいついているが、2人の間に入り込むまでには至っていない。それを、さらに決定付けることが起こる。
「あっ、いけない! 日焼け止め塗るの忘れてたー!」
「ったくー。どれ!」
太一は、まりえの化粧袋を漁って、日焼け止めを取り出した。そして、既にわがままボディを反転させて腹ばいになっているまりえに塗りはじめた。白い砂がそれよりも白いまりえの肌に吸い付いているのを器用に払っては日焼け止めのクリームを塗り、また払っては塗った。
「あのー、マスター。私もお願いします!」
「順番、順番。2人ともしゃーねーなぁ!」
太一とまりえ、上手に追随する優姫を含めた3人を、幸せのオーラが取り巻く。その空間を睨みつける凄い目が4つあることを、3人は気付いていない。
「ぷはーっ、サイッコー!」
太一がラムネを器用に一気飲みする。だが、左側に続くはずのまりえのぷはーっは、聞こえてこなかった。太一が気になり視線を向けると、そこには涙目のまりえがいた。ラムネが上手く飲めないのだ。
「ふぇーん。全然マスターみたいに飲めないよ」
ラムネを持った右手は、胸の中央に据えられている。右のおっぱいが少し潰された分、左のおっぱいが頑張っていて、太一からだとラムネの容器を透かしてしっかりと左のおっぱいが見える。陽光も相まって、幻想的かつ官能的にその姿を映している。
「しゃーないなぁ。こうするんだよ!」
太一はまりえのラムネを奪い、飲みはじめる。
「(ゴクゴク)いいか、こうやってだな(ゴクゴク)90度より上げないようにするんだ」
「おぉーっ、さっすがマスター! って……。」
そして太一は、勢い余ってまりえのラムネを飲み干してしまう。
「……ぷはーっ。ごちそうさん!」
「ひっ、ひどい!」
まりえが太一をぽかぽかとタコ殴りする。
「まぁまぁ、まりえ。私のを半分あげるから」
「そういう問題じゃないもーん」
「いっ、いてぇいてぇ! 悪りぃ悪りぃーっ!」
太一は少しだけ反省しながらも、きゃっきゃと騒ぐ。一層強まる幸せのオーラ。それを睨む目の数も次第に増えていた。太一たちの周りを陣取っている無数の男たちの嫉妬の目だ。
あゆみとまこととしいかの3人は、太一たちと少し距離を置き、サングラスをかけて寝そべる。それは、一見すると太一たちとは別グループであり、3人連れには不釣り合いに大きなタープを見逃した愚かな海の男たちの、獲物となる。
「ねぇ、君たち。一緒に泳がない?」
「……。」
「……。」
「……。」
「こんにちは。俺、一目惚れしちゃって!」
「……。」
「……。」
「……。」
「男ばっかじゃつまんないから、みんなでおしゃべりしない?」
「……。」
「……。」
「……。」
ナンパの仕方は、人それぞれだが、結果は皆同じ。ガン無視である。太一にしか興味がない3人が、他の男になびくはずはないのだ。だが、全く庇ってくれない太一にほんの少しだけイラついてしまう。そんな中、3人の反応を引き出したグループが現れる。
「ねぇ、君たち。一緒にバレーボールしない?」
「……あっ!」
「何よ!」
砂浜でも目立つよう、白と青と黄色とに彩られたバレーボールを持った男。あゆみとしいかは思わず反応してしまう。見覚えがあるのだ。
「あぁっ!」
「何だ。君たちか。ってことは!」
男たちにもあゆみたちに見覚えがある。だから、キョロキョロと辺りを見回して、キャッキャと騒ぐ太一を見つける。
「ま、ってことはあいつらもいるってことっしょ」
まことは、あおいとアイリスに話しかけている、非リア感丸出しの冴えない男の姿を見逃さない。あゆみたちをナンパしていたのはたかたんたち、あおいたちにはなしかけていたのは卑裏悪のメンバーだった。
太一たち御一行は、4つのチームに別れてビーチバレー大会にエントリーした。大会は素人向けということもあり男女3人で1チームを構成すルールだった。太一とまりえと優姫が、チーム光龍として出場。あゆみたちはたかたんたちと、あおいたちは卑裏悪と、それぞれに手を組んだ。
「うぉっしゃー!」
「ザマーミロ!」
最もハッスルしていたのはあおいとアイリス。卑裏悪の一般人1人を仲間にしていたのだが、持ち前の跳躍力と反射神経の鋭さを遺憾なく発揮。ほとんど2人でボールを回し勝ち進んだ。ぷるんぷるん揺れるアイリスのおっぱいは観衆の目を釘付けにし人気となった。
「イエスッ!」
「ふん、よゆうよ、よ・ゆ・う!」
ハイタッチする2人。その輪に入ろうと卑裏悪の一般人が手を挙げるが、ガン無視されていた。その痛々しさに観衆は皆、涙したという。
「じゃあ、私が1人になるから」
たかたんたちと組んだあゆみたちはチーム構成に苦慮したが、あゆみが1人で男2人を率いるチームBを作ることになった。チームAはまこととしいかとたかたん。ほとんど揺れないこのチームAは、密かに活躍を見せ、準決勝に進出。チームBもSAIKYOUの精鋭があゆみをカバーし、余裕の勝利を重ねていた。
「わーい! また決まったよ!」
「まりえ、ナイスだ!」
「次も頑張りましょう」
光龍チームは、ポイントを獲得する度に中央に集まり円陣を組んだ。おっぱいは円陣の内側に向けられているため、観衆がそれを見ることは叶わず、太一が独占していた。はじめのうちは青春真っ盛りといった3人を温かい目といやらしい目を混ぜて見守っていた観衆も、度重なる見えそうで見えない円陣の中のことに、次第に嫌悪感を覚えるようになっていく。
準決勝第1試合。卑裏悪チーム対SAIKYOUチームB。この1戦は呆気なく終わる。
「いい、アイリス。序盤から全開で行くわよ!」
「もちのろん! あゆみが相手だからって、手加減はしないわ」
身体能力の高い元金魚たち。本気で闘えば、とんでもないことになる。我を忘れているあおいとアイリスは、その能力を惜しげもなく出し尽くす。熱り立つあおいとアイリス。だが、あゆみはもっと強かだった。アイリスのアタックが炸裂。あゆみが回転レシーブをするのだが、そのときだった。
「痛いっ!」
あゆみは右脚を捻ってしまう。苦悶の表情を見せる。それまではヤンヤヤンヤと囃し立てていた観衆も、ふと我にかえる。それはまるで、あおいとアイリスによる虐待のような図なのだ。
ーー何だ何だ!ーー
ーーいくら何でもかわいそうだぞーー
ーーそうだそうだ、やり過ぎだ!ーー
蹲るあゆみに向かっての声援が大きくなるのを、あおいもアイリスもただ黙って聞いているしかなかった。
「ぬぬぬっ、観衆の同情票を集めるとは!」
「あゆみ、卑怯なり!」
はじめのうちは正義のヒロインのような活躍をしていた2人だが、いつの間にかヒールへと様変わりしていた。だが、あゆみの策略は、それで終わらない。
「あぁーん。マスター、助けてー!」
その言葉に反応するように、太一がコートに登場する。そしてあゆみを負ぶってコートの外に出た。負ぶさるあゆみのおっぱいが、太一の背中を刺激しているのは言うまでもない。それでいて観衆は拍手を浴びせるのだから、おめでたいとしか言いようがない。
「くぅー、そういう手があったかぁ!」
「あおい、私たちも次に使うわよ」
「いや、次はもう決勝だから……。」
卑裏悪の一般人の突っ込みも虚しくあおいたちが勝利し、一足早く決勝に駒を進める。
準決勝第2試合は光龍チーム対SAIKYOUチームA。大会屈指の好ゲームとなる。
「太一くん、今日は負けないぞ!」
「たかたんさん……。」
まりえたちもしいかたちも、徹底的に拾い役に回る。そして、男と男の撃ち合いとなる。だが、太一もたかたんも決め手を欠いてしまう。角を狙ったアタックは、すばしっこい金魚たちに尽く拾われてしまうのだ。それでも、太一のホームラン級のアタックもまこととしいかが尽く拾うのに対して、まりえと優姫は堂々と見送っていたから点差は次第に開く。
「なんか、ズルくないか、太一くん!」
「俺は、知りませんよ」
結局、21対13という意外な大差で光龍チームが勝利した。
決勝の前に小休止がとられた。そのとき、観衆が目にした光景とは!
「ア、アイリス。涎垂らすの辞めなさいよ」
「で、でも、私だってさせて欲しいのよ!」
アイリスの視線の先にあったのは、まりえの見事な乳休め姿だった。次いで優姫も恥じらいながらも乳休めをした。しっかり休んで決勝に備える。勝負に徹したのだ。だが、これで闘志に火を灯したのがあおいだった。
「私はどの道乳休めなんて必要ないんだから!」
腑抜けたアイリスは、心なしか元気がなくなったおっぱいをぶら下げているだけで、この1戦に関しては、一切戦力にならなかった。それでも、良く食らいついていたのは、あおいの頑張りだった。
「くぅーっ! いよいよチャンピオンシップポイントよ。アイリス、何とかなさい!」
「だめぇ。もう、千切れそう……。」
こうして、変則3人制ビーチバレーボール大会は、光龍チームの優勝で終わった。
夕陽に向かって飛ぶカモメの鳴き声が砂浜に響く。表彰式を終えてから無事に乳休めをさせてもらったアイリスが元気と機嫌を取り戻す。残るあおいも、着替えたあとに振る舞われた海鮮丼に舌鼓を打つうちに、全てを楽しい思い出として受け入れることにした。
A「で、副賞は何だったの?」
B「うんうん。今度はバーベキューだね!」
C「ま、ゴリ押しって奴っしょ!」
D「あぁ、高原リゾートの宿泊券だよ」
E「凄いわ! 海の次は山ってことね! 日本の夏は楽しいなぁ!」
F「まぁ、まりえったら。食べ物のことばっかり!」
G「ふん、どうせ美味しいもの食べて終わりなんでしょうけど」
H「本当は3人分だったんですけど、8人分におまけしてもらっちゃいましたー!」
こうして、太一たち御一行の海水浴は幕を閉じた。
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