夏の日と恋の在り処
坂神京平
第1話
七月も中旬に差し掛かった頃――
教室は朝から「昨日、
華原真雪は、
長い黒髪と白い肌が
学業成績は、つい先日実施された定期考査で、二年生の首席だった。
父親は「華原建設」という総合建設会社の社長を務めている。
ただ性格には淡泊なところがあって、愛想がいいわけではない。
彼女が在籍する二年一組の中にも、仲がいいと言えそうな
授業の合間の休憩時間には、大抵一人で読書していることが知られている。
自宅の近所にある図書館でも、しばしば放課後に日暮れまで本を読んでいると評判だった。
駅前の書店では常連客で、慢性的な活字中毒を
真雪が好んで読む本には、古典文学が多い。
こうした特徴を踏まえ、真雪を「容姿端麗な文学趣味の令嬢」と
少なくとも知的な美貌は、周囲の
親しい友人が多くないことは、決して
だからこそ今回の失恋に
〇 〇 〇
同じ教室に在籍する
晴彦は、川之辺高校二年一組の中でも、真雪と交流を持つ数少ない生徒だった。
互いに趣味が読書で、好む本の種類にも共通点があったからだ。
晴彦が最初に噂を耳にしたのは、朝方に登校した直後である。
自分の席に着くと、よく知る男子生徒が近付いてきて、話題に持ち出したのだ。
晴彦と日頃から親交のある、
まだ始業までは時間に余裕があって、真雪の姿は教室の中に見当たらなかった。
「いやあ、それにしてもびっくりしたよな」
京也は、鼻をひくつかせながら言った。
「まさか、あの華原さんがいつの間にか失恋していただなんてさ」
「たしかに事実なら僕も同感だけど、噂の
晴彦は、ちょっとそわそわしながら
降って湧いたような話に感じられ、
だが京也は、
「昨夜メッセージアプリで、うちのクラスの女子から回ってきた話なんだ」
情報提供者は、普段グループトークでやり取りしている級友のようだった。
真雪と特段親しくもない女子だが、
その級友が昨日の夕方、北区の高台付近を通り掛かった際に真雪と偶然行き会った。
当時の真雪は、図書館から帰宅する途中で、坂道を
そこで声を掛けて、元気がないがどうしたのか、と問い
すると、思いも寄らない答えが返ってきた。
――私、失恋したの。ショウちゃんに振られちゃった。
真雪は、心ここに
もしかすると本人も話す意思のない言葉を、無意識に
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