双骨の死霊使い~枯れない桜の木の下で、俺は骨(美少女)と出会った~

阿礼 泣素

第1骨「運命に抗え!死霊使い!」

 これは魔法も魔物も、果てには魔王も登場する世界のお話である。


「さあ、頼央らいおう、一人前の死霊使いネクロマンサーになるために、いってらっしゃ~い」


 まるで俺が旧知の友の家に行って来るのを見送るぐらい気軽な感覚で、俺を冒険へと旅立たせようとする母。俺はその恬淡てんたんな母親の姿に苦笑する。


「はは……死んだら俺を死霊使いネクロマンサーの能力で蘇らせてな」

 なんて言う冗談を言って、俺は長年住み慣れた家とさよならをした。


――そうだ、もう俺は、子どもじゃないんだ……


 期待と不安に胸を高鳴らせながら、俺は十六歳の誕生日を迎えた。


 黒瀬家の家系は代々死霊使いの家系で十六歳になると同時に、自分の眷属を作る。その後は、眷属と修行の旅に出ないといけない決まりになっている。


 しきたりとか言うのは正直古臭くて嫌だったけど、いつだって未知の世界に足を踏み入れるってのはワクワクするものだ。


「眷属かー。俺にはどんな眷属ができるんだろう……」


 眷属、それは苦楽を共にするパートナーだ。死霊使いは自分で戦う力は持ち合わせていない。だからこそ、仲間を増やして物量で勝つのが定石だ。


「最初の一匹選ぶのってやっぱり緊張するよな~ どの死体を使うかがキモなんだよな……」


 もちろん、最初から最強の相棒を味方につけることができればそれはラッキーだが、人生そううまくいかないことは分かっている。だけど、想像するくらいはいいだろう。


「いきなり最強のドラゴンとか、手に入れちゃったり? まさかの魔王とか……それはないかー」


 ニヤつきながら町のはずれまでやってきた俺は、傍から見れば不審者に見えたかもしれない。いかんいかん、あくまでポーカーフェイスを保つんだ。俺はただの死霊使い、今日から一人前の死霊使いになる男、黒瀬頼央なんだ!


 改めて気合を入れ直した俺は町の出口で、深く頭を下げた。

「今まで育ててくれてありがとう……俺、いってきます……っと、何だコレ?」


 コツンと俺の右足が何かにぶつかるのが分かった。せっかく未知の世界への第一歩だったってのによ……


「石……いや違うなこれって……」


 もしかして……骨? 昔から家には様々な動物の頭骨が飾られていたのですぐに分かった。これに降霊術を行えば、眷属が作れる?


「でも、こんな何の死体か分からない骨が最初のパートナーなんて……」


 俺は逡巡する。ここで俺の『はじめて』を終わらせてしまってもいいものなのか……街に出て一歩のところで都合よく見つけた骨なんて、そもそもあるのか……


 俺の胸中に猜疑心さいぎしんが生まれた瞬間だった。


 これって親の仕込み? こんな都合よく、骨が落ちている、なんてことがありえるのか? 

 きっと、俺が一人前の死霊使いになる前に死なないように、町を出て一歩のところにあえて骨を置いておいたんだろう。そうすれば、俺を見送ったあの悠々とした母親の態度にも頷ける。

 まったく、なんて過保護な親だ……

 きっとこれは強すぎず、弱すぎず、中級レベルの狼だとか鷹だとかそう言うモンスターの骸が用意されているのだろう。これはただの接待プレイだ。


「ふふふ、だが、俺はあえてハードモードを選択しよう!」


 母よ、俺を軟弱に育てておかなかったことを後悔するがいい!


 俺は腰に小刀を携え、無謀に無鉄砲に無策に平原へと駆けだした。


「今の俺なら運命にも抗える気がするんだ!」


 もちろんこれはただの中二的妄想で、実際に彼が運命に抗えるほどの力はなかった。しかし、実際のところ頼央は気分の高揚が、この全能感を生み出していることに全く気が付いていなかった……


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