15歳 自分への手紙タイムトラベル

花田

第1話 時代の狭間 バトル 3 バトリオン

 



 吠え声、叫び、耳をつんざく。アドレナリンが瞼をこじ開ける。これが十五歳の無名兵士かっ。


 数百人の先住民が放つ石と竹槍が降る。左手にした盾で防ぎきれない。右腕から手の甲につけた鉄だか青銅器だかの板に何度も当る。頭の兜に、両肩に、膝にメタルを通した衝撃が走る。ここで自然に目を開けていられるほどヒカルにはスポーツの経験はない。が、まばたきをすれば鎧の隙間に竹の切っ先が刺さる。必死で周りを見続けた。


 僕んらは侵略者だ。


 先住民の武器は、僕の、ヘビーメタルで覆われた胸や頭に当たり、跳ね返り落ちる。その先住民たちには見覚えがある。懐かしい地元の人たちだ。次々と騎馬兵軍団に踏み潰され、立てる者は長剣の餌食になる。ヒカルが目の前の凄惨さに凍りついた瞬間、一人が尖らせた石を付けた槍を持って突進してきた。剣をかざして応戦!

 が、慣れない剣は重すぎて腕が上がらない。鎧で動きが取れない。


 ヒカルの眼前をどこからともなく現れた光る切っ先が走る。その竹槍が跳ね上がる。切っ先は戻る動きで地元民を裂いた。誰が自分を助けてくれたのか確かめる余裕もなくヒカルの視線はその地元民の両目に囚われた。


 その形相に飲み込まれると思った。


 切っ先の現れた方向から怒鳴り声が響く。「なにボケッとしてんだ!」その大声の持ち主も歩兵で、ずいぶん年上と分かった。ヒカルはこの男について行こうと決めたが数百人が入り乱れる中、見失ってしまった。重い剣を攻撃に使う技術は無い。左の盾と共に両腕でひたすら自分の体を防護した。怖くて後退しているうちにシカ皮をまとった先住民の方が多い場所に来ていた。


 青い線を全身に入れた男がシカ皮も脱げきったまま、ニヤリとしながらヒカルに竹槍を向けた。

 もうダメだ、

 瞬間、体が浮いて左に回転し、槍はヒカルの右わきをかする。槍の持ち主は頭だけが向こう側にのけぞり倒れた。ヒカルの首の後ろを左腕で釣り上げた巨人は馬上でヒカルを一瞥することさえなく先住民たちを右手の長い剣でなぎ倒し続ける。左腕の長い盾は手の甲に縛り付けてある。


 こいつがニニギか? そうだ、一番大きな馬に乗ってるからニニギだ、助けてくれたのか。

 感動しているゆとりはない。地上に放り出されバランスを取るために両脚を踏ん張った。倒れたら鎧の重みですぐには立ち上がれない。その間に攻撃される。


 ニニギの黒馬に蹴られないように! 誰かの武器に当たらないように! それでも、敵のはずの先住民たちは見たことのある顔ばかりなのは意識できた。


 土埃が舞う中、彼らの束ねていたはずの長い髪はほどけ、彫の深い顔の周りで躍り、空で跳ねる。体に巻き付けただけの皮はツル紐から垂れ下がり全身、己の血で真っ赤に染まっていた。部族ごとに特徴のある刺青も酷い傷の中に埋もれた。


 重金属にかなうわけがないんだ、防護力も破壊力も竹とは比較にならない。


 ヒカルは自分の頭と胸、腹を覆う鎧の重みを感じた。

 隙間だらけだけど無いよりはまし。隙間が無いと、もっと動けない。


 二百人ほどの侵略者は等間隔で舞うように剣を操る。先住民が見たことのない四足の化け物の前足は強く、上半身の手にある長い、輝く刃物の前に敵はいない。


 全身、バネになっている先住民の勇敢な美しい若人たちは次々に大地に倒れていく。そしてヒカルは戦闘する群れの向こう、鹿のように疾走する半裸の男に気がついた。侵略者たちの矢をすり抜けて後ろに回り込もうとしている。その戦略に気づいた侵略者たちに隙が出た。そこをついて別の先住民が騎馬軍団に滑り込む。渾身の竹槍が獣の太ももに刺さった。


「よう見ると!」竹槍の名手は叫んだ。「こいつら、化け物じゃなかと! ヒトとケモノばい!」その半人半獣は両前脚を高くあげ、切り裂く声を放ち上半身が離れて落ちた。「やっぱり化け物じゃなか! ヒトがケモノに乗っとるだけばい!」仲間は色めきたち狙いを馬に定める。


 しかし倒れた侵略者たちは立ち上がると次々に盾で槍を防ぎながら隊列を作り始めた。一人一人の盾を組み合わせ壁にする。その壁の内側から合金の矢が一斉に、統率なく戦う先住民の頭上へ飛ぶ。


 壁を作った隊列の真ん中に空から、とヒカルは思った。さっきの鹿が虹の弧を描き舞い降りて隊列を崩した。合金の矢が刺さったまま、先住民の男たちは崩れた隊列に素手で押し寄せる。


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